不幸おすそ分けします。
勢いでプロローグだけ書いた。後悔はしていない。
これは世界で一番不幸で、世界で一番幸せになった男の物語。
男にはありとあらゆる場面で不幸が訪れた。
男にはお約束が必ず訪れる。
男には求めるものは手に入らない。
男には避けたい事象が避けられない。
男にはすべてが許されない。
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某国所にて
「いててて・・・。」
男は足を挫いていた。それは単に足元に転がる小さな石ころを跨いだせいである。
「勘弁してくれよ・・・・・、あぁ・・・アスファルトが熱い・・・。」
男は何とか住宅街の塀を伝って立ち上がると、偶々手を付いた所に噛み終わったガムが張り付けてあった。
「マジかぁ・・・くっせ・・・。」
ポケットにあるティッシュで拭き取ろうとしたが、ポケットティッシュは袋しかなく、中身が無かった。
「クソッ、このハンカチは母さんに貰ったんだぞ・・・。」
十八の誕生日に、良いものを持っておきなさいとプレゼントされた、有名ブランドのハンカチで、手に引っ付いた異臭のするガムをふき取って何とか歩き出した。
今は八月、猛暑日にして、風もなく、照り返すアスファルトからの反射光に目を細めながら、男は病院へと足を向けた。
男は生まれてからずっと不幸だった。
だが希望が消えるほどでは無かった。
しかしその希望に陰りが見え始めたのはいつのころだっただろうか?
十歳の誕生日に父親が死んだ。誕生日プレゼントを買いに行った帰りに、何故か蓋の無くなっていたマンホールに落ちたのだそうだ。
その翌年には、大変可愛がってくれていた祖父が死んだ。息子を先に無くしたことによる心労がたたって、病に倒れたのだ。
そのさらに翌年には、祖母が死んだ。祖父が居ないことに耐えられなくなったそうだ。後追いだった。
少し時間が空き、兄が死んだ。高校の入学式の日だった。元気よく部活の道具の入ったスポーツバッグを持っていくのを見送ったのが最後だった。
さらに翌年、妹が死んだ。一人で留守番をしているときに階段から落ちて頭を打った。即死だったそうだ。
また少し間が開き、幼馴染が死んだ。我が家に男を迎えに来た時に家の前で車に跳ねられた。明確な殺意を持った教師の仕業だった。
高校卒業と同時に、母が病に倒れた。大学にはいかなかった。家を売った。保険も解約した。だが治療費には足りなかった。そして母も死んだ。
男は一人になった。家も、家族も、幼馴染も、お金も、全てを失った。
だがまだ男には縋りつける希望があった。それは思い出。家族との思い出、母の父の兄の妹の祖父の祖母の思い出。
だが男は悪夢にうなされる毎日だった。
「お前のせいで死んだ。」「貴方が殺した。」「お兄ちゃんのせい。」「あんなに可愛がってやったのに。」
毎日同じ夢を見る。昨日も、今日もそしてきっと明日も・・・。
だが男は前向きだった。まだ俺は生きてる。だからきっと大丈夫。そう信じる事で、運命に逆らい続けた。
男は毎日事故にあう。何故なら路上で生活しているから。
男は毎日腹を壊す。何故なら公園の水道は錆びているから。
男は毎日石を投げられる。何故なら子供は無邪気だから。
男は毎日ヤンキーに絡まれる。何故なら子供は無邪気・・・・。
「ヤンキーは子供に入れて良いのか・・・?」
未成年は多感だから・・・。
男はついに力尽きた。体は既にボロボロで、いくつもの病気に侵されていた。
男は最後の一時迄足掻き続ける。何故なら。
「家族みんなに貰った命なのに・・・。失う訳にはいかない・・・・。」
だが男の瞼にはもう力が入らない。目を閉じてしまえばきっと家族に会えるだろう。
だがきっと、夢と同じ言葉を男に浴びせるだろう。そう思っていた。男に恐怖が訪れた。
男の希望は失われた。体を丸める事も出来ずに、只死を恐れ、涙を流した。
「罰が・・・。バチが当たったのかなぁ。俺はやっぱり、一番最初に死ぬべきだったのかなぁ?」
希望の防波堤が崩れた時、後悔の波が襲寄せた。
「皆俺が殺したようなもんだなぁ。このまま・・・。」
男の意識はそこで途切れた。
男にも漸く安息が・・・・・・・訪れない。
その気になったらちょっと書くような感じです。
続きが気になるようなら、せっついてください。