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異世界のシチュー

これまでのあらすじ

異世界につれてこられたまどかは、イケメンと食堂でシチューを食べています

ご主人がもってきてくれたのはホカホカの湯気の立った、木のボールに入ったクリームシチューと丸い焼きたてのパン。

ミルクたっぷりのシチューはジャガイモと人参とたまねぎに、鶏肉が入っていて具沢山。添えられているパンも焼きたての、ドイツなどで売っていそうなハード系の美味しそうなもの。


木のさじでシチューをすくって、一口、食べてみる。


「………」


口の中に広がるのは牛乳と生臭さと、くったくたに煮た野菜の味。

塩味も薄くて、というか素材の味を生かしていすぎ? うすい塩の味しかしない。

これはあれだ、ブイヨンとか、コンソメとかフォン・ド・ボーとかの出汁的なアレが徹底的に足りないやつ。

しかも肉が鮮度の問題か…血抜きが不十分なのか臭みがある。


「どうした?虫でもはいっていたか?」

一口食べて固まってしまった私を見て、グリフィスが聞いてくる。

店主が真っ青な顔してこっちに来ようとしたので

「いえ! そんなことありませんよ!!!」

と大きな声で否定する。

だって店主さん、今にも気絶しそうな顔しているんだもん…。


気を取り直して、パンを手に取り一口食べようとちぎ…ちぎり…ちぎ…れません!

堅い!

しょうがないのでかぶりつく。

「ぐぬぬぬぬ…」

一口齧り切るのに物凄く体力を消耗する。


「このパンを齧り取った人は初めて見たな。こうやって食べると食べやすいぞ」

そういってグリフィスがパンをシチューに浸して、柔らかくなったところからパンを食べている。

なるほど。そうすればパンが柔らかくなってちぎれるのか!


でも!できれば!柔らかいパンが!私は!!!食べたい!!!

美味しいごはんも!!!!食べたい!!!!


「グリフィスさん!」

テーブルから身を乗り出して私はグリフィスに話をします。

「私の国の品物の他にもう一つ、売れるものがあります」

ぽかんとしているグリフィスに宣言する。

「それは! 美味しい料理の作り方です!」

それはもう一日でも早く!早くなんとかしないと!つらい!!


シチューとパンをすごい勢いで食べ終わると、手始めにこのお店の厨房を見せてもらえないかお願いをしてみる。

まずはこの国の料理の事情を調べる必要がある、と思ったから。

グリフィス効果でご主人が快くオーケーしてくれたのでさっそく覗かせてもらう。


異国から来た知人が勉強をしたいといっている、とかなんとか。


お店の厨房は設備が結構整っていて、びっくりすることに上水下水の設備がきちんとされていた。

厨房の流しには水の樋があり、樋の水を止める木の板を差し込むと流れている水がとまり、瓶にも栓があって、それをはずしたりはめたりすることで蛇口のような役割をしているらしい。そしてその水の樋は大きな建物ごとに設置されていて、各家庭に流れて行っているようだ。


日本では浄水に水圧をかけて3Fくらいまでは蛇口をひねれば水が出るようにしていたけれど、どうやって高低差がある場所に水を流すのかと思ったら、どうやら水の魔法を使っているらしい。魔法って便利だ。


流しには排水の溝もできていて、この下水は街はずれの所まで行き、地下の設備で処理などがされるそう。ちなみに、トイレも見せてもらったら普通に水洗だった…。

台所の下水と一緒になるまえに、トイレの下水は一回まとめられてスライムが処理をして、さらに台所の下水と一緒になったあと大きな施設でさらに上位のスライムが処理してきれいな水にしているのだという。

