九、
陰に陽に、実質的に支えていたのは彼らであった。向日葵はそれを知っていた。だが、彼女は“独り”なのである。決して胸の内を明かさない、それが彼女だった。
「今日は来んな! 」
向日葵は口から吐き出すように、声をあげた。田中と佐藤は口を開け放して、向日葵を見た。それには今度は向日葵もわけがわからず、びっくりした顔になる。
「向日葵。俺、泣くわ」
そう佐藤が、潤んだ瞳で田中を見た。彼らは向日葵が普段何も言えないのを感じ取っていた。田中は向日葵、と飛びつきそうになったが同伴していた南に止められる。
「信じられない、ひまが物言うなんて」
文学系の佐藤が、目をこすって瞬きをする。 その隣で田中はまだぼけっとしている。
向日葵は俯いているのに気付いた佐藤が表情を伺う。「大丈夫か? 俺ら変なこと言っちゃった?」向日葵は顔を横に振る、
結んだ手に込めた力で彼女が言った言葉は、「ありがとう」だった。
田中はまた顔色を明るくして、「気にすんなって! 友達なんだし俺たち」と向日葵の背中を軽く叩いた。
向日葵は、頬を濡らす涙に気付いた。どうしよう、と向日葵は心中思いながら涙を拭く。周りが励ましてくれたが、泣いた姿は見られたくなかった。
「ごめんなさい! 」
向日葵は駆けた。三人は茫然とその姿が見えなくなるまで見届けた。空には、巻雲が一天に伸びていた。
久しぶりに家は静かに時を流していた。縁側で寝そべり、漫画を読んでいた。
「やっぱり一人はいいなー、ねぇごましお」
ごましおは、その丸い尻尾を振った。ごましおは、向日葵が小学六年生の頃から共に過ごした友達であった。彼は縁側で向日葵が泣きべそを書いている時に、何食わぬ顔で向日葵を見上げていた。
毎日、ごましおは向日葵の元へやってきた。言わずもがな、餌が目的ではあったが泣いている向日葵に寄り添そってくれた理解者なのであった。
「私は、恵まれているじゃんか」
寝転び、空に伸びた雲を眺めながら向日葵は言った。にゃ、と猫が応える。その頭を撫でながら、向日葵は「恵まれている」と、目を閉じた。




