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ひまわり  作者: 雪之都鳥
第四章
49/65

六、

 昨日は昼に出したメッセージに返信は夜に一回だけだった。

「何よそんなイライラして珍しい」

 南の母親は心配というより好奇心のある表情を見せた。髪のさらさらした清純の跡を残しながら唯一ほうれい線が年の重なりを表している。

「なんでもないよ」

 南はご飯は要らないといいながら、二階の自分の部屋に繋がる階段を駆けるように上っていく。部屋に入ると、南の視線はカラーボックスに向いた。

「そこには、もう答えなんか」

 恥ずかしがりながら買った少女漫画も、向日葵に似た主人公なんていなかった。からといって少年コミックを買ってみても、それほどタフでもない。だからこそ繊細なんだと結論付けても胸の不安は治らない。

「疲れた」

 睡魔が南を襲う。焦燥感に駆られ疲れ、これくらいなら永遠に眠りたいと目を閉じた。浅い眠りが続いた。何度も起きて寝たりしたが、ついに諦めベッドから下りると台所に行き牛乳をレンジで温めて飲んだ。

「どうすりゃいいんだよ」

  こんなん始めからなければ、とそこまで辿り着いたが向日葵の笑顔が頭から離れない。怒った顔も、悲しそうな顔も、脳裏から離れない。どうするべきだろうか。

 再びベットに横になっても、シーツが冷たいだけで後は何もない。この冷たさに向日葵のことを思い出しては孤独感に包まれていく。

「好きだ」

 毎晩そこへ帰ってくる。会いたい、それに苦しむ。向日葵の好きが聞きたくて、アプリを開いてはやめるを繰り返す。

「女々しすぎる・・・・・・」

 仰向けになると天井のランプが薄明るく自分を照らしていて、あの月を思い出した。向日葵の横顔の輪郭を色濃くした帰り道に「月が綺麗ですね」なんて洒落た二人の共通点。あの感性は自分らの赤い糸だ。南はあの瞳にやっと浮かんだ月をいつまでも消したくはなかった。

「そうだ、俺があの笑顔を守ると決めたんだ」

 弱気になってどうする、と掛け布団を強く握りしめて睡眠に入った。



 暗雲が立ち込めている空の下を歩きながら、隣にいる彼女をチラリと見る南は何かを押し計らっていた。

「見過ぎ」

「いいじゃん、俺の彼女なんだし」

「・・・・・・馬鹿」

 何故か向日葵が足を早めて歩き出す。南は追いかけて腕を掴んだ。「どこに行くの?」

「別に、急にそれらしいこと言い出すから」

「・・・・・・それらしいこと? 」

 直感が確信に変わったのをよく表情に出していた彼氏を見て胸が跳ねた向日葵は初めての体験に息を呑む。

「ごめん、恋愛とかわからなくて」

「知ってるから言わなくていい」

 南はその手を握り、歩き始めた。

「でも俺からは逃げないで」

 悲しくなるから、と言われて向日葵は俯いた。自分の彼氏に悲しい思いをさせていたと。

「本当に、ごめん。自分のことしか考えていなかったな、私」

「あ、謝らなくていいよ。俺も、そうだったかもしれない」

 二人して唇を結び、俯いて歩く。向日葵は胸が締め付けられるのはアレにも似ているという言葉が脳裏を過ぎったが過ぎる寸前に違和感を生じさせてまた思い悩む。

「南、別れようか」

 その言葉に、南の体は止まった。目を合わせると、眼光が揺れて動いて鋭かった。

「・・・・何言ってんの? 」

 向日葵はその瞳を見て悲しくなって、そっぽを向いた。こっち向いてよと、との言葉に目を合わせる。その目は向日葵を捉えて離さなかった。

「俺が何年も向日葵一筋だったの、覚えてないの」

 心臓が跳ねる。向日葵は失言を味わった。

「ごめん、でも私と付き合うのはきっと辛いことだと思うだから」

 向日葵が言いかけてやめろ、と聞いたことのない低い声で南は彼女の腕を掴んだ。

「俺が別れたいなんていつ言ったんだよ」

「それは・・・・・・」

 ないよな、とその先を言わせず向日葵はその早足に必死で着いていくだけだった。

「絶対別れないから」

 南はそれっ切り何も話さなかった。



 下校、南と無言で別れて帰宅。疲労したようで、胸焼けがしていた。向日葵は書斎に入って、回転椅子に腰掛ける。膝に乗ってきたごましおを撫でながらあの目を忘れることができずに涙をこぼした。

「なぜ泣く、私」

 何が悲しくて泣いてるんだ。一考に答えもせず涙だけが溢れていく。

「わからない、わからないよ」

 とあの日の恐怖が蘇った。そうか、と気付い苦しくなりごましおがそれを感じ取る前に早々と洗面台に立ち顔を洗った。鏡に何の変哲もない自分が映る。

「早く死んでほしい」

 何度そう思ったことか。鏡越しの自分と目が合い、抉り取りたくなる。闇に包まれた深い瞳は、光もないくせに奇妙に透き通り弱さを見せている。しばらくそこで息をしていた。



 

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