主従契約しました
どうやら私が見ていたのは鶏のひよこではなかったらしい。
「たまたまコカトリスの卵を見つけてね」
「コカトリス?」
「ほら、尾っぽがこうだろう?」
店員さんが水槽に手を突っ込んで見せてくれたひよこのお尻にはちっちゃい蛇が付いていました。
「卵から孵したコカトリスは人に懐いて主従関係を結べるっていうから、試してみようかなって思っていたんだ」
そうだった。ここはペットショップじゃなくて「魔物屋」だった、と改めて思い出す。
店員さんに握られたコカトリスはつぶらな瞳で見つめて「ピィ」と鳴いてくる。
「たぶん、君を親だと認識してるから、主従関係結べたんじゃないかな?」
と店員さんに言われる。
「と、言われても……」
主従関係なんてなったかどうかなんてわからないので何とも言えない。
「あ、僕テイムの能力持ってるから、魔獣が主従関係になっているかどうかわかるから見ようか」
そういって、ヒヨコ(というかコカトリスの子?)を二羽つかんでじっと見る。
「……」
「ピィー」
「ピッ」
「うん、主従関係になってるね。ご主人様登録どうする?」
いきなり卵の孵化を見ていたらコカトリスが仲間になってしまった…。ていうかご主人様登録って…。
と、ポカンとしていたら
「ああ、魔物と主従関係になるの初めての人なのかな? 魔物はね、ちゃんと契約を結んであげたほうが言うこと聞くし、安心もするんだ。何かあったら自分のことを護ってもくれるし」
雇用契約みたいなものだろうか。
「なので、この子達、飼ってもらえないかな?」
魔物屋さんにいって、孵化する卵を見ていたら、勝手に主従契約されて、コカトリスを2羽押し付けられそうです。
押し売り?
「ああ!もちろんお代はいらないよ。こっちのミスみたいなものだし。よかったら他の魔物もサービスでつけるから」
タダより高いものはないっていうからね…。
「あとね、コカトリス、成長したら卵を1日に1個産むんだけど、なんとその卵美味しいし、生で食べれるんだよ!」
「飼います」
うっかり、卵に惹かれてしまった。
生卵を食べられる誘惑に惹かれてついコカトリスを飼うことにしたけれども、安全面とかエサとかはどうなんだろう、とおもい心配して聞いてみると
「主従契約したら、むしろ身を守ってくれるから君に害をなす人が安全じゃないかもだけど、君がなにかなるってことは絶対にないよ」
とのこと。
「あと、餌は、もし畑があったらそこに放してやったらいいよ。自分たちでミミズとか虫とか捕まえて食べてくれるから」
もうそこまでくると尻尾に蛇がいるだけど鶏である。
「雨に弱いから、小屋だけはちっちゃくていいから作ってあげてほしいんだけど…コカトリスの小屋つくったこと……」
「ないです」
「だよねえ……。んーどうしよか……あ、親方暇かなあ……」
そういうと、奥に向かって
「みゃーちゃん!ちょっとお願い」
そういって声をかけた。
「にゃーん」
お店の奥からはつやつや毛並みの黒猫がやってきて、店員さんの足元にすりすりする。
「みゃーちゃん、エンポリオ親方に、いまお時間あったらうちまで来てくださいって伝えてくれるかな?」
店員さんは黒猫にそう話しかけると、黒猫が一声鳴いて、お店の表のドア(の猫用出口)から出ていく。
「知り合いの大工さんに小屋お願いするから、引き取ってもらう手間賃だと思って、受け取ってもらえるかな?」
店員さんがそういうのを聞いて
「スライム!!!!!!!!!!!!!」
大工さんの響きに本来の目的を思い出して、思わず叫んでしまう。
「スライム!!!!下さい!!!!」
「なるほどー。それは古いお家だねー。そしたらエンポリオ親方にお家の工事もお願いしてみたらどうだろう? 親方はこの街で一番の腕前なんだよ」
そういいながら、排水用スライムの瓶をいくつか並べてくれた。
排水用スライムは小さければ小さいほど持ちが良いらしく、排水タンクに入れてだいたい1年もつらしい。
一杯になると小さく細胞分裂した自分を置いてどこかにいってしまうらしい。
その小さいスライムがまた1年頑張るので、基本的に10年くらいは買い替えないでよいらしい。けれども、分裂を何回か繰り返すと分裂しなくなったり、水が少なすぎて核がとけて消えちゃうこともあるらしい。どうやら街のトイレが水洗トイレなのはスライムの必要な水分を補っているらしい。
「ちなみにこれが一番オーソドックスなタイプ。トイレをきれいに保ってくれるよ」
除菌タイプ
「あとこれが、花の香を出してくれるスライム」
芳香剤A
「こっちはさわやかな香りがするんだ」
芳香剤B
「あと、これは使用中に音楽を奏でてくれるんだ」
まさかの機能付きのスライムまでいた。
悩んだけれども、とりあえず一番オーソドックスなスライムを飼うことにした。
芳香剤Bは石鹸の香りだったら飼ってたのはそっちだったな…。でも森林の香りだった。
スライムを選び終わったところで、お店の扉が開いた。
「ポール坊、どうした」
腰くらいまでしか背がないおじいさんが黒猫を伴って入ってくる。
「実は…」
店員さん(どうやらポールさんという名前)は入ってきたおじいさんに事情を説明すると、おじいさんはこっちをみてニカッと笑って
「ドワーフの腕によりをかけて、とっておきの小屋とトイレと風呂を作ってやるよ」
そういってくれた。