ダイナモンドサックス商会
ミサエルさんに誘われるまま、扉の奥の部屋に入ると、そこはまるで大人の秘密基地のような空間だった。
部屋の正面の壁天井までの本棚になっていて、本棚の前には仕事のために使うであろうデスクと椅子。部屋の中央には来客のための革張りのソファーセットと木で作られた重厚なローテーブル。右の壁にはこの世界のものであろう、まったく知らない大陸の書かれた地図。その前に地球儀のような天球儀のようなもの。反対の左の壁には見たことのない生き物の剥製や毛皮がかかっている。
「どうぞ座って」
きょろきょろと部屋を見ていたら苦笑しながらそう言われてしまう。
促されてソファーに座ると、当たり前のように隣にグリフィスが座る。
「で、このお嬢さんが素晴らしいものを当商会に卸してくれるんだって?」
「ああ、ひょっとしたら国自体が大きく動くかもしれない」
「グリフィスがそこまでいうのはめずらしいな」
部屋に入った途端ミサエルの口調が丁寧なものから砕けたものに変わる。おやっと思っていると
「だからお前を通すんだろう?」
「まあ、違いない」
グリフィスとなにやら分かりあっている様子。どうやら思った以上にこの二人は親しい間柄のようだ。領主としての手前、人がいるところではそれなりの態度でいる、というところなのかな。
「早速見せてもらえるかい?」
ソファーに落ち着くと、ミサエルさんがそう声をかけてきたので、持ってきたカバンから様々なものを出してみる。
昨日グリフィスと話したのを参考に高く売れそうなもの、こっちではめずらしいだろうと思われるものをkuruzonで仕入れてみたのだ。
「まずは…」
そういってカバンから出したのは、瓶入りのカラフルなキャンディ。輸入雑貨やさんで売ってそうな透明で何の変哲もない瓶に入ったものを選んでみた。砂糖が高価だって聞いたから、飴も需要あるかなって。
「これは…!」
思った通りミサエルが食いつく。
「素晴らしい意匠の瓶だ…!」
あ、そっち?
「なんてすばらしい…この瓶はよっぽどの名工が作ったものなのだろう。どうやって作るのかは…」
頭を横に振ると
「まあ、そうだな。こういう技術は教えてくれと言って教えてくれるものでもない。ただ、この曇りもゆがみもないガラス、そしてそれがきちっと閉まる蓋。このやわらかい素材は何でできているか…想像もできないな…」
瓶の蓋のシリコンをいじりながらミサエルがうなる。当たり前だけれども、機械で大量生産のガラスだろうから、私に作り方を聞かれてもわからない。問い詰められなくて良かった…。
「ちなみに、この中に入っているガラスのビーズは…」
「あ、それ飴です」
「え…?」
「美味しいですよ。1つどうですか?」
毒がないよ、ということを証明するために1つ自分で口に放り込む。
「あっ!」
「えっ!」
ミサエルだけでなくグリフィスまで驚いた顔をするので、グリフィスにも1つ勧めてみる。オレンジのやつと、イチゴのやつ。
「美味しい…オレンジの味までする…」
「こっちはイチゴの味だ…」
「あ、色によって味が違うんですよ」
「…なんということだ…王への献上品でもこんな飴はみたことないぞ」
王様の食べ物と比べられてしまった…。
「これは銀貨何枚くらいするものなのだ?」
と言われたので、銀貨の価値を思い出す。確か銅貨が10円くらい、そして白銅貨が1000円で銀貨が1万。…いちまん万だ・・t。
「いや!!!! 銀貨1枚もしませんよ!?」
実際には白銅貨1枚くらい? それでもお釣りが来るくらいだ。
「…なんと」
ミサエルが放心したように、ソファーに座る。
次、出してもいいかな?
「あと、これはどうでしょう?」
5客で4000円くらいだった5色の花の模様のカップアンドソーサー。これを見せた瞬間、ミサエルは「これは…!」といって固まってしまった。
「細かな花の意匠。この色はどうやってだしているのか…。それぞれが色が違うのに、模様は寸分たがわぬとは…神の技術の域といえよう…これは王様に献上しよう」
4000円くらいのカップとソーサーだけど!? しかも5客でね!
「金貨1枚だそ…」
「銀貨5枚で!」
「いや、だがしかし…」
「銀貨5枚で!!!!おねがいします!!!!!」
それでもぼったくりなんだけどね!!!!!!!! なんで売る方が値引きおねがいしてるのかな!!!???
