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第12話 勇者の出陣


 聖女の代理についての話はまとまったが、他にも議題は沢山ある。


 大半は私には関係のない国内の混乱を抑える為の政策だったり、人里に侵入した魔獣の討伐についての話だったので適当に聞き流す。


「それでは国民への告知と近隣国への協力要請についてはクロール卿、そなたに一任する」


「はい、心得ました」


「次に魔族の国との国境付近に現れる魔獣の対応についてだが、スワンプ辺境伯、今いる兵だけで対応できるか?」


「いえ、魔界と接している広大な範囲をカバーするにはとても足りません」


 ゾーランド公爵領を含め、魔界と接している領地は広い。

 数百、数千の辺境の守備兵だけではとても手が回らないだろう。


「そうであろうな、ならばティファル騎士団長よ、騎士団から選りすぐりの精鋭を可能な限り国境付近に回せ」


「はっ、仰せのままに」


 私がぼーっと眺めている間に、国内外の対策が次々と決められていく。

 聖女の代理についての話が早々に決まった以上、私がこの会議に出席している意味はもう何もないよね。

 私は退屈すぎてうっかり欠伸が出そうになるのを我慢した。


「では最後の議題だ。聖女シェリナの救出についてだが……」


「シェリナの救出!?」


 私は思わず声を出してしまった。


「む、キーラ嬢どうかされたか?」


 アルガノン陛下が訝しげに私を見る。

 いけない、うまく誤魔化さないと。


「い、いえ……私とシェリナはずっと姉妹のように育てられてきました。シェリナが連れ去られたと聞いた時は身が引き裂かれる思いでした。もし彼女を救いだせるのならば願ってもない事です」


「勿論最善を尽くすつもりだ」


「何卒、宜しくお願い致します」


 そんな訳あるか。

 本当に余計な事をしてくれる。

 シェリナはクロネの教会の結界石が漬物石にすり替わっていた事を知っているはずだ。

 もし帰ってきたらみんなに私がやった悪事がバレてしまうじゃない。


 こうなったら救出作戦が失敗する事を祈るしかない。


 いや、どうせ失敗するに決まっている。

 なんせ魔族に攫われてから一週間も音沙汰がないんだ。

 生きていたとしても無事でいられるはずがない。


 もし私が魔族の立場だったらどうするかを考える。

 すぐに殺してしまったら女神の神託によって次の聖女が誕生する。

 ならば殺さずに生かしていくのが得策だ。


 ただ閉じ込めておくだけでは祈りによる破邪の力で反撃を受ける。

 四肢を折り、身動きができない状態で牢にでも放り込んでおくのが手っ取り早いだろう。

 祝福の歌が歌えないように喉も潰しておかないとね。

 呪術で精神を壊しておけば自殺する事もできない。

 寄生魔獣を脳に埋め込んで操るのも面白いかもしれないね。


 後は死なないように胃にチューブでも繋げて栄養だけ取らせておけばいい。


 うふふふ……今のシェリナの状態を想像するだけでいい気分になってきた。


 私が今考えている事は絶対に表情に出ないように気をつけないと。



 その時、バタンと会議室の扉が開いて燃え上がる様な赤い長髪を靡かせた一人の青年が中に入ってきた。


「陛下、シェリナ救出の任務この私めにお命じ下さい」


「おお、オルトシャンではないか。我が国に戻っておったのか」


 オルトシャンですって!?


 オルトシャンはイザベリア聖王国最強の戦士であり、人は彼を勇者と呼ぶ。

 彼は弱きを助け強気を挫く英雄の見本のような人物で、聖女の力が及ばない諸外国を渡り歩いて民衆を苦しめていた多くの魔獣の討伐を成し遂げた英雄である。


 特に東方の国で暴れまわっていた深淵竜を討伐した時にはその話が瞬く間に国中に伝わり、国を挙げての祝宴が開かれた程だ。


 深淵竜は魔王クトゥグアよりも強いといわれた魔獣だ。

 それ以上の強さを持つ魔物は現時点では存在を確認されていない。


 事実上最強無敵の英雄である。



「旅先で我が国の聖女シェリナが魔族に攫われたという噂を聞きまして、急ぎ帰国をした次第です」


「うむ。さすがは勇者オルトシャンだ。そなたならば間違いはないだろう」


「はい、それでは直ちに魔界へ出立する準備をいたします」


 オルトシャンは会議室の皆に軽く挨拶をするとすぐに立ち去ってしまった。

 確かにオルトシャンならばシェリナを攫った魔族を討ち滅ぼし、その所在を見つけ出すかもしれない。


 私にできるのはシェリナが私の想像通りの再起不能な状態になっている事を祈るだけだ。







 ……いえ、もう一つありますね。


 お父様に頼んでシェリナの救出作戦が失敗するようにオルトシャンを妨害してやりましょう。


 我ながらいい考えだ。

 そうと決まれば早速妨害プランを練りましょう。


 あんな手やこんな手が湯水のように思いつく。


 もし世が世なら私は稀代の名軍師として名前を残していたに違いないわ。


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