失礼なイケメン登場
前回までのお話
女神に「このままいたら過労死」っていわれたので異世界に来たよ!
kuruzonが使えるギフトを女神に授けてもらったよ。
異世界ではいきなり埃まみれのお家に飛ばされたよ。
女神様がくれるっていうのでそのお家を掃除してたら
上から目線のイケメンが現れたので
扉をとじました。
そっとじ。
グリフィスさんという失礼なイケメンをドアを閉めて撃退を試みたが
「いきなり閉めることないだろう」
ドアを開けられてしまいました。
力では勝てず。無念。
そのままズカズカとお店に入ってきたので
「何か御用ですか?」
しょうがないので、要件を聞くことにしました。
「お前、この家にいつ来たんだ? この家はお前のか?」
と聞かれたので
「とある方から譲り受けました。あと来たのは数時間ほど前で、気持ちよく掃除をしていたら邪魔者が現れました」
と答えると
「邪魔者……?」
と聞かれたのでそのまま目の前の人を指さしたいのをぐっとこらえて
「さあ」
とすっとぼけてみる。人を指さしちゃいけないってお母さんにも言われてたしね。
「大変申し訳ありませんが。初対面の方にこれ以上プライベートなことをお話する必要はないと思います。特に用がないようでしたらお引き取りをお願いいたします」
なるべく丁寧に出口へと案内すると
「じゃあやっぱよそ者か」
いきなり私を指さして、グリフィスは宣言をした。
人に指を指したらいけないって教わらなかった?というか、こっちの文化では人に指を指すのは良いことだったりするのだろうか。
とりあえず、善良なか弱き乙女をよそもの呼ばわりして失礼にも指をさしたので、
「よそ者の新参者ですので、お引き取りください」
扉を開けて、外に出るように促す。
気分は「しっし!」だ。
「あーもう!ここの治安はどうなってるのよ」
か弱いみための女性をよそ者扱いするわ、変な人は家の中に居座ろうとするわ、異世界の治安が危ぶまれる。
そういうと
「けいさつ? おまわりさん?」
知らない言葉を聞いたように繰り返されたので、
「警察は悪い人を取り締まる組織で、お巡りさんはその取り締まったりしてくれる人」
っていったら
「なんだ、俺のことじゃないか」
とグリフィスが胸を張って言ってきた。
なんとグリフィスはずっと空き家だった村はずれの家に、知らないひとがいる、という通報(?)を受けてここに来たようだ。
この人が警察とかお巡りさんな世界って!と、無常感にさいなまれつつ話を聞くと、まさかの不審人物はこの怪しい上から目線男ではなくて私でした…。
「とりあえず、俺の事を知らないってことはお前はよそ者だろう?」
確かに、街の大きさにもよりますが、街の安全を取り締まるお巡りさん的な人を知らない人は少ないのかもしれない。
「で、この家には誰の許可を貰って住んでいるんだ?」
グリフィスはそう言ってじろじろとお店を見渡す。
どうやらさっきの「知人に譲ってもらった」という話は信じてもらえていないようだ。
不審人物の私のほうがむしろ悪者。でも、この家を「女神様にもらった」なんて言って女神様のこの手紙を見せたら、頭のおかしい人認定速攻でされるだろうし…
なんて思っていたら
「手に何を持っているんだ」
と、女神様のハートマーク付お手紙を目ざとく見つけられて、取り上げられてしまう。
「あー!それは・・・その…」
「なんだ、ちゃんと家の譲渡証明書じゃないか。しかも王都の印章つき」
「は!?」
グリフィスさんの手にあるさっきの女神のお手紙を見ると、なぜか小難しそうな文章を並べた、装飾豊かな紙切れになっていました。
「ここらへんは王都から離れていて、変な奴らが住み着くことも多いので、警戒していたんだ。きちんとした手続きを経てこの村に来たことも分かった。不審なやつだと疑って悪かった」
グリフィスさんは、なんと気に障ったのなら謝る、と頭まで下げてきた。
(失礼な人だと思っていましたが、それなりに礼節をわきまえた方のようです?)