飴を銀貨1枚、カップアンドソーサーを銀貨5枚で売った後、お砂糖と塩、胡椒の大きな袋を取り出すとミサエルは顔を手で覆ってソファーに倒れこんだ。
「グリフィス…私は隣の国と戦争したくはないのだが」
「だからミサエルのところに持ってきたんだろう?」
「…はあ…」
え、砂糖とか塩で戦争が起こるの!?と思っていたが、確かに、塩は人間が生きる上で必要不可欠なもの。もとの世界のように潤沢に生み出せて流通されていないのなら、それをめぐって戦争が起こってもおかしくはないかもしれない。
「我々の国オーディンは山と平野が主な土地で、海は隣の国にしかない。塩はそこから国として買うので、量が減っても増えても争いの元になるんだ」
つまり流通量が揺れると問題になる、と。
なるほど難しい。
「ん? 塩って海からしか取れないんですか?」
「ああ、海の水から天日に干して時間をかけて作っている。隣国サンシーロは小さい国ながらその塩の貿易で豊かで国が成り立っているという」
「じゃあ、岩塩とかは取れないのかな?」
「岩塩?」
「ええ、私の住んでいたところではたまに山に岩みたいな固形の塩がとれたり、塩分の高い湖があったりしたんですけど…」
「岩から塩が…」
この世界 グラスファイドの土地が地殻変動してたり隆起したりしていないとまあ、ない可能性もあるけれど…。
「もしその情報が事実だとすると、大きく国の情勢が変わってくるな」
「確かに…。あと、もしそれが事実なら、サンシーロとの関係も大きく変わってくる」
グリフィスとミサエルは二人で何やら難しい話をしはじめてしまった。
(ほかにもいろいろもってきたんだけど…)
話に夢中な二人を放っておいて、とりあえず持ってきたものをテーブルに並べることにする。
綺麗にカットされた天然石のルース。100個くらいで6000円くらいだったやつのうちから10個くらいをもってきてみた。
あと、包丁。レストランで大きなやつしかなかったから、セラミックの1000円くらいのやつ。あと老眼鏡。座っても壊れない高いやつじゃなくてもっと安いの。
と、どんどん出していく。
最後にクッキーやマドレーヌなどの焼き菓子とチョコレート。訳アリ品ってどっさりはいってるやつを袋ごと。
話に夢中になっているので、片っ端から開けて、お皿に盛ってみる。
「…何をしてるんだ」
「味見用に、お皿に盛っています」
「これは焼き菓子…だな。こっちはビスケットか」
「こんなに大量にあってどうするんだ」
「ほかの店員さんとかにも食べてもらえばいいかなって?」
そういうと、なるほど、とミサエルがお皿をもって、扉の向こうへ消えた。
「こういうのはどうやってもってきてるんだ?腐ったりはしないのか?」
と聞かれたので、特殊な方法で運んでいて、かさ張らない、というと
「ひょっとしてマジックバッグをもっているのか?」
と聞かれたので曖昧に答えた。マジックバッグ。あれだよね。容量無制限でなんでもはいる四次元的なポケット的なやつ。あれもあるんだなー。
とりあえず、ありったけのものを出して、お菓子類はサンプルとしてサービスして、食器と包丁と老眼鏡、あと天然石のルースは買い取ってもらった。というか、それだけで金貨10枚になった。天然石のカット技術がすごいって言われた…。100個で6000円だったのにな…。
「砂糖と塩、胡椒については、ちょっと取引量を考えさせてくれないか」
ミサエルさんがそういって、本日は終いとなった。
街にいたのは4時間ほど。
帰りも馬車で送ってもらった。
家に着くと日が傾いてきたので、街で買ったものを片付けする。
買ったものは蝋燭とランタン。
あとこちらの洋服を少し。ランタンに蝋燭をいれて火をつけ、それを種火にしてストーブにも火をつける。
初夏だけれど、煙突があるからか窓をあけて換気をしているからか、ストーブを付けていても部屋がすごく暑い、ということはない。
夏は日本よりも湿度が低くて過ごしやすいのかもしれない。
でも、今が初夏だといわれたので夏真っ盛りはさすがにストーブはつらいので外で料理をすることになるかもしれない。
あと、冬はこれ以上寒いだろうから、早めに考えないといけないかな。羽毛布団とか毛布とか…。
kuruzonを色々と見てみよう。