十八、
「宮田あお」は図書委員で、この日も図書室で本棚の整理をしていた。左向きに設置された六つの本棚の左から数えて三番目だ。本来は支所の仕事であるが、時折ボランティアとして仕事を手伝うのだ。
向日葵が不登校になり二週間目の月曜日。月曜日は向日葵は登校を始めたのを耳にはしていたが、実物は拝めていなかった。しばらくうち沈んでいた彼であったがこの日ばかりは鼻歌をしていた。
だが廊下が意図もせず賑やかになり、その声の内容が聞き取れるに連れて宮田は眉をひそめた。
「やっと登校してきたね、日暮さん」
「ねー、あの不登校児」
二人の足音が近づき、やがて二番目の本棚を通る。その本の隙間から見た顔に見覚えがあった。曽て女子たちを騒ぎ立てた彼女らだった。
不登校児とは何事だと、今にも体が飛びかかるのを抑えて一呼吸した。彼の脳裏によぎった向日葵が、冷静さを与えたのだ。
「違う、日暮さんなら・・・・・・」
———自分が悪い。そう言うだろうと彼は思った。彼女らは向日葵の内情をしらないはずだ、悪くは言えない。むしろ彼女らを邪険に扱ったのは自分だと、言うだろうと明確に判断した。
騒ぎ立てるわけにはいかない。と彼はせめて耳をそばだてた。彼女らは何ら考えもせず発言をする。向日葵なら“ああ言う”とは思ったが僕自身はそんなことは知らない。と宮田は踏み台から下りてそちらへ回った。
「ずいぶんと、楽しそうに彼女のことを話していましたね」
少し皮肉めいた言葉に、彼女たちは目を見張った。彼の顔はいつも通りにこやかで、その言葉だけを聞き流してしまったようだった。え、と女たちはは口ごもる。
「陰口は、悪いと思いますよ」
何冊か本を棚に戻し、机の上にある自身の借りた本を脇に抱え出て行った。
昇降口に出て低い階段を降り、ベンチに座り宮田は両手でコッペパンをかじった。美味しいな、と思いつつ口に運びながら正門から出て行く生徒を観察する。静かな時間が流れていたが、空が茜色に染まってる染まり、雲がその影響を受ける頃に一瞬騒がしくなった。 派手な女子生徒達が群れを作り、高い声で笑いながら校門を出て行く。宮田はその真ん中で難しい顔をしている少女を見て笑いそうになった。
無意識に見ていたのだろう、目が合ったのに気付き宮田はさ即座に隠れる。向日葵は、その姿を捉えたが周りの反応するのがめんどそうだからとそれを見逃した。




