十七、
「ほんとに、お前は」
あと一歩先で止まり、南は振り向いた。ため息混じりに口を開く。
「お前は、女なんだから。こんな暗い時間に、あんな所で」
相変わらずだ、自分に過保護なのは。そう心の中で少し笑った後、直ぐに悲しみが訪れた。こんなに心配されているのに、笑ってしまうのが、自分の癖だなんて。その悲しみを込めて「ありがとう」と絞った声で言った。
「・・・・・・なんてな。ごめんな、彼氏でもないのに」
最後の言葉に、向日葵は息を飲んだ。その一言だけ、ひやりとした憎しみと温かい悲しみを感じ取った気がしたのだ。
向日葵は手を握りしめる。謝ろうとした。だが、その言葉を南は遮るように「謝んな」と言った。向日葵は唇を噛みしめる。
その後、次の言葉を二人が紡ぐことは無かった。
玄関に上がり、靴を履くのさえもダルいくらいに向日葵は疲れていた。そのせいか腹の虫が鳴る。
「お夕飯ができてますよ、向日葵」
「お母さん、ありがとう」
母親が過ぎ去ると、深く息をついて部屋へ向かった。
南とは、中学校が出会いであった。その頃から南は向日葵に「アプローチ」と言うものをしていたのだが、それは向日葵の言う「付きまとい」であった。
なんていうことを、向日葵はベットにうつ伏せで足をばたつかせながら思い出していた。
「・・・・・・でも」
彼が、居なかったら私は誰に支えられていたんだろう、そんな人、いるのだろうか。向日葵は混乱した頭の中薄っすらと過ぎったその思考を抱えながら、スタンドライトを消した。
久しぶりの登校だった。中途、土手道を通りかかり彼女は足を止めた。昨日の雨で濡れた芝生、トンネルも静けさを残していた。その奥に、秘密基地がある。
「あそこに・・・・・・」
いたんだ、と向日葵は流したくなった涙を堪えた。そして、彼女を見ている南が悲しい顔をしていることに気付き大股で歩き出した。
「無理すんなよ」
そういいながら、少し離れて歩く南。向日葵が何かを言った。南が聞き返すと、びっくりするようなくらい大きな声で向日葵は言った。
「無理しても、しなくてもどっちみち学校は行かなきゃいけないんでしょどうせ。みんなそう言いたいんだ」
と、また怒った風に歩く彼女は南からしたらどこか可笑しかった。彼は、少し笑顔でまた追いかけた。




