ドッペル・アライブ・オンライン
こちらの作品は気長に待っていただけると嬉しいです!
「なんだ、そっちまで行こうと思っていたのに」
スヴェンがオレンジの髪を揺らしながら近づいてくる。
「はははっ、お前のログインが見えたから、狩りを止めて街に戻ろうと思ってた所だったからな。んで、そっちの子はだれだ?」
そう言ってチラッとノエルに目を向ける。
「たった今フレンドになったんだ。この手のゲームは初めてらしく、助けてあげたのさ」
「え、えと、ノエルって言います!初めまして」
「あぁ、初めまして。俺はスヴェン。コイツのリア友だ。よろしくな、ノエル」
治也は昔から、誰とでも打ち解けるのがはやかった。ノエルとも仲良くやれるだろう。
「それからもう一人、リア友がいるんだが、まだインしてないみたいだなー」
「アイツも誘ってるのか?」
もちろん!とスヴェンが答える。
「とにかく、男三人のむさ苦しいパーティーに女子が増えるってのは、華やかで良い事だよな!」
スヴェンがノエルを横目で見ながらそう話す。視線に気づいたノエルが顔を赤らめて少しうつむいた。
「否定はしないが、お前は下心が見えすぎだっつーの!」
なんて事を話をしながら街へ戻った。
―始まりの街【ガルド】―
冒険者が集う酒場やギルドよりも、宿をで部屋を取ったほうが安上がりで静かに話せる、と言うことで、三人は宿の部屋で談笑していた。 俺が「宿を取ろう」と提案した時に、ノエルがビクッと反応してかすかに顔を赤らめて動揺していた姿が今思い出しても可愛い。うん、可愛い。
ノエルに序盤の進め方を簡単にレクチャーしながら、三十分ほど過ぎた時、ノックの音が響き、ガチャリとドアが開かれる。
「お前らなぁ!!『最初の街で集合』だけで分かるわけないだろう?場所を言え!ばしょ、を……お?」
金剛力士像が一人の少女に気づく。
「えっ?!はっ?こっ、こんばん……こん」
「「落ち着け」」
スヴェンと同時に突っ込む。
「お前、ゲームの中でも女の子が苦手なのかよ」
スヴェンがケラケラと笑いながらからかう。
「……随分と楽しそうじゃないか、ええ?そんなに楽しめるのなら、住む家を交換しようか?」
「冗談じゃねえ!!あんなラスボス三姉妹と暮らす?一生もんのトラウマになるわ」
一樹の家は母子家庭で、且つ、姉二人に妹一人という家庭だ。
姉妹それぞれが七つの大罪の罪を二、三個、そのまま具現化したような存在であり、全員に共通しているのは強欲だ。
俺も治也も、何度か一樹の家に遊びに行っているが、客だろうが誰であろうが、満足行くまで弄り倒し、去っていく傍若無人っぷりだった。
大学入学と同時に「晴れて一人暮らし!」と、気分も新たに新居のドアを開けると、姉二人が居座っていたらしい。
「それに!今俺が戸惑っているのは、そんなトラウマなんかじゃない!」
そう言って、一樹は俺の肩に腕を回してグイ、と引き寄せ耳打ちする。
「おい、あのかわいい子は誰だ?」
なるほど。一目惚れしたのか。
「さっき危なかったところを助けたのがきっかけで仲良くなったんだ。これからちょくちょくパーティに入ることになると思うから、守ってやってくれ」
と言って背中をトン、と叩いてやった。
「あ、あの……突然お邪魔してすみません。えと、ノエルって言います。ご迷惑でなければ――」
「迷惑だなんてとんでもない!」
慌ててノエルの言葉を制す金剛力士像。キャラ名で状況を言葉にするとかなりパワーワードだな。
「僕にできる事があれば、何でも言って下さい。すぐに駆けつけますんで!!」
「ありがとうございます!えっと……金剛、さん」
俺には分かる。今、一樹はこんな面倒臭い名前を付けた事を確実に後悔している。
「ああ、いや、ごめんね。呼びにくいよね、この名前。好きなように呼んでくれて、構わないから」
それを聞いて、ノエルが笑顔になる。
「じゃあ、コンちゃんって、呼んでもいいですか?」
ノイズとスヴェンが吹き出す。
「なにか変、だったかな?」
「そんな事ないよ!!こいつらの感性がおかしいだけだって!僕は、良いあだ名だと思うな」
「そうそう。俺達はコイツの普段を知ってるから、思わず笑っちゃっただけさ」
とっさにフォローを入れる。
そんな感じでしばらく雑談した後、スヴェンが切り出した。
「そう言えばさぁ、お前ら、DAOのアンケートメール来たか?」
「DAO?ああ、ドッペル・アライブ・オンラインの略称か。そう言えば来てたな」
俺は昨日の夕方頃に届いたメールを思い出し答える。
「俺もいずれお前たちに貸してもらってプレイするから、特典欲しさにもう解答しちまったよ」
