一日目の終わり
「ここが、孤児院」
領主のお屋敷や大店のお店などとは町の反対側に位置する場所に、その孤児院はあった。
この前ちょっとさびれた寂しい道だな、と思っていた通りをずっと行った奥。
町のはずれにちかいところに、その孤児院は立っていた。
ちょっとボロボロで。
あちこち隙間だらけで。
廃墟のようなその建物に、私はちょっと圧倒されてしまう。
「領主がいろいろしているようですが、なかなか末端までは届かないようですね」
ため息交じりにミサエルがいうのを聞きながら、子供たちと一緒に建物に入る。
「先生、お客さん連れてきたよ」
建物にはいるとすぐにある、大きな広間兼食堂に先生、と呼ばれる人がいた。
「…なんじゃ? おぬしらは」
「私はダイヤモンドサックス商会のミサエルと申します」
「ふん。貴族御用達の店がこんなおんぼろ孤児院に何の用じゃい」
「今日、私はあくまで付き添いで、本題はこちらの女性からの提案なんですが」
私!?と思ったけれども、とりあえず黙って聞いてみる。
「こちらの孤児院のお子さんたちが、お祭りでお店を出していますよね」
「おお、花飾りを売って、みんなの飯代の足しにしておるわい」
「出店場所がなかなか良くなくて売るのに大変そうですが」
「まあ、冒険者ギルドから無償で貸してもらってる場所じゃ。贅沢は言わん」
「そこで、提案なのですが…こちらの女性の商品を売るお手伝いをして貰えませんか?」
「手伝いじゃと?」
ミサエルさんは、今日私の店が混雑した時に、子供たちが手伝ってくれたこと、よかったら残りの日程もお手伝いをしてほしいこと、その分のお給料は売り上げから出すことを先生、と呼ばれたおじいさんに説明する。
「ふん、安い金でこんな幼気な子たちをこき使おうっていうのか」
「おひとり、1日白銅貨5枚でお願いしようと思っています」
4人で白銅貨20枚。つまり銀貨2枚。
今日の売り上げが銀貨4枚程度。
でも、手伝ってもらったらもっと売り上げがあがるはず。
もともと設ける、というよりは美味しいごはんの布教のつもりだし、孤児院の子たちの収入につながるのなら、いいアイデアだ。
さすがミサエルである。
「では出店場所3店舗。4人をお借りすることにします。あ、ご飯も付けますのでご心配なく」
ミサエルは紙になにやら書いて、それを先生へと渡した。
「しっかりしておるの。さすがダイヤモンドサックス商会じゃな」
ふん、と先生は鼻を鳴らしてその紙を受け取る。
「ウィロー様相手に変なことはしませんよ」
「どうだかな」
先生にミサエルはにっこり笑うと、そうそう、と今更ながら私の紹介をしてくれた。
「彼女はマドカさんと言いまして東の遠方の國よりこちらにいらした方です」
「ほう、東の遠方の」
「独自の流通ルートを持っていらっしゃるので、私どもの商会に品物を下ろしてくださる大事なお取引様です」
そういうと、おじいさんことウィローは私のことをじろじろと見る。
「貴族様御用達の商会に品物を下ろしてるお嬢ちゃんがお祭りの出店なんぞやるだなんて酔狂じゃの」
と言われたので
「私はできれば、私の知ってるひとがよりおいしいものを食べれたり、幸せに暮らしたりしてくれたらいいなって思うだけです」
そう答えると面白そうな顔をする。
「人は神ではない。万能ではないのだから、そうそう欲張るものではないぞ。できること、できないこと、足る、足らぬを知ることも大事じゃ」
と言って
「明日から子供たちを貸してやる。無体なことをしたら、その時にはわかってるな」
といって、奥の部屋へと去っていく。
「え、あの…」
とまどうマドカに
「許可を頂けて良かったです。さあ、それでは、明日の準備にかかりましょう!明日は今日の20倍は売りますよ」
「20倍!?」
色んな人に美味しいものを知ってもらう…とかじゃなく、お手伝いしてくれたミサエルは単純に商機を見出したみたいだった。
帰りはダイヤモンドサックス商会の馬車に揺られて帰ることになった。自転車は…しょうがないから置いていくことにした。
「なるほど、調味料の仕入れは問題ないのですね。ちなみに、子供たちに振舞っていたあのさんどいっち、というものは作れないのですか?」
ミサエルはスープだけでなく、軽食も提供しませんか? と提案してきた。
なるほど、客単価を上げる作戦か。
前にグリフィスにご馳走してもらった町のレストランはパンとスープ合わせて銀貨1枚だったので、それよりも低い値段で設定すれば、今日の人気からするときっとバカ売れするだろう。
「ちなみに、お米を食べる習慣ってありますか?」
「お米、ですか?」
「はい、麦のような穀物ですけれど、それよりも粒がちょっと小さくて、噛むと甘味がある、私の国では主食だったんですけれども」
「…東の國にそういう穀物があるというのは聞いていますが…ここらへんでは余り馴染みがないですね」
と言われたので、おにぎりは厳しいかもしれない。
でも、おにぎりの話をしていたら、ものすごおおく食べたくなったので、明日のお昼ご飯はおにぎりにすることにする。
サンドイッチは、パンを焼くのから始めると無理なので、お安いパンをkuruzonで探してみるか…。冷凍のものやちょっとお高いパンばかりだったから、サンドイッチはどうだろうなあ…と思いながら、馬車に揺られていると、あっという間に家についてしまった。
「準備のお手伝いはいりますか?」
どうやら人出が必要なら、手伝ってくれるそうなのだけれども、人手に関しては、ちょっと考えてることがあるので、保留にしておく。
それよりも
「明日朝、早めに馬車で迎えに来てもらうことできますか? できれば荷台のある馬車がいいんですが…」
というと
「それでは、他の町に荷を運ぶ馬車が1台余っているのでそれをお祭りの期間貸し出しましょう」
と言ってくれた。
「そのかわり」
使用料に、とミサエルさんにお祭りの期間中のお昼ご飯をねだられたので、二つ返事でOKした。
お昼すぎに、出店のものが売り切れたので、まだまだ日は高い。
家に戻ると、まずは裏庭に出て、お留守番のコカちゃんとトリスちゃんの様子を見に行く。
「ただいまー」
「ぴー!」
「ぴぴ!!!」
二匹ともお庭でまったりと遊んでいたみたいだ。
お水受けに新しいお水を出して、ごはんのお皿をみると空だったので
「お腹空いてる?」
と聞くと
「…ぴ!」
「…ぴ?」
空いているか、と聞かれると興味はあるけど、すごくお腹が空いているわけではない、という感じかな?
