少女との出会い
腹減ったなー。
小屋を背中に、目の前の広がる山を見つめる。
右を見ると山。左を見ると森。どこを見ても大自然。
「さて、そろそろ昼も過ぎたし、夕飯の狩りにでも行くかな」
俺は、マジックバックをベルトに着け、腰にロングソードを装備する。
この剣は昔から使っている慣れた剣だ。もう一年以上使い込んでいる。
昨日は魚だったし、今日はオークの肉でも食べようかな。
完全な自給自足。生活に必要な物は死んだ爺さんが残していってくれた。
爺さんが死んで三年。
何とか俺一人でも生活ができるようになった。
爺さんには感謝しないとな。
出発前に必ず寄る場所がある。
小屋から少し離れた大きな木の根元。
ここに俺を育ててくれた爺さんが眠っている。
じゃ、行ってきます。
今日も無事に帰ってこられますように。
少し神経を集中させ、魔物の気配を感じる。
うーん、今日は向こうかな。
ある程度の魔力を持ち、魔法も使えるがあまり得意ではない。
爺さんに教わったのは主に生きる術と剣術。
あとは少しの魔法。爺さんも魔法は苦手って言っていたしなー。
小屋から離れ、しばらくたつと少し離れたところに魔物の気配を感じる。
と、同時に何かの声が聞こえた気がする。
なんとなく、気配のする方向に走っていくと誰かが叫んでいる。
「――けて!」
急いで声のする方に走っていく。
「助けて! 誰か! 助けて!」
声のする方に走っていくと、ローブを着た人間がオークに追いかけられていた。
とりあえず、夕飯の肉を確保してもいいのかな?
助けてを叫んでいた人間の隣まで走っていき、声をかける。
「えっと、オークの肉もらってもいいのか?」
隣で走っている人間はそろそろ限界のようだ。
「い、いい!」
「ありがと。じゃ、遠慮なく」
俺は足を止め、振り返る。
走ってくるオークに向かい、腰の剣を抜き構える。
さて、今日の肉は当たりかはずれか。
オークは俺に向かって走りながら大きなこぶしを振りかぶった。
渾身の一撃をあっさりを交わし、地面に突き刺さったオークの腕をあっさりと切る。
「グモォォォォォ!!」
オークの雄たけびが森に響き渡る。
ここで、ほかの魔物もやってきたらめんどいな。
俺はそのまま剣を振りかざし、オークの頭を突き刺す。
オークはそのまま息絶え、地面に倒れこんだ。
夕飯ゲット。
早速血を抜いて、持ち帰るか。
一人でオークの解体をしていると後ろから気配を感じる。
魔物か?
「あ、ありがとう。助かりました」
あ、忘れてた。
「えっと、どういたしまして」
フードを下ろした人間は女の子だった。
長い金色の髪に、金色の瞳。
肌も白く、腕も細い。これが爺さんの言っていた女って生き物か。
「それ、もう死んでいるの?」
彼女がむける視線の先には地面に倒れているオーク。
「あぁ、いま血を抜いて解体しているところ。もう安全だよ」
「あなた強いのね、びっくりしちゃった」
強い? たかがオークだろ?
爺さんと一緒によく狩っていたので、弱いと思うんだけどな。
「まぁ、この森ではと強い方かな」
「そう、なんだ」
さっきからジロジロ俺の事を見てくる。
俺の肉を狙っているのか? もともと彼女が連れてきた肉だし、半分なら上げてもいいかな……。
血を抜き、いらない部位を取り除く。
不要物は穴を掘ってその場に埋める。
こうすると土の養分になるらしい。死んだ爺さんが言っていた。
森に返すんだって。
オークを引きずり、近くの川までやってくる。
その間俺の後を無言でついてくる女。
はやり肉が欲しいのか。
川で血を洗い、肉を解体する。
心臓付近の黒い石は食べられない。それを手に取りマジックポーチに入れようとした。
「あっ……」
彼女の視線がこの石を追っている。
なんだ、この石が欲しいのか?
「これが欲しいのか?」
「……くれるの?」
「これは食べられないからな。ほしければやるよ」
俺は石を彼女に向けて投げた。
彼女も不思議そうな目をして受け取る。
肉じゃないのか?
肉を解体し、段々と日が暮れてきた。
さて、そろそろ帰って夕飯の準備でもするかな。
切り終わった肉をポーチにしまっていく。
が、その作業をずっと彼女は見ていた。
ずーっと、こっちを見ている。なんだろう?
もしかして……。
――ぐぅぅぅぅぅ
何かの音が聞こえた。
「腹、減っているのか?」
彼女は少し頬を赤くしながら答える。
「う、うん……」
「オークの肉でよければ、一緒に食べるか?」
「いいの?」
「いいよ」
俺の後をついてくる彼女。
どうしてこんな山の中に一人でいるんだ?
少し不思議に思うこともあるが、何か理由があるんだろう。
俺の爺さんも一人でここに住んでいたらしいし。
しばらく歩き、小屋に着いた俺は彼女を家に招き入れる。