一樹はもう答えたようだ。抜かり無いというか、現金というか。
「あー、そうなのか。俺も後で送っとくかな」
「そのメール、私にも来てました。でも、そのDAO?ってゲームは買ってないから宣伝的なスパムメールだと思ってスルーしちゃいましたけど、皆さんもやるなら、私もやってみたいかも、です!」
胸の前で両手をギュッと握るノエル。
「まぁ、まだ誰もやってないゲームだから、どんなゲームか分かってからでも良いんじゃないかな?」
「ま、そうだな。面白かったら、俺かノイズのを貸してやるからさ」
それを聞いた一樹がガバッと立ち上がる。
「お、お前!いきなりそんな……それはつまり、直接会って渡すって事だぞっ!!」
「「「????」」」
一樹以外の三人が首を傾げる。
「いや……え?俺、何か間違ったこと言ったか?」
「確かに、そうとも取れるかも知れないな。でも、俺は郵送するって選択肢も、あると思うんだ」
「まあ、まだ知り合ったばかりだし、簡単に住所を明かさない方が良いんだけど、その辺はその時になったらノエルに判断してもらえばいいさ。信用できる、って判断をね」
それを聞いたノエルは満面の笑みで
「コンちゃん、心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫。私、人を見る目は自身があるんです!」
と答えた。なんていい子。
「よーし。じゃあ、話はこのくらいにして、今日はノエルの装備を一式そろえようか」
とスヴェンが言いだし、俺達はそれに賛成した。
「よーし、レベル上がったぞー!」
スヴェンのレベルが十六になり、新たな特技【大旋風】を覚えたようだ。
スヴェンの職業はウォーリアーで、その高いHPと防御力で盾となり、敵のヘイトを集める。十二分に引き付けたら圧倒的な力でねじ伏せる、いわゆる脳筋キャラだ。
金剛力士像は現在レベル十三。職業はシーフ。
圧倒的な素早さを活かした攻撃の手数と、回避能力の高さが魅力だ。
他の能力の平均値は低いものの、この先、ダンジョンの攻略には欠かせない特技を覚えてくれるだろう。
ノエルはさっき始めたばかりだからレベルは七とまだ低い。
職業はエルフで、パーティではサポートに徹する。まだ下位の回復魔法【エイド】しか使えないが、彼女の可愛らしさは、もはやパーティに居るだけで価値があった。可愛い。
現状、俺達のパーティは、他の同時期に始めた冒険者よりも進行は遅いのだろう。
ただ、この手のゲームは必ず序盤の何処かで強いボスに勝てなくて立ち止まる、なんて事になるのだ。
デス・ペナルティも決して軽くはなく、と言うよりも、他のゲームに比べて重たすぎるのだ。何しろ、これまで手に入れた経験値が半分になるのだから。
故に、慎重過ぎるくらいがちょうどいいのだ。しっかりと装備を整えて、魔法やスキルの特性を理解してから挑む。できれば敵の情報も手に入れておきたい。
「うん、このクエストを報告すれば、ノエルが装備できる杖が手に入るはずだ」
「みんな、どうもありがとう!」
ノエルは満面の笑みで感謝の言葉を口にする。
「これで、この辺りの敵には負ける事はないだろうけど、一人で遠出はしない方が良いよ。敵の強さが一気に変わるからね」
「うん、ありがとうコンちゃん」
ノエルからの礼を正面で受け止めたコンちゃんが真っ赤になって顔を背ける。
「う……。も、もう今日はこの辺にして、お開きにしよう。明日も学校なんだから」
そう言い残してすぐにログアウトした。
「照れてんだよ、あいつ」
スヴェンがクックッ、と笑いながらノエルにフォローを入れる。
「はは、確かにもう遅くなっちゃったからね、そろそろ寝るとしようか」
「そうですね。二人とも、今日はありがとうございました。コンちゃんにも、お礼を伝えておいてください!」
「りょーかい!じゃあ、おやすみ、二人とも」
俺はメニューを開き、ログアウトに手を翳す。
目を開けると、いつもの自室の天井が見えた。
新しい仲間が増え、久しぶりに『楽しい』を感じた気がした。
「レベルが二十になると、ギルド機能が使えるんだっけか。作ってみても、良いかもしれないな」
そう考えながら、身体を起こす。学習机に目をやると、書置きと一緒に夕飯が置いてあった。
書置きは母さんと優那からの手短なメッセージだった。
『ゲームも程々にしなさい。冷たいご飯は美味しくないんだからね』
『そのゲーム、面白かったら私にもやらせて!』
どうやらうちの女性陣は、ラスボスでは無いようで、俺は心の底から感謝した。
完結まではしっかりと書き切りますので、長ーーーい目で見てやってくださいまし!