町の道端でのできごと
「ちょっと寂しい雰囲気?の場所だね」
「…ああ、そうだな」
お店の区画の場所は商業ギルドの人が石畳につけてくれている白い線と数字でわかったので、となり近所のお店がどんなか見てみると、お祭りの草花のリースなどを売っているお店が多く、お祭りのときだけの出店の人たちが多いようだった。
「…しかもあまり売れてない…?」
よく見ると、周りの数店でお店番をしているのは10歳くらいの子供たちで、一生懸命売ろうとしているけれど、大人に相手にされていない感じだ。
「ここら辺は救護院と孤児院あとはあまり所得の多くない人たちの住むエリアに続く道だからな」
この町は豊かそうに見えたけれども、やはりそういう場所もあるんだな、と思いながら見る。
「領主としてはここにいる人たちもすべて幸せに暮らしてもらいたいとは思うんだけどな…」
そう呟いたグリフィスはこれまでに見たことない真面目な、重いものを背負う目でその一角を見ていた。
「よし、場所も確認したし、少し買い物をして帰ろう」
「買い物?」
「ああ、ちょっとお祭り気分を盛り上げようと思ってね」
そういうと、周りの店舗を見て回り、子供が売り子をしている、あまり売れていなさそうなお店すべてでリースや花束飾りを次々に購入していく。
両手いっぱいになった花飾りをどうするのかとおもったら
「マドカにあげる、お家やお店の前に飾りなよ」
といって、山ほど買ったそれを馬車へ積み込むために、馬車を置いてある道に戻ろうとしたとき
「お前らにやるもんなんかない!!!さっさとどっかいけ!」
中央通りにほど近い、一本道を入ったところで怒鳴り声が聞こえた。
気になり、道を入ってみると、一軒の家の前で蹲る小さな女の子と男の子、そしてそれに怒鳴る50歳くらいの男の人が見えた。
「ちょっと! そんな子供になにしてるんですか!」
「ああ? なんだお前は」
「なんだじゃなくて! こんなちっちゃい子たちに怒鳴ったりして、いい年したおじさんが恥ずかしくないんですか!」
「いいんだよ、こいつらはお祭りにかこつけて、うちのものを集りにきたんだからな」
「集りに‥・?」
「そうだ。うちの店が花飾りをつけているからって卑しくも物をもらいに来たんだ。商売につながる家の子なら喜んで恵んでやるが、孤児院育ちのこいつらなんかにあげても銅貨1枚の特にもならないからな!」
そういうと、そのまま足音も荒く店へと戻っていく。
よく見ると看板がかかっていて、どうやらパンを売っているお店のようだ。
…あの硬いパンを売ってるお店だろうか。
道に蹲ってる女の子と男の子に近寄ると、二人とも少しおびえたようにしていたけれど
「大丈夫?立てる?」
と声をかけると、小さく頷いて立ち上がる。
「おねえちゃん、ありがとう」
「え? なにが?」
「おじさんから僕たちをかばってくれたから…」
「そんなこと…あたりまえだよ」
というと、2人はびっくりしたようにこちらを見る。
「…あんな風にかばってもらったこと、ないから…」
「…うれしかった…ありがとう…」
「じゃあね、おねえちゃん、ばいばい」
「ばいばい」
そういって、2人ともぺこり、とお辞儀をすると大通りのほうへと駆けていく。
「孤児院って、親がいない子たちなんだよね?」
後ろ姿を見送りながら、横に立つグリフィスに聞く。
「ああ、そうだな…」
「私が前住んでいた国では、ああいう子たちは手厚く保護する対象だったんだ」
「孤児院とかはなかったのか?」
「似たような施設はもちろんあって、トラブルがないこともないんだけど、衣食住は保証されてて、学校にも通えてた、はず」
私もきちんと福祉などを知っているわけではなかったけれども、保護されるべき未成年は少なくとも国が保護していたはずだった。あんな風にやせ細って、道端で怒鳴られたりはしていなかった。
「…学校にも通えていたのか。それは…すごいな」
「この国にはこの国のやり方があると思うけど、私は子供が笑ってない国は良い国とは言えないきがするんだ」
私の世界にもあった、戦争で亡くなる子供、飢える子供、小さいときから働かされる子供。
子供が幸せでない国は総じて大人も幸せとは言えない国だった。
もちろん、衣食住が足りているからといって幸せだ、と決めつけることもできないけれども。
「…私の力が足りない所為、だな」
グリフィスが悔しそうにつぶやく。
「町を見回り、領主としても町の安全を預かる騎士としてもどんなに目を配っても一人一人を見ることはできない、不甲斐ない」
領主であるのに騎士をしているのはなんでだろう、と思っていたけれども
治安だけでなく町が健やかであるか領主自らが見て確認をしていたのか、と
まどかはグリフィスの知らない苦労や気持ちを少し理解した。
「…そうかもしれないけど、そうじゃないともいえるよね」
「それは、どういうことだ?」
「人が一人でできることって限界があるから。町の人が、それもすべての人が、もっというと領内の小さな村すべての領民が幸せに暮らすには、グリフィスさん一人が頑張ってもだめなんじゃないかな?」
そういうと、グリフィスは何か考えているように黙り、そのあと
「そうだな…」
と一言呟いたのだった。
馬車に戻り、家まで送ってもらい、いつもはお茶を飲んでいくグリフィスが、今日は
「それじゃあ」
と挨拶をして、そのまま帰っていく。
「ちょっと、厳しくいっちゃったかなあ」
家に帰ってきて、かごからコカちゃんとトリスちゃんを庭に放すと、リビングの椅子に座り、お茶を入れる準備をする。
現代日本に生きてきたから、あんなふうに子供を虐待する光景なんて見たことなかった。
そういうものすべてが上に立つものの所為、だとは言わないけれど
「つい、ショックできつい感じにいっちゃったかなあ」
たぶん、日本よりは上に立つものの権威や威力が強い世界なんだと思っている。
だからこそ、知らないや見えないでは済まされないことがあるんじゃないかと思う。
でも、一人でそれをこなすのは難しい。
そう思ったけれども、うまく伝えられなかった気がする。
そんな風に思っていると『カランカラン』と棚に置いてある箱が鳴る。
グリフィスから渡されている手紙を送受信できる箱だ。
『ポン』という音とともに手紙を開封すると、少しやることがあるので、明日以降出店の手伝いをしたかったが、数日手伝いができないことを詫びる文面だった。
来週のダイヤモンドサックス商会には絶対に迎えに行って一緒にいくので、と文面からは本当に申し訳なく思う雰囲気がでており、むしろ領主でもあり、騎士団にも在籍している多忙なグリフィスの時間をけっこうもらってしまっていたことを申し訳なく思う。
「気にしてません、お仕事頑張ってください、と」
返事を書くと『チリンチリン』という音とともに送ると
「よし、ごはんでも食べよう」
気分転換に料理をすることにしたのだった。