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ひまわり  作者: 雪之都鳥
第三章
28/65

一、

 アンの家では南と向日葵が足をくつろげていた。必要最低限のものしかない殺風景の部屋。朝になって見てみると、その性格が透けて見えた気がして向日葵はまたコロンの匂いを嗅いだ。アン、と呼ぶ。

「アンって男のコロンつけてるの? 」

 アンは振り返った。なぜ、と尋ねられる。向日葵はカーテンの匂いがほろ苦いビターチョコレートの匂いがすると伝えた。アンはそうか、と手元に目を落とした。ベーコンと卵の香ばしい匂いが充満した。

 向日葵はこの時初めてアンに疑心を持った。なぜ隠すのだろうかと。それは心配と不安からくるものだった。だが向日葵はそれ以上言及しなかった。南はその二人の様子を伺って、なにかの予兆を感じた。

 ベーコン巻きが食卓に並べられた。胡椒の芳ばしい香りが向日葵と南の鼻に通る。コロンは消えた。三人が食卓を囲む。南はそれを箸でつまんで好奇心に眺めてからかじって。向日葵もかじる。アスパラのいい塩梅の甘さと青臭さ、豚肉についた胡椒の効き具合がとてもうまく感じた。

 アンは黙々とそれを食べている。コロンの件から、アンはいつもとおかしかった。手も震えていて、思わず向日葵が触るとびくりと手が動いた。だがアンは直ぐに笑ってその頭を撫でた。

 南はそれを横目で見ていたが、嫉妬は起こさなかった。ただ、二人の仲良し具合が、自分を除外されているように感じただけでアスパラガスと豚肉の胡椒味は美味かった。

 アンの家は三人にとって身軽に入れる別荘になった。よくその二人が彼女の家に行ったものだった。

 


 

 田中等はというと、二人して暇だなと土手に座り他愛のないことを話しながらそこ等辺の形のいい石を取り、水切りをしていた。それでも彼らは満たされなかった。

 田中等は思い切り、向日葵の家へ行こうと足を向けて途中佐藤が「やめようよ」というがさすがの田中はまっしぐらであった。

 門を遠慮なくさん五度殴って、和美が出てきた。出てきたとき、佐藤はその目がギラついたように見えたが気のせいだろうと胸におさめた。「すみません、田中が聞かなくて」

 実質今まで図々しさ限りなくの姿を見ていた和美は、それに免じてどうぞと笑みを浮かべた。

 茶の間に二人は案内された。二人が、向日葵は、と尋ねると母親はその目を曇らせた。それは明らかで、二人は戸惑いを見せた。

「ああ、いいえ。ごめんなさいね。向日葵は今、出かけているのよ」

 和美は茶柱の立った湯呑みを伏せ目に見ていた。佐藤がどこにいるのかと問うと、和美は頭を振った。「きっと、そこら辺で遊んでるわ。ごめんなさいね。今急いでいるの」と母親は客間を出た。

 田中と佐藤は顔を見合わせた。向日葵はどこなんだよ、と田中はイラついたようすで貧乏揺すりをした。「大丈夫だって、訃報を受けたんじゃあるまいし」佐藤はそれを言ったが、薄ら焦りを感じた。

「世の中物騒だからなぁ」となんとも不吉なことを言う田中。佐藤は洒落にならないと言葉にはしなかったが眉間にシワを寄せた。その色素の薄い瞳は蛍光灯に照らされさらに薄くなった。

「田中、南からなんか連絡きた? 」

「来てない、あいつ俺たちのこと興味ないんだきっと」

 それには佐藤も鈍感なようであいつは向日葵のことしか考えてないと声に出して頷いた。

 かねてから二人が抱いていたトゲは南に対してだった。南は学校ではそれについては有名だが常に行動をする二人にとっては自分らも同類なのが心底気に食わなかった。だから、嫌いなわけではないのだ。その怒りは彼への愛情不足といったら付合するかもしれない。


 一方、三人はまだ食卓を囲いテレビを見ていた。三人とも無表情でバラエティ番組を見ている。「つまんねー」とアンが言わなければ向日葵はイエスと同意を示せなかった。南も無関心でしまいには勝手にテレビを消して小説を開いを見て、自分の無力を感じた。「自分は」と小さな声で咳き、次の言葉は胸に抑えた。料理それだけであった。つまらない人間だとアンは思った。も濯掃除、間違いなくできる。ただ、それだけしかやろうと思わなかった。

 こんなつまんない奴だからな、とアンは自分に行った。こんな中身のない奴だからな、と自分を卑しめ始める。突然発作のようにこの症状だ。胸が苦しくなる。彼女が感じた向日葵との共通点であった。

 男のコロンという言葉を聞いて、内心アンは動揺していた。毎日カーテンはコロンの匂いだった。毎朝つけられていく染みのようだった。

 向日葵は寝てしまった。南は自分の上着を向日葵の背にかけて少し離れたところで本を読んでいた。無防備な女性もいるのは危険だと判断したからだ。

 アンは温めたミルクを人数分置いたが、向日葵を見て嘆息した。「可愛い女だな」と言いながら、腰を下ろす。ミルクはアイスミルクになるだろうと言った。

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