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ひまわり  作者: 雪之都鳥
第二章
6/65

五、

 夏期休暇が明け、向日葵は始業式を迎えた。始業式前、教室、向日葵はスライドドアを開いて硬直していた。

 ドアを開けて真っ先に彼女の視界に入ったのが、いわゆるスクールカースト二軍の女子のリーダーだった。

「おはよう、日暮さん! ねぇねぇ、聞いたんだけど宮田くんと付き合ってるんだって? 」

「いや、付き合ってはないです」

 向日葵は、喉の方に苦しさを感じた。では、と群がる女子の間を縫って衆の中から抜け出した。

 それだけでは済まなかった。噂は広がり続け、それが三軍の耳にも入るようになった。

 その噂は表から見ると向日葵にマイナスダメージはないように思えた。彼女は三軍の位置に急遽座したのだった。

「向日葵さん、一緒にご飯食べよ」

 昼休み、やはり声をかけられた。せっかくですが、と頭を下げて逃げるように教室からでる。

「無理だ、無理だ、無理だ」

 向日葵は喉を何度も引っ掻いた。気付いたら、校門を出ていた。息を絶え絶えにして、向日葵はうずくまる。だがすぐにまた歩き出した。




 立ち止まったのが土手だった。家に帰ろうとしてここまできた向日葵だったが、どうしたものかと途方にくれた。

「だめだ、家に帰ったらお母さんに怒られる」

 どうしよう、向日葵はしゃがみこんだ。向日葵は喉に何か物が詰まったような苦しさにしばらく、吸っては吐くを繰り返した。

 おもむろに立ち上がり、土手を下りていく。アキアカネが、空を泳いでいた。日の光が、汚い川面を照らしている。

 向日葵は川面を、内容のない暗い瞳で眺めていた。

「どうしたものかなぁ」

 と向日葵は、体育座りした膝をかかえて顔を埋めた。

「私は、私は、一人ぼっちがいいのに」

 ひとりぼっちがいいのに、周りがそうはさせてくれない。友達を作った方がいいとか、もっと愛想を振りまいたほうが得だとか、余計なお世話だと思っていた向日葵が一番自分を嫌いだった。

「お願い、私に構わないで」

 独り言のするのは向日葵の常だが、その一言はエスオーエスに聞こえなくもなかった。

「へー、そんなこと言うんだ」

 向日葵の方が跳ねた。後ろを向いて、涙で曇った目を擦った。南だった。

 南は黙ってその隣に座り、石を拾い川に投げ捨てた。足は身軽に駆けていく。

 向日葵の涙は収まっていた。南は誰に話しかけるともなく、どうでもいいことを並べていた。

 不思議と、いつものように嫌悪感はなかった。涙が、温かいような気がして空を見上げた。これが秋の空か、と空はそんな表情をしていた。


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