春の向日葵は海原に
また春が来て、向日葵たちは高校三年生となった。向日葵も南も色気付いてきて、それがより一層二人を夫婦のように見せるようになっていた。
田中の馬鹿は相変わらず抜けず、向日葵への浮ついた恋心など忘れて遊び暮れていた。佐藤は恋人を見つけたが仲良くすることは欠かしていない。そしてアンも新しい恋人を見つけた。
「アン、なんだその男」
「ははっ、だってよ蒼介」
斎藤蒼介は上品な男で、アンよりも四歳年上の男だったが彼女と波長が合い仲睦まじくあった。
「初めまして、美樹がいつもお世話になっております。美樹はいつも向日葵さんの話ばかりするんですよ」
「あっ、それは言うなって」
そうして美樹の粗雑な態度にも、かえってそれが気に入っているらしいと向日葵は聞いた。向日葵も好きな彼女であったから、口ばっかりで内心は彼を認めていた。
向日葵の中で、棚木は良くも悪くも忘れられない存在ではあったがそれよりも今の日和に目を細めた。同じ心で感応しているアンは棚木と出会ったからこそ、今の彼と会えたのだこれがきっと定めという名の運命なのだといつからか固く信じるようになっていた。
南は最後まで彼を信じられなかったことを、心に植えたまま時折、向日葵を見ることがあった。だがそれよりも彼の笑顔は予想を超えて彼の中に留まりを見せていた。その瞳はやはり向日葵と同じ湖のようであったが、それは温かな太陽に照らされてきらきらと輝いていた。
この土手で、彼らは出会い彼らは心身ともに大きく育った。
いつまでも、彼らの友情の血脈は途切れることなく体に漲っている。
そして向日葵の心の中には、季節は違えど温かな向日葵が咲いていた。それは枯れることはない。根っこまで栄養が行き渡った大きな花は、あの夏の海原とともに存在しているのであった。




