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ひまわり  作者: 雪之都鳥
第四章
53/65

十、

「・・・・・・は?」

「だーかーら、向日葵ちゃんと友達になったの」

「てか、なんで俺の家知ってるんですか?」

「考えてみて? 僕だよ? ストーキングに決まってるじゃん」

外見とは比べ物にならない狂気的な彼に、南は血の気を引いた。

「俺の向日葵に纏わりつかないで下さい」

「俺のだって?ははっ、余裕だねー」

面倒臭いことになったと、南は直感した。今すぐ側を離れたいがそうにもいかない。

「向日葵になにするつもりですか? 」

「えー?何もしないよ」

絶対嘘だ、と南は後ろに一歩引いた。自分の彼女に万が一の事でもあれば。

「とにかく、向日葵ちゃんは俺に靡いているよ」

 真顔で言う棚木に対し、南は鼻であり得ませんねと笑ったが些か不安を拭えない自分がいることに南は気付いていた。

「その顔、歪むの楽しみ」

 無敵に笑うの彼からは柑橘系のオーラが漂っていて、南は棚木を睨んだ。褐色の肌色に青い目がよく似合っていた。

「どこかのハーフなんですか? 」

その言葉に、棚木は真顔になってまた笑う。

「俺のこと、気になる?」

「んなわけないじゃないすか、とにかく次彼女に手を出したら警察沙汰にしますからね」

「はいはい、じゃーね」

棚木はようやく、帰っていった。

 玄関から入ると、相変わらず母と弟の声が聞こえてくる。南は小さな声でただいまと二階に上がって行く。後ろの方で母の声が聞こえたが無視して部屋に入った。しばらく経つとハンバーグの焼ける匂いがしてきた。頭では悩んでいるのに、腹の虫は鳴る。「そうだ」と思い立ち、母親に声をかけて家を出た。

 両手にはパッケージに入ったハンバーグが。これを二人で食べようと向日葵の家へ歩く。後先のことなどなにも考えていなかった。足取りは軽く、向日葵の家まであっという間にたどり着いた。

 そう「あっ」と二人でいう間に南は足を止めたのだ。向日葵の目は震えていた。

「どうしたの、向日葵」

 南は足早に近寄ると棚木と向日葵を引き離した。

「近寄るな、って言いましたよね?」

「そうだっけ、纏わりつくなとは言われたけど」

 とぼける棚木に苛立ちを隠し得ぬまま、南は向日葵を引き寄せた。向日葵の肩は震えていた。

「どうした、向日葵。なんか怖い目にあった?」

 向日葵の瞳孔は波が立ったように揺れて、棚木を見た。

「なーんだ、言えないの?俺が代わりに言ってあげる。南くん、向日葵ちゃんは南くんが怖いんだって」

 違う、と向日葵は口さえ動かさなかった。そうなの、と南に聞かれても何も動作がない。

「向日葵、俺のこと怖いの?」

「そうそう、怖いんだよね。ね? 向日葵ちゃん」

 その棚木の言葉に南は叫んだ。

「お前は黙れ」

家のものは出てこない。向日葵の両親は丁度買い物に出ていた頃だった。後ろから声がかかり振り向くと向日葵の両親が困り顔で見ていた。

 南がやばいと思ったことに反して二人は平然としていて隣の棚木が事情を説明する。

「全く持ってのデタラメじゃないか」

 向日葵がそう言葉で突いてもなお変わらない彼は笑った。

「ほら、君に嘘をつくくらい向日葵は君を怖がってる」

 南は彼女を他の男に呼び捨てにされたことに、怒りを覚えたがただの負け犬の遠吠えだと言葉を飲み下した。




 宮田あおは帰宅準備を進めながら言った。「それは、まだ保留で良いのではないでしょうか」

 保留、という言葉に南の心は少し落ち着いた。

「そうなんだけどさ、でも理性より感情の方が勝ってるんだよな」

「それは耐えるしかないのではないでしょうか」

 淡々と宮田は答えた。少しの嫉妬なのかもしれない、二人の関係を知っている南はそう考えた。

「だよ、な・・・・・・」

 言葉が出なくなり、感謝の言葉を残して帰ろうとすると呼び止められて後ろを向いた。

「人を好きになるって、どんな感情? 」

 南は珍しいと思いながら、脳に残った少しの余裕で答えた。

「毎日、頭から離れなくて。それでも、捨てられないもの」

 宮田は南をしばらく見つめてから言った。

「大変そうですね」

「大変だけど、この感情は忘れたくないもんだよ。まぁ、そのうちわかるって」

 宮田あおの顔が曇るのにも気付かずに南は教室を出た。

 夕陽が校庭を覆っていた。


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