子供たちにお昼ご飯のサンドイッチをあげてしまったし、ずっと動きっぱなしだったので、お腹が空いたマドカは
「私お昼ご飯たべるから、一緒におやつにしよっか?」
そういって、2匹と一緒に家の中に戻る。
お昼ご飯は、簡単に何か…とおもいkuruzonを開くと
「あれ…?」
今までなかった表示を見つける。
いつも会社帰りに寄っていた、近所のスーパー。
それが買えるようになっていた。お惣菜もある。
プライベートブランドのお安い奴もある!
「まじか! 取り扱い増えることあるんだ…」
kuruzonは便利だけれども、一般のスーパーとは違うから、割高な商品もあるんだよなあ、と思っていたので、これはうれしい発見だ。
これなら明日のお昼にサンドイッチも作れそうだ。
そして…
「お惣菜! 久しぶりのお寿司! 唐揚げ! あ、うどんと天丼セットのお弁当もある…!」
テンションあがりながらお夕飯の分もと、恋しい味をいくつかカートに入れてお買い物。
あと、大事なものを買って冷凍庫に入れておく。
「ぴー?」
「ぴぴ?」
コカちゃんとトリスちゃんにも何がいいかなあと思って、枝豆とタコ焼きを買ってみる。
「私の前に住んでたところの食べ物だよ」
そう言って、食べやすいようにお皿に入れて出してみると
「ぴっぴぃー♡」
「ぴぃっぴぃー♡」
羽をバタバタして喜んで、そして一心不乱に食べている。
そんな二匹を見ながら、マドカも自分のお昼ご飯を食べ始める。
マグロとサーモンを巻いた海苔巻きだ。
「久しぶりの生のお魚! お寿司! おいしいよう…!」
日本人のソウルフードを堪能したあとは、デザートにプリンも食べてしまった。
お腹いっぱいになったので、明日の準備を始める。
「調味料の小分けの袋は…結構作ってあるから大丈夫かな? 一応、コンソメと味塩コショウを追加で徳用袋で買って…小分けの袋も購入っと」
そして、人参と玉ねぎ、食パンとジャム、ハム、レタスを目いっぱい購入。クッキングペーパーはこっちの世界にもあったので、サンドイッチはこれに巻いたら不自然じゃないかな、と思う。サランラップはちょっとオーバーテクノロジーすぎかな。
使っても良いけど、不審がられたら買ってくれなくなっちゃいそうだもんね。
明日の朝に作ったら間に合わないので夜のうちにサンドイッチを作り始める。簡単なレタスとハムのサンドイッチと安い100円のいちごジャムのジャムサンド。食パンはスーパーのプライベートブランドの一番安い奴。
原価は60円くらい。
苺とハムサンド両方を1セットにして、スープも付けて銅貨30枚で販売したい。
30枚って…数えるの大変かな…。でも20枚だとさすがに原価考えると不安なので、30枚がいいな…。
ひたすら食パンにハムとレタスをセットするのと、ジャムを塗るのを繰り返して、300セットくらい作ったところで、外が暗くなったのに気が付く。
ハムとレタスは冷蔵庫、いちごジャムは比較的涼しいので、常温で置いておく。
「おーいご飯にしよー」
コカちゃんとトリスちゃんに声をかけると裏庭で遊んでいた二匹が家に入ってくる。
お夕飯もさっき買ったやつで済ましてしまう。
私はうどんと天丼のセット弁当。
コカちゃんとトリスちゃんにはメンチカツポテトサラダにしてみた。
今回も顔を突っ込んでめっちゃ食べてたので気に入ってくれたらしい。
食べ終わったら、最後に必要なものをいくつか買い物して、お風呂に入って就寝。
今日はよく動いたからか、ベッドに入ったとたん、泥のように眠ってしまったのだった。