始まりの合図は彼女の微笑み
よろしくお願いします(*´﹃`*)
はじめに。
この物語を進めるにあたって、少しだけ説明させてもらいたいと思います。
なんて事の無い話ではありますが、少しでもこの作品を楽しんでいただけたらと思って書いたので、しっかり読んでくださいね。
ドッペルゲンガー。
皆さんも耳にしたことがあるでしょう。自分と全く同じ見た目の人物で、『生き写し』や『複体』として称される事もある。
それには様々な説があり、正体は『生霊』であるとか『出会った者は死ぬ』とか『複数体いる』など、様々である。
こういった科学で測ることの出来ないミステリアスな現象に、人間は惹かれるのだ。
時には超常現象として。
時には都市伝説として。
それは今こうしている間にも、我々に近づいているのかもしれない……。
同じく人間が惹かれる物がある。
美味しい料理や、綺麗な景色。海や山などのアウトドアスポーツも定番だろう。
中でもポピュラーなのは『ゲーム』だろう。
それは、普段体験できない世界観を自分で操作し、時には進化した映像を使って体験できるのだ。
自分が勇者になって魔王を倒すゲーム。
銃を使って敵の兵士を撃ち殺すゲーム。
好感度を上げて好みの女の子や男の子と結ばれることを目的としたゲームなど、その形は様々だ。
興味のレベルは人によってまちまちではあるが、場合によっては、そこにしか価値が見出せなくなる人間も出てくる。それほどに『ゲーム』は『現実』なのだ。
最後に、不思議な力について説明したいと思います。
火事場の馬鹿力、なんて言葉を、よく漫画やゲームで見かけます。
これは、自身が追い詰められた時に、普段以上の力を発揮するときに使われる言葉ですね。
人間の『感情の力』と言うのは非常に侮りがたく、私は本当に存在するのだと思っております。
現にこの物語では、その力が鍵を握っていると言っても過言ではないでしょう。
人それぞれに想いの重点は違います。
好きという想い。
嫌いという想い。
許容、懇願、生かす、殺す……。
無数に枝分かれした『感情の力』を、どうか私に示してください――――。
四月一日<佐久間家>
俺(佐久間心護)は整髪料で髪を整え、スーツに袖を通し、鏡でネクタイが曲がっていないか、ワイシャツはよれていないかをしっかりと確認をし、最後に鏡に向かって笑顔を作ってみせる。
「うっわ、何一人で笑ってんの……気持ち悪い」
そして妹に全力で引かれる。
だが俺はへこたれない。
「おはよう優那!どうだ?今日の俺、いつもより決まっているだろう?」
「そうね。整髪料でギトギトの髪の毛と、間違った結び目のネクタイを直せばいつもよりマシになると思うけど」
もう一度、俺は鏡を見る。
確かに、整髪料で髪の毛がテカテカしている。
ネクタイも、もはや解けかけている。
「お兄ちゃん、時間はまだあるの?」
「ああ、入学式は十時からだ。九時半までに着けば問題ないだろう」
優那は棚に飾ってある時計を見て、額に手を当てて言う。
「……早く、頭を洗ってきて!私がセットしてあげるから!」
「本当か?助かる!ありがとう!」
「いいから早くしてよ、もう!!」
九時半まで残り四十五分しかなかった。
九時半を少し回って、俺は大学に着いた。
校門では、予め郵送で受け取っていた学生証を教師に見せ、体育館へと案内される。
道中、先輩たちが「入学おめでとう」と校内の地図やサークルのパンフレットを手渡してくれた。
体育館には、述べ二百十八人の新入生が椅子を並べた。
校長の話、在校生代表の話。ありきたりな言葉を並べて語られていく。
「続きまして、新入生挨拶です。新入生代表、進藤彩音さん、お願いします。」
その女性は、誰もが目を引く程の美少女で……。なんてことはなく、至って普通の女子生徒だ。
どこか優那に似ている気がする。あぁ、目元なんかはそっくりだ。
そんな事を考えていたら、挨拶も終わっており、俺たち新入生は教員に先導され、教室へと向かうのだった。
辿り着いた教室。
ドアの上には『一年D組』と書かれたプレートが飾られている。
その教室内で、俺は旧友との再会を果たすことになる。
「やっぱり!お前、シンゴじゃねーの?うわ!久しぶりだな!」
そこにいたのは中学の時の同級生で、名前は、えーっと……。
「お前、俺のこと忘れてんだろ!?ハルヤだよ!岡田治也!」
「悪い悪い!あまりに咄嗟の事で、名前が出てこなくてさ!まだ野球やってるのか?」
彼は中学の時に北海道の選抜に選ばれるほどのプレイヤーだったのだ。
「ああ、実はさ、高二の時に肘をやっちまってな。続けてはいるんだが、プロはもう、諦めたんだよ」
「そうだったのか。でも懐かしいな。たまに三人でカラオケ行ったりしてたよな!」
「行った行った!一樹の奴も学科は違うけど、同じ大学にいるぜ!あとで誘って、またカラオケにでも行かないか?」
聞けば、治也と一樹は仲良く同じ高校に行ってたようだが、卒業前にカズキに彼女が出来て、最近は付き合いが悪いんだ、とぼやいていた。
そんな俺たちの前を、一人の女性が通り過ぎる。
先程、新入生代表挨拶をしていた子だ。確か、進藤さん、だったかな?
