野生の隣人に学ぶ
遅い起床時刻を迎え
私は外へと駆けていく
私にとっては早朝の
世間にとっては真昼間の
ほんのりのどかな田舎道を
私は気ままに走っていく
周囲にあるのは
田んぼ 草花 木々
遠くにあるのは
霊峰 青空 羊雲
私のたてる足音に
私の作る黒影に
私という人間に驚いて
葉に擬態中のバッタが逃げる
交尾中のトンボが逃げる
羽休め中のスズメが逃げる
田で餌をあさるサギが逃げる
横へ逃げれば良いものを
前に逃げるものだから
私はすぐに追いついて
彼らは再び前へと逃げる
それを二度だか三度だか
繰り返した後彼らはようやく横へ逃げる
『逃げなくたって襲いやしない』
つぶやきかけたそんな言葉を
私はごくりと飲み込んだ
足元にグシャリとくたびれるのは
車のタイヤに踏みつぶされた
トノサマバッタの無残な死骸
彼らは逃げる意味を知っている
逃げることを弱さとつなげ
忌避にも至る人間よりも
はるかにそれを知っている
そんな逃げ慣れた彼らでさえ
上手く逃げられるようになるまで
いくばくかの時を要する
ならば私たち人間は
何度下手に前へ前へと逃げているのだろう
横へ逃げてみさえすれば
追いかけてくるものの正体がわかるだろうに
追いかけてくるものの目的もわかるだろうに
追われているという強迫観念に支配され
その選択肢さえ見えないまま