目的地はどこ?
すっかりと日も落ち、夜になってしまった。
俺は自分の部屋で寝るとして、ガーネットとはどうしようか。
「俺は軽く水浴びするけど、ガーネットはどうする?」
「私? じゃぁ、ライトの後で」
俺がさっぱりした後でガーネットも体を清めに部屋から出ていく。
その間にガーネットが使う布団の準備でもしておくか。
死んだ爺さんの部屋はほとんどそのままにしておいたので、ベッドもあるし布団もある。
しばらく使っていなかったので、少し埃っぽいが、床で寝るよりはいいだろう。
布団からほこりを飛ばし、寝床の準備をしておく。
マジックポーチには旅で必要になりそうなものを一通り入れてある。
ガーネットに手伝ってもらったけど、結構いろいろと必要になるんだな。
さて、ベッドの準備はこんなもんでいいだろう。
しばらくするとガーネットが戻ってきた。
「おかえり」
「ただいまっ。すごっくさっぱりしたよ。ありがとう」
「いえいえ。何か欲しいものはあるか?」
髪が濡れたガーネットは大きな瞳で俺を見てくる。
うーん、何を考えているのかさっぱりわからない。
出会ったときはぼろいローブを着ていたが、今は白いワンピースを着ている。
寝るときはこんな格好なんだ。
「えっと、できればお水が欲しいんだけど」
「水?」
「ええ、この森に入ったときに魔物に追われて、食料と水を入れておいたマジックポーチをなくしてしまって……」
あぁ、だから出会ったときに腹減りだったのか。
俺はコップを手に持ち、手から水を出す。
「魔法?」
ガーネットがコップをまじまじと見ている。
普段は井戸水を汲んできており、台所に置き水がある。
だが今はこうして、魔法で出してしまった方が早いしおいしい。
「ほら、飲んでいいぞ」
「……飲めるの?」
失礼な。森に行ったときはいつも自分の魔法で水を確保しており、料理にも使っている。
自慢ではないが、井戸水よりもおいしいはずだ。
「飲めるさ。なんだ、ガーネットは魔法で水を出せないのか?」
「私? 一応水は出せるけど、生活水程度だよ? 飲んだらお腹壊しちゃうよ……」
「俺の出す水は平気だぞ?」
ガーネットは恐る恐るコップの水をゆっくりと飲む。
「あ、おいしいかも」
大きく目を開け、一気に水を飲み始めた。
「だろ? もう一杯飲むか?」
「大丈夫、ありがとう。でも、本当に飲めるくらいおいしいんだね」
「そうか? これが普通だと思っていたんだけどな」
ガーネットの話だと、飲めるくらいの水を出すのは難しいらしい。
攻撃用の水魔法や洗い物をする生活魔法で出てくる水は、飲めたもんじゃない。
「明日からの旅で、水の確保をどうしようと思っていたけど安心できるね」
笑顔で話すガーネットは少し幼く見えた。
きっとここに来るまで苦労したに違いない。
「なぁ、ちょっと聞いていいか?」
「なに?」
俺はガーネットの隣まで歩いていき、目の前に立つ。
「旅に出るって言ったけど、どこを目指すんだ?」
「ふふん、いいこと聞いてくれたねっ! ちょっとこっちに来て!」
俺の腕をつかみ、自分のマジックバックから透明な球体を取り出す。
それを俺の目の前に持ち出し、まじまじと見つめている。
何も、見えないけど?
「えっと、ここでいいかな?」
テーブルの上に布を一枚乗せ、その上に透明な球体を置く。
「ライト、この魔道具の中をよーく見ていてね」
「お、おう……」
じーっと見るが何も見えない。
もしかして俺には見えない何かがあるのか?
ガーネットが両手をかざし、何やらぶつぶつ言っている。
なんだろ、呪文か?
次第に透明だった球体の中に何かが見え始めた。
青や緑、赤や茶色などの線が見える。
「これが見える?」
「なんか線が見える」
「この線の向かう方向にオーブがあるの。線が細ければ遠く、太ければ近いって感じだね」
まじまじ見ていると、消えてしまった。
「消えた?」
そこにはぐったりとしたガーネットがいる。
さっきまで元気だったのに、一気に疲れたようだ。
「げ、限界。一日に一回しかできないの。次は明日ね」
肩で息をしているガーネットは額に少し汗をかいている。
せっかくさっぱりしたって言っていたのに。
「疲れたのか?」
「少しね。魔力をごっそり持っていかれるの」
俺はガーネットをベッドに案内し、もう休むように勧める。
「ごめんね。もっといろいろとお話ししたかったのに」
「なに、明日から一緒に旅をするんだ。時間はまだまだあるだろ?」
「そうだね、明日もたくさんお話ししようねっ」
「おやすみ、ガーネット。明日の朝起こしに来るよ」
「お休み。今日はいろいろとありがとう。明日からよろしくね」
爺さんの部屋のランプを消し、扉を閉める。
さて、俺も明日の準備をして早めに休むか。
ふと目に入った透明な球体。
これに魔力を込めるとオーブの方向が分かるって言っていたな。
俺が魔力を込めたら何か出るのかな?
ダメもとでガーネットと同じように魔力を流してみた。
するとさっきと同じように何かが浮かんできた。
お、なんだ俺にもできるじゃないか。
さっきガーネットが唱えていた呪文も必要っぽいけど、魔力を流すなら誰でもいいのか。
まじまじと球体の中の線を見つめる。
心なしか、赤い線が太く見えた。
この線の向かう先に何が待ち受けているのか。
赤いオーブはこの線の先にあるのか?
明日の朝、さっそくガーネットにこのことを伝えてやろう。
球体から手を外すと、球体の中はまた何もなくなった。
しかし、俺の体調はなんともない。
もしかしたらガーネットよりも魔力の量が多いのかもしれないな。