俺の視線に気づいたのか、彼女はこっちを見て一瞬笑って軽く頭を下げた。
「お前って、あーいう娘がタイプだったっけ?」
治也がニヤニヤしながら言う。
「いや、なんて言うか、なんとなく妹に似てるなーって思っただけさ」
ふーん、とあからさまに興味が尽きた返事が返ってくると同時に、教員が教室に入ってくる。
「はい、席について」
俺はハルヤに「また後で」と言って、指定された席に着いた。
―放課後―
「いやー、相変わらずだな、一樹の桑田メドレーのキレは!!」
俺が斉藤一樹の歌を褒め称えると、すかさず
「いやいや、心護のアユだって、磨きがかかってて良かったぜ!」
と返してくれる。
やはり、友達というのは良いものだ。時を超えた今でも、変わらずの居心地を与えてくれる。
「なあ、あそこのゲームショップに行ってみないか?」
治也が指を差した方には、古いゲームショップがあった。
レトロ感を出していて、とても心をくすぐられた俺たちはすかさず入ることにした。
入口に着いたところで、中から女性が出てきた。
(あれ?)
どこかで見た事があるような雰囲気の女性だったが、ハッキリと顔は見えなかったのと、そのまま小走りで去っていったので、俺は考えるのを止めて、中へと入る。
「いらっしゃい。あんちゃんたちも、コイツが目当てかい?」
中にいた店員のおじさんが差し出したのは、話題のVRゲーム【ソード&スペルマジックオンライン】通称SSOだった。
「残り四つだ。買うなら早いほうがいいぞ」
俺たちは顔を見合わせて、ニマーっと笑う。
「おっちゃん、それ、買った!」
まいど、とおっちゃんはお金を受取り商品を渡す。
「そうそう、このゲームを仕入れた時にメモと一緒に入ってたんだが、お前ら、これも持っていくか?」
そう言って差し出されたのは、同じくVRゲームの様だったが、パッケージも無く、ディスクに【ドッペル・アライブ・オンライン】とだけ書かれていた。
「なんでも、ゲームが好きそうなやつに渡してくれって書いてあってよ。ただ、さっきのお嬢ちゃんに渡しちまったから、二枚しかねーんだわ」
だったら断ろう。そう思ったところで一樹が
「俺はこのゲームだけでいいからさ、お前らでやってみればいいんじゃね?面白かったら貸してくれよ」
と言ってニカッと笑った。
いいヤツだな、と思う。そりゃ、彼女も出来るわ。
「じゃあ、二枚下さい」
そうして、俺たちは早速、今日の夜に二時間だけと決めてゲーム内で集まることにした。
「ただいまー!」
奥から母親の「おかえり」が聞こえる。
居間へ入ると、母さんが晩御飯を作ってくれていた。
「母さん、大学で一樹と治也に会ったよ。そんで、ご飯食べたら二人とゲームするからさ、しばらく部屋には入らないでくれないか?」
母さんはわかった、と承諾してくれた。
俺はゆっくりと風呂に入り晩御飯を食べて、約束の時間を待とうと思ったが、先に世界観だけでも、なんて言い訳を自分に言い聞かせ、【ソード&スペルマジックオンライン】を起動させる。
意識が吸い込まれるような感覚が脳内に巡る。次に目を開けると、キャラメイク画面が映し出されていた。
「名前はカッコいいものにしたいよな!えーっと、ノ・イ・ズっと」
『プレイヤー名が決定されました』
「なになに?次は見た目か」
俺は現実の俺となるべく似せて作り上げた。大きく変えたのは、髪の色と、目の色をオッドアイにしたくらいだ。
「最後に、職業か」
大剣や斧の扱いに長けているウォーリアー。
HPは低いが、スピードに優れている剣士。
攻撃魔法による火力が非常に高いウィザード。
味方のステータスを上げたり、回復魔法が得意なエルフ。
鍵開けや、トラップ解除など、ダンジョン攻略に欠かせないシーフ。
「なるほど。最初に選べる職業だけあって、ありきたりなものだな」
俺はあまり深く考えずに、派手な魔法が魅力のウィザードにした。
『……さい!隊…………隊長!!しっかりしてください!!』
早速、ゲームがスタートされると、辺りは戦火に包まれていて、どうやら俺は、負傷しているようだ。
『っ!ノイズ隊長!!良かった、目が覚めましたか!』
選択肢がでるが、こんな序盤にどれを選んでも物語に支障はない。
「……ここは?」
『隊長、記憶が!?くっ! いいですか?ここはメールズ平原で、我々は今、隣国のアシュロン帝国との戦争の真っただ中にいます』
