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第3話 その者ら、節穴につき3

国王はそれを聞いて驚きを見せた。


「なんと!チキュウと言えば我が世界では歴代の勇者の故郷との認識であったが、勇者殿の世界に召喚された恥知らずの故郷もまたチキュウであったか!」


「如何にも」


「……」


リサは眉間に指をあて呻いた。

もう、突っ込みどころ満載である。

何度も言うが、この国王の反応は素である。大真面目である。

小賢しい割にこういう処が素直過ぎて困るのだ。


「ところで、勇者殿を何とお呼びすれば良いかの?」


国王の眼がきらりと光ったのを見て、リサは慌てて顔を上げた。

国王の後ろでは、黒衣の男が懐に手を忍ばせるのを見た。


まずい!


咄嗟に魔術師長の姿を求めれば、まだ意識が戻り切っていないのか、離れた位置で母に介抱されている。

こちらに何かを仕掛ける様子はない。


ほっと息をついた瞬間、


「我が名を求めるか、よかろう。ただし覚悟せよ我が名はア……」


「マオウさん!!」


リサは咄嗟に叫んだ。


「……なんだ、娘よ」


この至近距離でスプラッタは見たくない。

咄嗟の事でさん付けになったりとか、呼び方があまりにもまずいものであったりするが、リサはとにかく必死だった。


ぱんっ!


何かが破裂する音を聞いた。

とても軽い音だった。

そしてそれが破裂するさまをリサの目は捉えた。


リサの視線を追って、国王が背後を振り返る。


特に異常はない。


あるとすれば、背後にいた筈の男の姿が何処にもない事だった。


リサはその一部始終を見た。


異形が発したその一音。

その存在の名を現すたった一音のみだ。

男は懐に忍ばせた何かを以てその異形の発した一音を拾いあげた。


そして弾けた。


肉片レベルではない。恐らく分子レベルでだ。

存在自体が弾けたのだ。


それをリサ同様の目撃した者たちは声もなかった。

一様に顔色が悪い。中には意識を手放した者もいる。


それを知らぬ国王は大いに顔を顰めた。

おそらく、先ほどの破裂音は何らかの手段を以て男が逃走したと勘違いしたのだろう。


国王は表情を取り繕い、歪な笑みを浮かべる。


「なんと、ア・マオウ殿と申すのか。そう言えば、我が祖たる勇者の好物がそういった名の果実であったと記憶しておる」


「ほう、果実の名か。悪くはない」


そう、話を合わせる異形に何ら変化はない。



身の程を知らぬ無恥が、名の一文字を無断で拾いあげ懐に収めようとして消えただけの事だった。どうと言うことでもない。

たかが人一人。非はあちらにある。

それを理解しているのは突然割って入ってきた小柄な人族の娘とこの場にいる幾人か。

まあ、それで十分ではある。

知る者が少なければそれだけ「ここ」は過ごしやすいことだろう。

()()()()()()は内心、上機嫌だ。


「我が名は力があり過ぎるが故に何者も呼ぼうとはせぬ。まあ、あの小僧は姦しく連呼しておったがの」


何かにつけて、喧嘩腰の勇者が脳裏を掠めるが、それは記憶の彼方に消し去る。


しかし面白い。

真名の一文字に魔王を足せば異世界の果実の名に転じるとは。

これで、堅苦しい肩書ともしばらくはおさらばだ。

魔王の肩書と真名は意味を為さぬ発音で以て呼ばれるが故にその身にかかる災難の防波堤となってくれよう。主に、先ほどのようにうっかり人が弾けぬ程度に。


今は勇者の肩書でごっこ遊びでも楽しもう。

あの《《女神》》もそう言っていた。


女神と言えば、伝言を預かっていたのを思い出す。


魔王の目の前に必死に立つ小さな娘。

その身から出る、女神より聞いた特徴に齟齬ない事を確認し、異世界の魔王改めア・マオウはひとつ頷いた。


うむ。この娘で間違いない。



魔王の三眼がじっとリサを凝視したのち、ア・マオウがひとつ頷くのを目にし、リサは緊張に身を強張らせた。


「あの、何か……?」


「娘、汝は聖女ぞ」


唐突に告げられたその言葉にリサは咄嗟について行けなかった。


「……は?」


相手がどういう存在かも忘れて素で聞き返す。


「汝は聖女ぞ」


「待って。待ってください。今意味を理解します」


怪訝な表情のア・マオウの顔の前に右手を突き出し、左手で額を押さえて下を向く。

周囲で何もリアクションが起きていないのは、きっとリサ同様にこの魔……ア・マオウの言葉が理解できていないからに違いない。


異世界言語翻訳機能仕事しろ……。


「あの、もう一回だけ、言って貰えますか?」


言葉遣いがすでにフランクだが、それにすらもリサは気づけないでいた。


「汝は聖女ぞ」


「絶対嘘でしょう!?」


「嘘ではない」


「根拠は!?」


「女神に伝言を頼まれた」


「女神!?伝言って何ですか!?」


「だから、お前が聖女であると」


「嘘ですよね!」


「だから嘘ではないと言っておる」


「そんな……」


リサはその場で膝から崩れ落ちた。

その様子を見たア・マオウはひとつ溜息をつく。


「女神が言うには、神託を下そうにも地上は勇者召喚の準備で殺気立ち、神託を受け取れる状況ではなかったと言っていたぞ」


その言葉を聞いて神官たちがさっと目を反らす。


「なので、直接本人に何度も伝えたが、本人は一向に聞き入れる気配はなく、それはもう頑固で困っていると」


「そう言えば最近、自称女神のきれいな女の人がそんな事を言ってくる夢を毎晩見てたような……」


「何故それをただの夢と割り切った……」


「最近激務続きで、毎晩同じ夢を見るくらい精神的に追い詰められてるんだなと思ってました」


「まあ、激務が続けば普通はそう思うであろうな」


魔王は己が身に当てはめてみて重々しく同意を示した。




















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