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  作者: 谷口いるか
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城島蒼輔の燈



「こんちわあ〜太陽運送で〜す!お荷物お届けに参りましたあ〜。こんちゃ〜、、、、』

俺は運送屋では名の知れた太陽運送で働く地味で特に紹介することなんかひとつもないような男、城島蒼輔きじまそうすけ32歳 独身。うるせー


子供の頃から運動だけは得意だった俺は、親父が野球好きだったのもあって小学校から高校まで野球一筋の野球バカだった。野球を始めたばかりの頃は「俺はぜってープロ野球選手になる!!」と言い切ってまた心からそうなるもんだと信じ切っていた。小学生なんかは簡単なもんでそんな大口叩くやつを少なくとも信じる奴がいてサインをノートや筆箱に書いてくれなんて言う奴もいた。

小学生のときは“将来の夢”の作文を書かされても何も悩まなくてよかった。皆が横一列に並び、平等に足の裏から繋がる未来への光の道は手と足の指を全部足しても数えられないくらい沢山あってそれが当たり前で普通だった。


でも僕は今、不在だった家の荷物を抱え、代わりに自分の連絡先と再配達の予約の説明が記載された不在票を郵便受けに入れて「またかよ、、、家に居ねーならこの時間に指定すんなっつーの」とおきまりの愚痴を小声で吐きながらマンションのエレベーターを待っている。


こんな筈じゃなかった。最近ふとした時に思う事が多くなった。32歳 周りの友達は最近付き合いが悪い。口癖は皆「悪いっ早く帰んねぇとうちのやつがうるせんだよ」「今日は子供の迎えの日だから、すまんっ」ばっかだ。なんだよ、嫌味かっつーの、、、

俺の周りは30歳を超えたくらいから第二次結婚ブームだった。同じ野球部で仲が良かった奴らはほとんど結婚していた。実のところ俺も30で結婚だな〜なんて寝ぼけた事を考えていた。

 2年前30歳になった俺はプロポーズを決心していた。高校の頃の野球部のマネージャーだった篠原三春しのはらみはると付き合っていた。

高校の時の監督が定年退職となり監督をやめることになったと、当時バッテリーを組んでいた神谷光輝かみやこうきからの連絡で、俺らの代の部員が8年ぶりに集まることになった。俺らの学年はマネージャーが二人しかいなく、また一人は海外で仕事をしていたので集まりには来れないと言うことだった。高校生の頃は男女関係なくは仲がよかったが、8年ぶりで流石に女性一人では来にくいだろうと期待はしていなかった。 

だが彼女は来た。当時の面影を残しながら大人の女性になって、でも笑った時にでる尖った八重歯とくしゃっと目を細くするところは変わっていなかった。俺はあの頃のまだうぶで何にでもまっすぐだった頃の記憶が身体中に広がる感じがした。当時部活内での恋愛は禁止だった。1年の頃から背番号をもらい3年生ではエースで四番ピッチャーだった。野球以外に取り柄がない俺には破りたくても破れないルールだった。


8年ぶりに集まった野球部のメンバーは見た目こそ貫禄がついてきてはいるが、当時と変わらずうるさくて馬鹿で野球には熱いと言うところは変わっていなかった。監督は今年定年退職と思えないほど若く見えるが、やはり8年前より性格は丸くなり目尻にはシワが増えていた。退職後は地元の少年野球の監督になるらしく「俺は百歳まで野球をするぞ」なんて意気込んでいて俺も負けていられないなと尻を叩かれた気持ちになった。

2杯目のビールがなくなるくらいで会社からの電話で俺は席を立った。

「すまん、ちょっと電話出てくる」ここの居酒屋は地下1階で電波が悪い。一旦地上まで出てさっきの着信に折り返しの電話を入れた。

「お客様が荷物を取りに来ていて、家に居たのに不在票が入っていたって言われたんですけど城島さんどう言うことかわかりますか?」

 休みの日くらい仕事のことは考えたくないのだがこのような電話はよくあることだった。

「〇〇さんのお宅の荷物ですよね。前回も同じ説明をしたんですけど僕はチャイムを鳴らしてまた声かけもしました。中からすごい音の音楽が漏れてたのでさらに2回チャイムも鳴らして声かけして、お客様の電話にも着信を入れたんですけどね、、、」

ここで受付担当さんに正論を言ったところで話が進まないのはわかっている。しかし俺にも少しながらの仕事へのプライドがある。

「後日、僕の方で直接話をしにいくよ。お客さんの電話番号だけ聞いといてくれるかな」と取りあえず今日のところは帰ってもらうよう説得してもらい後日話をしに行くことにした。

ここのお客は俺が担当するエリアでも特に厄介で3回に一1回はこう言うクレームを入れてくる。両親が事業家だとかで小さい頃から甘やかされて育ったのか家に引きこもってゲーム三昧のニート野郎と言うところだ。

「いいご身分だなほんと」

酒のせいもあったのか店の戻りながらなんと無しに言葉が漏れていた。

「誰の悪口言ってるの?」

あれ俺心の声漏れてたのか?と思いながら顔を上げるとそこには篠原三春が立っていた。突然のことで返事ができないでいると三春は続けて

「蒼輔ってそー言うところ全然変わってないんだねっ。心の声丸聞こえなとことか、今みたいなマヌケな顔する所とか!」俺は突然目の前にいた三春に驚いて

「う、うるせー!!お前がいきなり話しかけるからだろ!ていうかなんでここに居んだよ早く席戻れよ」とそのまま三春の横を早足で通り過ぎようとしたが

「何でってこの店のお手洗いがここにあるんだもん。蒼輔言われなくても帰る所です〜」と席の方に向かって三春が先に歩き出した。

席に戻ると高校時代の思い出話で盛り上がっていた。

話の流れに乗り遅れた俺たちは端の席に向かい合って座り何となしに話始めた。





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