どうやら随分と劣勢なようで、この戦線を破棄する指令が下ったとのことだ。
逃げる途中で敵兵士と出くわし、戦闘のチュートリアルが始まる。
俺はそつなくこなして『さすがです、隊長!』なんてNPCのセリフにおだてられながらも、最初の街に到着した。
「あ、やっぱり来た!おーい!」
見たことのあるキャラデザのプレイヤーが声をかけてきた。
「お前なら、時間よりも前に来ると思ってたぜ。その名前も、厨二センスが光ってるぜ」
お互い様だ、スヴェン。
そんなことを話しながら数分後、新たなプレイヤーが街に到着する。
「おお……すげぇネーミングセンスだ」
「あぁ……まさか、金剛力士像とはな」
その金剛力士像が、俺たちに気づいてこちらへ向かってくる。
「君たちよりも愛国精神が強いだけのことさ、ハルヤ、シンゴ」
どうやら、金剛力士像のようだ。
俺たちは住人のクエストをいくつか消化し、いよいよ最初のメインストーリーに挑戦できるレベルになった。
「気にはなるが、今日の所はここで終わりにしようか」
「そうだな、いきなり学校を遅刻じゃ、格好付かないしな」
「じゃあまた明日、学校でな」
右手を前に差し出すと、メニューが開かれ、ログアウトを選択する。
スーッと意識がゲームから離れると、身体に重みが感じられる。
「ふぅ。やっぱりVRゲームはすごいな」
素直な感想を漏らす。
走れば当然スタミナが切れるし、時間が経過すればお腹も減るのだ。
これらは全て疑似的なもので、現実世界の自分には全く関係がないにも関わらず、それを体験できているのだから当然の感想だ。
ふと、袋の中に入っているもう一つのゲームが目に入る。
【ドッペル・アライブ・オンライン】
(ドッペルはたしか、ドイツ語で二重のとか、そういった意味だったかな?アライブは英語で生きる……。二重に生きる、って意味かな?)
考えても分からないし、今日はもう寝ることにした。このゲームは、明日学校で治也と話したときにでも時間を合わせてやることにしよう。
四月二日<放課後の教室>
「でよぉ、こいつの消しゴムが、まさかの金剛力士像でさ」
「まじかよ!つか、どこで売ってんだそんなもん!……っと。悪い、俺トイレに行ってくるからさ、先に玄関で待っててくれ」
俺は二人にそう言って、男子トイレへと直行する。
「~♪」
昨日のカラオケの名残からか、アユの曲を口ずさみながら階段へ向かうと、進藤さんと出くわした。
俺に気づいた進藤さんは、どこかさみしげに微笑み、頭を下げて階段を下りていく。丁度帰るところだったのだろう。
女友達を作っておくのも悪くはない。そう思って話しかけようとした途端、後ろから俺を呼び止める声が聞こえた。
『あ、D組の生徒よね?確か、佐久間君。ちょっと悪いんだけど、これを職員室まで一緒に持ってくれないかな?』
間の悪いことに教員に捕まってしまうが、断るわけにもいかず、引っ越しでもするかのようなふざけたデカさの段ボールを持って、職員室へ向かう。
『いやー、さすが男の子!助かったわ、アリガト!』
そんな若い女教員にドキッとして(たまには力仕事も悪くないな)なんて思いながら、俺は職員室を後にした。窓から奇麗な夕日が差し込んでいる。
ふと屋上に視線をやると、女子生徒が髪を靡かせて立っていた。顔までは見えないが、スラっとした体形で、なんとなく、夕日が似合うような、そんな不思議な感覚だった。
何秒経っただろう。
十秒くらいな気がするし、五分くらい見ている気もする。それだけ目を奪われていた時だった。
彼女が逆さまになり落下する。
「………………え?」
俺は急いで階段を駆け降りた。
はしる。走る。奔る。
保健室を超え、玄関に差し掛かる。
後ろから声が聞こえるが、気にしていられる状況じゃない。
ドクン、ドクン、と心臓が脈を打つ。
途中、思いっきり転んだが、砂を掴むように藻掻いて立ち上がり、また走る。
「まさか、まさか、まさか!!」
「おい!心護、どうしたってんだよ!!……っ!!は?!」
俺は花壇の前で両膝をついて呆然としていた。
追い付いた友人も、言葉を無くす。
「おい、この人って、昨日の……」
視線の先では、進藤彩音が眼を見開き、不自然な方向に首が捻じ曲げられた状態で、綺麗な花に囲まれて絶命していた。
楽しんで頂けましたら幸いです♪