十三、
俺は私服でコンビニを出た。冬の夜空は寒い。腕を摩った。
「寒いな」
俺はスマホを見て、またため息をついた。既読がついていない。また、誰かと居るのだろうか。また、俺以外の女と肌を合わせているのか。
そんなものを抱きながら今日も安いアパートに帰っていく。泣き虫な少女と彼氏を視界の片隅に入れながら、ユニセックスのロングブーツを履き鳴らして歩いた。
家に帰る前に手前のスーパーで料理の材料を買いながら、わずかな期待をしていた。何をあの人と食べようかな、何を作ろうかな。
・・・こんな時は女みたいになっちまう。女なんだけど、女じゃないんだよ俺は。もっと、男らしくなりたい。
だが家に帰っても、誰もいなかった。置いていた料理だけ残っていた。いつものことだ。彼が食べるはずのシチューを、自分で食べる。我ながら惨めだなと心の奥で笑った。
スプーンの冷たさで料理が旨くない。窓から隙間風が漏れていたのでそれを閉じた。
カレンダーは彼の誕生日を祝っている。玄関に買い占めたたくさんのものは、消耗品として俺の手で減っていくのだろう。
惨めな女だ、つくづく思う。彼氏を向日葵たちに見せた時の姿、自分の服装忘れられないんだよ。あんなの着たくない、着たくないけど。
・・・蓮は純心な女の子らしい女が好きだから。だからあの日、向日葵を追いかけるような行動に出てしまったのだろうな。
愛されていないのはわかっているんだよ。いるんだが、好きなもんな好きなんだよ。
俺は呪文のようにあの言葉を思い出すんだ。
「別にいいんじゃない、好きに生きれば」
それが、頭から離れないで私を縛りつけている。
ああ、と俺は眉をしかめる。なんで俺、向日葵たちに紹介なんてしたんだろう。全く意味のないことだった。無意味だった。
そこで電話がかかってくる、慌てて電話に出ると蓮の声だった。
真っ先に言うはずだった。おめでとうは、その時に崩れて粉々になった。聞こえてくるのは女の甘い声、蓮は俺と話しながらその声に応じている。
「今日、帰らないから」
私は力なく頷いた。うん、と言うのを忘れた。じゃあ、と最後に接続が切れる音。
俺は両腕に顔を埋めて静かに泣いた。
「なんで、なんで、俺は男に生まれてきたんだ」
そんな言葉さえ惨めで終わってしまう自分を殴ってやりたくなる。
付き合った当初は、俺も俺らしかった。だが彼の「もっと女らしくなれよ」に俺は自分を捨てた。
あの別にいいんじゃないは、私を受け入れてくれた言葉じゃなかったんだね、なぁ蓮。
「俺のこと、受け入れてくれる奴は、奴は」
と、俺は自分から突き放したダチを今更思い出してその番号を打っていた。
「もしもし、久しぶりだねアン」
アンと呼ばれる、そう向日葵の中では、いつでもアンなんだ。赤毛のアン、からきた名称懐かしくなった。最初の俺の言葉は「助けて」だった。
向日葵に助けを求めたことはなかった。ただ、俺が慰めるだけの依存関係だった。もしかしたら、最悪な結果になってしまうかもしれかい。だが俺は言ってしまった。
スマホをテーブルに置き、涙も慣れて消えてしまっていた。窓際の枯れかけのサフランに目をやる。ガラスに入ったその一輪の花をしばらく見つめていた。その花言葉は、確か「ためらい」と「遅れ」
そこではたりと、そうか俺は向日葵の差し出すその手にためらっていたのか。そうだ、もう遅いよな。
少し前に南からなぜか貰った花。たまたま、花屋で見かけたらしい。綺麗だ、どっかの誰かさんみたいに。




