08 国外追放
帝都に戻り、いつもの宿屋に泊り、1カ月半をアルバイトに費やす予定だ。
大聖女の塔で寝泊りしようと思っていたが、大扉の開け閉めで民衆が驚くから止めて欲しいと皇帝に言われた。
今は帝都内の一番安い宿屋でやり繰りしている。
冒険者ギルドの受付嬢からはランクBになるには、護衛の仕事が必須だと言われたのだが、別にランクを上げたい訳ではないので、割のいい依頼はないか紹介して貰っているのだ。
そうこう考えている間に帝都が近付いて来た。グリフォンを衛兵に気付かれない程度の距離にある森に降ろし、召喚魔法を解除し、城壁門前にいる15人程の商人の列に並ぶ。
前にいる、商人の人が話し掛けて来た。
「お嬢ちゃん1人かい?」
「はい、そうです」
「関心しないね。奴隷商人に狙われるよ」
と、商人はニヤニヤしている。
アストロ帝国は奴隷制度を禁止しているが、裏では奴隷商人がいて、貴族とも絡んでいる事から、衛兵も多めに見ているようなのだ。
ふと、目線が前の幌馬車の隙間から感じられた。透視を行うと、ボロボロな服を身に纏った子供が沢山乗っていた。
この商人が奴隷商人なのだろう。
さて、どうしたものでしょう。私が衛兵に密告しても、グルなので衛兵所に連れて行かれて、何等かの刑が待っているのでしょう。
前の商人に番になった、衛兵と会話して、なにか賄賂みたいな物を渡している。
「すみません。この人、奴隷商人です」
「ああっ! なにを根拠に」
『身体強化』
力任せに、幌馬車の幌をひっぺはがした。
子供達は日が眩しかったのか、目を反らした。
「この子達が証拠です」
「この子供は……。とりあえず、お前は来い」
衛兵に衛兵所に連れて行かれて、説教が始まった。
「何か、間違っていますか?」
「あの奴隷商人の裏には貴族様がいるんだぞ!! 分かっているのか?!」
「悪い者は悪いのです」
「お前なぞ、不敬罪で切り殺されるんだぞ、俺らもだ!!」
「では、皇帝に直訴します。知り合いなので」
「お前は、帝都に出入り禁止だ!!」
「分かりました」
それはそれで、魅力的だ。大聖女の仕事をしなくて済む。
よしんば、世界中を旅をするのもいいだろう。
いい国があれば、聖女達を誘うのもありだ。
早速、帝都の全景が見える丘に登り、大聖女の塔を収納指輪に収める。
これで、この国には大聖女はいない事になるだろう。
大聖女がいなくなれば、その分聖女の仕事が増えるのが心苦しいが、私が来る前に戻るだけだと思いたい。
まずは父に報告するのが先でしょう。父は心配性だから。
早速、グリフォンで父の屋敷に直行した。
数日も経たないうちに帰るのだ。父はビックリすると思うがしょうがない。
報告して、なんとか旅に出たいが、父は賛成しないと思う。
うーん、冒険者になるのも父は反対するだろう。
どうしよう……。
父のところに行けば、騎士として働くようになるかな。実務でも別にいいけど。一番気がかりなのは、アスタリア帝国が私を探すのは間違いなく、父に迷惑が掛かると言う事だ。父には正直に経緯を説明した方がいいわ。
そう考えているうちに父の屋敷の門前に着いていた。
執事が出迎えてくれて、父の書斎に案内された。
「父上、お話があります」
「どうした? なんだ? 改まって」
父には今までのあらましを語った。
「そうか。サラは帝都で苦労をしたようだな。サラが大聖女とはな。では、サラの思う通りにしなさい」
「前から考えていたのですが、世界を見て回りたいと思います」
「それもよかろう、だが対面上は勘当と言う形に取らせて貰うぞ」
「父上……有難う御座います」
さてと、学院も行かなくていいし、のんびりと旅に出よう。今まで働き過ぎたのだ。
今のところ、南に位置するラース王国に行こうと思っている。ラース王国には500年前の大戦で一緒に戦ったハイエルフのミーナがいるはずだ。ハイエルフの寿命は1000年から1500年と言われているから生きていると思っている。もしくは、精霊国に帰ったかもしれないが。
私の見た目は当時と随分と変わってしまったので、遠くからミーナの元気な姿が見れればいいと思っている。
グリフォンでラース王国を目指す。途中でいい魔物がいれば倒し、旅費の足しにする予定だ。
副帝都の近く迄来たところでグリフォンから降り、城壁門を身分証明書の冒険者カードを出し、中に入る。
帝都と比べると、人通りは少なく通幅も狭い。冒険者ギルドを探し、滞在報告とミーナの情報を探そうと思っている。
冒険者ギルドは直ぐに見つかり、受付嬢のところに行く。
冒険者カードを出して、
「すみません。冒険者ランクCです。滞在期間は1週間でお願いします」
「はい、畏まりました。滞在期間が延びるようでしたら、連絡下さい」
「はい、分かりました。それとですね、ミーナと言う魔法使いを探しているのですが心当たり、ありませんか?」
受付嬢は思案しているようだ。
「ミーナ、ミーナ、ねえ」
「ハイエルフなんですが。分からなければいいです」
「えっ! それは、ミーナ国王の事ですか?」
「いえ、国王ではないはずですが。分からなけれがいいです。有難うございます」
ミーナと言う名前、ハイエルフである事から、ミーナは国王になっているんだ。
国王なら、遠くから見る事も出来ないな。どうしよう、ここまで来たのなら1目見たいわね。
ちょっといたずらしようかしら。