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第1話 その者ら、節穴につき

勇者を祖に持つとある国の城の最奥の間。

そこでそれらは行われていた。

神官たちが祈りを捧げ、魔術師たちが魔力を注ぐそれは召喚陣。

かつて、世界の危機に瀕した際、神が賢者に与えたもうた救済であるとされる。


そう、この国を中心としたこの世界は危機に瀕しているのである。


人心が乱れ、暴力が横行し、飢えに喘ぐ者達、魔物が狂い数を増やし、魔族が活力を得る。

全ての原因は魔王の顕現である。


その兆しを感じ取った神殿は急ぎ各国へと伝令を飛ばし、神へと召喚陣使用の許可を得る祈りを捧げ、知恵ある学者、力ある魔術師、より敬虔なる神の信徒を集め、王の指揮の元、世界の命運を担う勇者召喚の儀を行う運びとなったのだ。


魔術師たちの詠唱に神官の祈りが重なる。

召喚陣が淡く光りだした。

全ての希望を託された国王はその様を固唾を呑み込みながらそれを見守った。


大陸最高峰たる大魔術師と大司教の詠唱と祈りが重なり、召喚陣が強く輝きだした。

光は陣の収束し光が膨張する。

異常を察した控えの魔術師たちが陣の周囲に防御魔法を展開する。

しかし、光は魔法さえも飲み込まんとする。

それを見た神官たちが慌てて結界を張る。


「おお……」


その様を見て国王はわが身の危機すら忘れ、感嘆の声をあげた。

20人近くある魔術師たちの防御魔法すらものともせず、神官たちの結界すら今にも壊れんと悲鳴をあげている。


それすなわち、召喚される勇者の力の強さ、膨大さを表している。

これであれば、魔王を打ち滅ぼすことすら容易いかもしれない。

国王の心は俄かに浮足立った。



そして、それと全く同じ光景を国王の立つ場所の更に後方で見つめる人物がいた。

文官の末席に名を連ねるリサ・メルディスである。

栗色の髪をきれいに一つに纏め上げ、その身にあつらえているのは男物の文官服である。顔立ちは年齢の割には幼く、鼻の上に散ったそばかすが見る者への愛嬌を印象付けた。

黒ぶちの無粋で分厚いメガネの奥では碧眼が驚愕にゆれている。

国王とは真逆の恐怖を以て。


リサは震えていた。

古来より、勇者と呼ばれるものの召喚は魔王が現れた際の慣わしである。

異世界より招かれた勇者はこの世界の強者と呼ばれる者らとは桁違いの力を持って現れる。召喚された勇者の話は美談を以て語られる。

だがしかし、実際の歴史書を紐解き、その辿り着いた《《推測》》の中で一体どれ程の割合で勇者が美談のまま生涯を終えたのか。


「世界の脅威」とは、勇者が魔王を倒して終わりではない。

魔王を倒した勇者の《《始末》》がついてやっと「世界の脅威」に終わりが来るのだ。


古今東西、異端者は得てして排除対象となり得るものだ。それがたとえ魔王を倒した勇者であっても。

そもそも、とリサは思う。この世界は理不尽で、無責任である。

「出した物はしまえ」と子に口うるさい母の言葉は至言であると言えよう。

なのに、この世界は神を含め、呼び出した存在を元の世界に返すことがない。

歴代の勇者の中で旅立った者のほとんどが、故郷への手がかりを探しに旅に出る。

そして、そのまま消息を絶つのだ。

その中で一体何割が故郷へ帰り、または《《それ》》を装って消されたかもしれない。《《その過程》》でいくつ国が滅びたかも。


そして上手く立ち回り、魔王が現れた際に勇者召喚の権限を確保した勇者の、末裔たるこの国の王は祖王の憂いそっちのけで、今また勇者を召喚し、用が済めば消すか飼うかを足りない頭で必死に考えている事だろう。


この国の一文官に過ぎず、世界の情勢にそれ程詳しい立場にいる訳ではない。がそれ故に思う。この国が音頭を取っての勇者召喚は間違いなく悪手だ。

多少察しが良い者であれば、魔王の前にまずこの国を亡ぼすだろう。

そのくらいこの国の王は愚鈍で強欲で傲慢だ。


国王の背後に控える黒衣の魔術師を見る。

その男の口元は歪ににやついている。

国王が呼び寄せた、隷属を専門に行う魔術師だ。

どれほど強固で強力な存在であっても受肉さえしていれば隷属は可能と豪語する男の力量は恐らく本物だろう。目測での力量とは別に何某かの禍々しさを感じる。


召喚した勇者を油断させ、名を縛る腹積もりであるらしい。

その隣には我が国の魔術師長が苦い顔で控えている。

この国を治める上での数少ない《《まとも》》な人間の一人である。

腕のいい魔術師であった母に連れられて行った先には必ず彼がいた。

リサが小さな頃は孫のように可愛がってもらったものだ。

その彼も、この国の王だけでなく、世界各地の王や権力者の命により、勇者を隷属させる為の片棒を担がされる事となったのだ。


他国の思惑は一致している。

例え勇者の機嫌を損ねたとしても、国ひとつを代償に世界が救われるのだ。

安いものだと言えるだろう。

その際に召喚の権利は宙に浮く。中立たる教会の管轄となる前にその権利を手に入れる。とかなんとか考えているのだろう、それくらいこの国の王は他国から舐められているのだ。


そして、この国内の《《まともな》》人たちはその事を憂いている。

それ故にこの場には有能な人たちが集められている。

リサもそれ故にこの場に立たされた。

魔術師協会の副主任たる母と、司教補佐たる父を持つが故に。


そして気が付けば、収束し、膨張する光の本流が目に焼き付いた。

「まずい!」

咄嗟に反応し、リサは自身でも防御壁を展開し、


光が爆発した。





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