まあ、いいですよ、と言うとグリフィスは驚いた顔をする。
「黒髪に黒い瞳、遠い国からやってきたのだろう?いきなり不審者扱いしてしまったので、頭を下げるだけでは済まない。この村で生活をするなら、なんでも協力しよう」
真剣な目で私を見てくる。
「それに俺の名前を聞いても、驚かない人に初めて会った。対等に話せる人間はとても貴重だ」
グリフィスさん、どんだけ自分を有名だと思っている人なんだろう。
と思ったら
「だってここの領主の顔も名前も知らないんだから、よっぽど遠いところから来たんだろう?」
そういわれて頭がはてなになる。
今、領主って言いました? ここの?
誰が?
「ああ、ちゃんと自己紹介してなかったか。俺はグリフィス マクファーレン ファーレンハイト3世。この領を治める領主だ」
「ちょっとまって。領主って、ここらへん一帯の一番偉い人である領主様の領主?」
「そうだよ」
「領主様がお供もつけずに!? 一人でこんなところのお店の前に一人で立ってるの!?」
「途中まではお供が一緒にいたんだけど、待ってられなくてね」
「ていうか悪い人を取り締まる警察官じゃないの?」
「領主下の騎士団の団長も兼任している。騎士団は治安維持にも一役買っている。悪い人を取り締まることも領主の仕事だろう?」
規模が違う!!!!!!!!!!!
「領主様ってなんかこう、偉そうなオーラがあったりとか偉そうな椅子にふんぞり返ってたりして、普通はひとを呼びつけたりするもんじゃないの?」
「なにその偏見に満ちた領主像。まあ、なくもないし、そういうのも他領には多いかもだけど、俺は違うかな」
「ていうか。領主様っぽく、ない!」
「そんなこと言われたの、生まれて初めてだ」
何故か嬉しそうに破顔する。この領主、人の話は聞かない方向の方で罵られると嬉しそうにする性癖の人のようだった。
グリフィスは店内をジロジロと見ていて帰りそうにもなかったのでなんでもするといっていたし、どうせだったらお手伝いをしてください、とお願いしたところ「いいよ」と気軽な返事が返ってきたので、転がして外にだしていた重くて大変な鉄鍋と、大きな木の箱を綺麗にした家の中に運んでもらうことにする。
領主様だということは、とりあえず横に置いておこう。
自分の心の平穏のために。
運んでもらった木箱はやはりこの世界でのベッドだとグリフィスに教えてもらい、ベッドと収納が一体になっているのは前の世界と一緒だなあ、と思う。
洗ってキレイにしたものをお家の中にいれて、ひとごこちついたらお腹が空いてきたのと、このままだと夜までにいろいろと困りそうだったので居心地の良い部屋のために、最低限必要なもの買うことにする。
椅子に座るとグリフィスが向かいの椅子に普通に腰かけてきた。
「・・・」
「ん?」
当たり前のように向かいに腰かけて私のことを見てくる。
お手伝いをしてもらって、そのまま帰すのもあれですか。あれですね。
しょうがないのでとりあえずお茶を入れることにする。
とはいえお茶の葉っぱもお急須どころかティーポットもないしマグカップもお湯のみもないので
「ちょっとまっててくださいね」
ここはkuruzonの出番。
ちょっとお店のカウンターのほうにいって、注文画面を開く。
お買いものって、あまり人に見られてするものじゃないし、女神の加護で使える能力だからといって、ひと様にほいほい見せてよいものではないと思うので。
紅茶とお砂糖、ガラスのポットとカップ。
ちょっと考えてスプーンも2本ステンレスのよくあるものを頼む。
あとはお腹が空いたのでクッキーとチョコレート。お夕飯用にパスタと簡単なパスタソース、あとはフライパンと小さな鍋、そして木箱のベッドの上におけるベッドマットと毛布と枕も注文する。
木箱で直接寝る勇気とあの大きな鉄鍋で料理をする勇気はまだないので。
注文をしてすぐに、お店のカウンターの上に段ボールの箱が現れる。
さすがに大きなものを注文したので段ボールが2つに分かれていた。
さっそく段ボールを開けて、お茶に必要なものだけ取り出して部屋に戻りお茶の準備をする。
ティーポットを出して、お茶の葉を出して…ストーブの前に立って気が付く。
