旅立ちの準備
「着いた」
「ここが家なの?」
そこまで大きくない家。
寝る部屋と台所、食事をするところなどはしっかりとある。
外の作業小屋にはある程度の鍛冶仕事や工作などもできる。
俺一人で生きていく分には十分なのだ。
台所でオークの肉をさばき、焼き始めた。
だんだん暗くなってきたのでランプをつける。
「ほら、こんなもんでよければ食べてくれ」
俺は自分の分と彼女の分をテーブルに置き、食べ始めた。
簡単なパンとスープも一緒に出す。
「ありがとう。いただきます」
一人で食べるより、二人で食べた方が、なんとなくおいしく感じる。
「ところで、ここに何しに来たんだ?」
食べながら聞いてみた。
こんな山奥に今まで人が来たことがない。
「探し物」
「探し物? 一人で?」
「……うん。でも、きっと見つける、見つけないと」
彼女の目が真剣だ。
よっぽど大切な何かを探しているらしい。
「そうだ。俺の名前はライト、君は?」
まだお互いの名前も知らなかったな。
「私はガーネット。あの、さっきは助けてくれてありがとう。ご飯もおいしいよ」
微笑む彼女を見て、ドキッとしてしまった。
爺さんと食事をしていた時とは違う。
ここにはその時になかった、何かがあるのを感じた。
「いや、たまたまだ。よかったな、ケガとかなくて」
「そうだね、ライトさんって強いんだね」
「さんとかいらない。ただのライトでいいよ」
「そう。じゃぁ、私もガーネットでいいよ。よろしくね、ライト」
ガーネットと二人で食事をしながら、少しお互いの事を話した。
彼女は王国に所属している町に住んでおり、魔導士の両親は町で魔法の研究をしているらしい。
そんな中、彼女が見てしまった一冊の本。
その本には【賢者の石】についての記録があり、その精製方法が書かれていた。
夢中で書物を読み漁り、準備期間を終えて旅に出たのがつい先日。学園も問題なく卒業し、何とか両親を説得したようだ。
ただし賢者の石については一切話していない。
そして彼女がバッグから取り出した手のひら大の光る珠。
「これがドラゴンオーブ。六個集めると、賢者の石ができるらしいの。ここに、似たようなオーブあるよね?」
同じではないが似たような球は持っている。
それがガーネットの言うドラゴンオーブという物なのかはわからない。
「あぁ、持っているよ。ちょっと待ってってくれ」
ガーネットの持つドラゴンオーブは淡く緑に光っている。
俺は引き出しから淡く水色に光るオーブを出し、ガーネットに見せた。
「あった……。ライト、そのオーブって大切なもの?」
これはこの小屋にもともとあった。
爺さんがなんで持っていたのかはわからない。
でも、ずっとこの引き出しに入っていたのは確かだ。
「大切じゃないとは思うが、もともと死んだ爺さんのだしな……」
「ねぇ、一緒にオーブを探しに行かない? ライトはそれなりに強いし、きっと楽しい冒険になると思うよ」
山奥にこのままいても、時間だけが過ぎていく。
外の世界を見るもの、悪くない。
爺さん、ちょっとの間留守にしてもいいかな?
「良いよ、俺も外の世界を見てみたい。明日の朝出発で良いのか?」
「そうと決まれば、準備しなくちゃ! ライトは旅に出たことあるの?」
旅? ずっとこの山奥にいたから旅とかしたことないんだよな。
「初めてだな」
「そう、だったら私がいろいろと教えてあげる! まずは――」
いつものように狩りをしていたら、一人の女の子を助けてしまった。
そして、【賢者の石】を求めて、旅をしているらしい。
その手掛かりの一つ【ドラゴンオーブ】が、俺の手元にもある。
今までこの山と森しか知らなかった俺が、ガーネットと一緒に旅に出る。
外の世界を見に行くチャンスでもあるし、もしかしたら楽しいこともあるかもしれない。
少し期待に胸膨らませ、旅立ちの準備をする。
「ライト? このマジックバックおかしいよ?」
「ん? 何がおかしいんだ?」
「入る量がおかしい……。これ、どうやって手に入れたの?」
腰につけているポーチにいろいろと突っ込んでいるが、まだまだ入る。
ふつうはそんなに入らないらしい。
「どうやってって……。爺さんが使っていたのをもらった」
「ライトのお爺さんって何者?」
何者? 俺は改めて考えた。
よく考えたら、俺が爺さんの事をろくに知らない。
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