いるんだな…スライム。


キッチンには普通にオーブンの大きい版みたいなものがあり、火の魔法で操作するようになっていて、コンロもまるでIHのような火の出ない形でフライパンや鍋が乗せてある。

ピザが焼けそうな石造りの窯や、大きな作業テーブルがあり、ピザだけでなくパンやお菓子など色々なものが作りやすそうだ。


調理器具を見せてもらうと、木の切り株そのままのようなまな板と、中国のコックさんが使ってそうな大きな四角い包丁、鉄の大きな鍋とフライパンがふたつづつ。

ヘラは見つかったけれどそれ以外の泡だて器とか箸とかそういうものは一切ないようだった。


次に調味料を見せてもらうと、大きなツボに塩。

…以上でした。


「グリフィスさん、こちらには胡椒とか、ほかのスパイスとかってないんですか?」

と聞くと、

「あるにはあるけど、胡椒もその他のスパイスもけっこう遠くの国からの交易品だからね…。なかなか手にはいらないなあ…」

とのこと。

「ちなみに、砂糖は?」

紅茶の一件でなんとなく気が付いていたがやはり高いものらしい。


お店をでて、次に野菜を売っているところ、果物を売っているところを見せてもらう。

人参やジャガイモ、玉ねぎに大きなネギ。きゅうりにトマト。かぼちゃに茄子もある。

基本的な野菜は一通り揃っていて、ブロッコリーやカリフラワーのほかにロマネスコや芽キャベツ、オクラやコーン、などもあり種類も量も豊富だ。

さらに果物はリンゴやオレンジなど定番のものからモモやサクランボにライチにマンゴスチン、スターフルーツまであった。

野菜や果物は交易のルート上にこの街があるので、手に入れ易く、しかも腐ってしまうものは処分したい商人から安く手に入ることもあるそうだ。


日持ちのする調味料やハーブは遠くまで持っていけるので交易品としても高値が付くけれど、野菜などはそのついでに近場で売ってしまわないといけないそうで、そんなに高値にならないとのこと。


北の交易ルートと南の交易ルートの丁度鮮度がぎりぎりな場所にこの街があるため、野菜や果物が豊富なのだという。


「野菜も果物も交易で手に入るってことは、この街は何が売りなんですか?」

と聞くとグリフィスは

「宿場町、交易の場として栄えているだけで、特に目立った産業はないんだ」

少し悲しそうな顔で言う。



次に、パン屋とお肉屋さんも見せてもらう事にした。

パン屋さんはパンの焼ける良い匂いがしたけれど、やはり予想通り、あの堅いパンが一種類。

食パンもクロワッサンも見当たらない。

そういえば、と思い辺り聞いてみる。


「鶏はさっきシチューにはいっていましたけど、牛っているんですか?」

私の質問に

「牛? いるけれども、主に畑を耕すためにいるだけで、肉もあまり旨くないしなあ…」

という答え。

思ったよりもこれは難易度の高い改革かもしれない。美味しい料理よ……。


ちなみに鶏肉やさんは血抜きもしてなくて、常温での展示保管だったので、気絶してしまいそうになりました。

不衛生、ダメ!絶対!氷の魔法使って!


街のメインストリートをぐるりと一周見せてもらい、必要なものを買い物しながらこの街と世界の常識をある程度頭に入れ、グリフィスに荷物を運ぶのを手伝ってもらいようやく目的の商会へと到着した。

道中、ちらちらと若いお嬢さんたちが見てきたのはやはりグリフィスがイケメンだからだろうかそれとも領主様だからだろうかそれとも領主様のくせにお供も連れないで暇そうにぶらぶらしているからだろうか。


商会は広場を一本奥の、ちょっと高級そうなお店が並ぶ道の一番大きな建物だった。


道に面した木の枠で囲われた大きなガラスウインドウの奥には様々なものがディスプレイされており、ガラスには『ダイナモンドサックス商会』と金の装飾文字で書いてある。


一枚板の両開きの扉の前に立つと内側から開けられ、

「ようこそ、ダイナモンドサックスへ」

と、店内にいた人から声をかけられた。


「やあ、店主はいるかな?」

グリフィスはよく知った感じで、扉を開けてくれたドアマンらしき人にそう声を掛けると、その人が一礼して奥へと消えていく。たぶん店主とやらを呼びにいったのだとおもう。


それにしても。


「すごいなあ……」

入り口入ると両側の壁には天井まで届くストック&ディスプレイの商品がずらりと並び、奥には中央から上がり、左右に広がる階段。階段の踊り場には大きな絵画と花瓶に生けられた花が飾られている。


両側の壁には大きな宝石の入ったきらびやかなネックレスやブローチが飾られた一角があるかと思うと、カップやソーサーなどの器が置いてある場所、胡椒や紅茶らしき嗜好品の置いてある場所など、カテゴリーに分かれて様々なものが置いてある。一角にはクッキーやチョコレートらしきものなどお菓子を置いてあるコーナーもあった。


その雰囲気は

(昔の貴族御用達のデパートがこんな感じなのかな)

生活必需品、というよりもお金持ちの嗜好品に寄ったラインナップにそんなことを思う。


「これはこれはグリフィス様、ようこそいらっしゃいました」

「店主、昨日連絡をしていた件で立ち寄らせてもらったよ」


階段下の扉から長い白髪で眼鏡の男の人がでてきた。白髪なので一瞬お年寄りかとおもったけれども、グリフィスと話をしているのを見て思ったよりも随分若い人なのだと気が付く。


「こちらが?」

「ああ、紹介しよう、マドカだ」

「はじめまして、マドカと申します」


ぺこり、と頭を下げる。


「私はこのダイナモンドサックス商会の会頭をしているミサエルです。よろしくねお嬢さん」


ミサエルと名乗ったその人はにっこりと笑うと「こんなところで立ち話もなんだからお茶でもご馳走しよう」と私たちを扉の奥へといざなってくれた。



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