「ストーブでの火の起こし方、どうするんだろう…」
大きな鉄鍋と暖炉はある。
火を起こせばお湯は沸くと思うけれど、つまみをひねると火が付くガスコンロの文化で育った私は薪ストーブの火の起こし方なんて分からない。
ここはもう一回kuruzonでアウトドアの本を買ってお勉強をしてから挑むべきだろうか。
あ、ライターか着火装置を買うのでもよかったな…
暖炉の前で唸っていると、グリフィスさんが
「どうした? 何か困ったことでもあるのか?」
と聞いてきてくれる。
「実は、これで火を起こしたことがなくて…お湯を沸かすのに火を起こしたいのですがどうしたらよいのかわからない」
素直に答えるとグリフィスはびっくりした顔で私の事を見る。
多分、前の世界だと「コンロのスイッチの点け方が分からない」くらいの非常識さだよね…きっと。
「…なるほど」
そういってグリフィスは裏のドアから出て、どこからか薪を抱えて戻ってくると、暖炉へ手をかざす。
「・・・・」
聞き取れないなにか呪文のような言葉を呟くと、暖炉にちょうどよさげな火があっという間に燃え上がり鉄鍋に満たされた水がお湯になっていく。
「魔法だ・・・!」
私がびっくりして言うと
「別に、生活魔法はそんなに珍しいものでもないだろう? まあ、使えないやつもたまにいるけれど、大体のやつは1つ2つは使えるし」
とむしろ何を言ってるんだ、という顔をされてしまう。
「きみは、魔女じゃないのか?」
と聞かれたので
「ちがいます。というかちがうとおもいます」
と答える。
「そうか。俺は君がここに現れたと聞いて、魔女が来たのだと思ったんだけどな」
むしろ魔法が当たり前なら魔女は一体なんなのか、という疑問。
その疑問をそのままグリフィスに聞いてみると
「生活魔法と魔女が使う知恵の魔法は別物だよ。根本が違う。魔女の魔法は惠をもたらすもの。法や医術、時には政治的なものから土木治水など、今までにない知識から生まれる力や恵を満たす人たちが使うものを知恵の魔法、そして使う人を魔女や魔法使いっていうんだ。生活魔法なんて誰でも使えるものを使う人のことじゃないよ」
なるほど。その発想はなかった。
とりあえず無事にお湯が沸いたので、紅茶を入れてグリフィスに出すことにする。
「ところでマドカ、提案なんだが」
お茶のカップとポットを珍しそうにみてグリフィスが話しかけてくる。
「俺と取引をしないか?」
「取引?」
「君はこの領にきて、間もない。火の起こし方もしらない。そんな君はあっという間に悪い人に付け入られたり、騙されたりするだろう」
決めつけたようなグリフィスの言葉に、マドカは
「これでも、立派に成人しているんですから、そう簡単に騙されたりしませんよ」
というと、グリフィスはえ!?、と言う顔になって、口をつけようとした紅茶をこぼしかける。
そんなに驚くことかな。まあ、日本人は幼く見られがちだって言うけれど…。
「このカップ、飲みやすいね、よかったら譲ってくれない?」
「え?」
そういって、白銅貨を10枚ほど出される。
2個で3000円くらい、白銅貨3枚ほどだったので、これだともらいすぎだな、と思い一回使ったものだし1枚でいいですよ、というと
「やっぱりね」
とため息をついて言われる。
「このカップ。曇りもなくゆがみもない。しかもきれいな模様がついている。どうやって作ったか、職人が見て驚くだろう。人によっては銀貨5枚だって出すだろうね」
銀貨5枚、5万円くらいの価値といわれてびっくりしてしまう。
「それを白銅貨1枚でもいいって言う。しかもこの砂糖」
紅茶と一緒に添えた砂糖をスプーンですくって
「こんな白い砂糖は貴族でもそう簡単に手に入らない。まあ、俺はよく見ているが。これだけで銀貨何枚もの価値があるだろう。それどころか、出どころはどこだと監禁され追及されるかもしれない」
たかが砂糖、されど砂糖である。
「こんなに世間知らずな君が、何も知らずに悪いやつにこんな紅茶出したら、どうなるかな」
つまりは、世間知らずで悪いやつにその知識やものを利用される前に
グリフィスの世話になり、保護されろ、
「別にお前を取って食うわけじゃない。いいだろう?」
とグリフィスはそう言ったのだった。