祭り前の町
グリフィスとミサエルの二人は私がやる気満々なのを見て、止めるのは無理だと思ったのか
「マドカの好きにしたらいいよ」
「何か手伝いが必要だったら言ってください」
そういってくれた。
そしてミサエルは、町に卸す分以外に自分のところにも卸してほしい、という。
「できればきれいなつぼに入っていて、高そうに見えるとよいのですが」
町で銅貨10枚で売っているものを量が多いとはいえ、白銅貨5枚で買い取る、という。
手数料を上乗せすると、とんでもない金額になるけれど、貴族様はそれでも買うだろう、とミサエルはちょっとだけ人の悪い顔で笑う。
「ただ、町で売っているものと全く同じものだ、というと貴族様は買ってくれないので…」
「ああ、だから壺なんですね」
見た目が大事なのだ、と教えてくれたので、次回来るときまでに湿気らないよう密封できるガラスのボトルと、珪藻土の乾燥剤もつけてあげることを約束する。
「あと、カップソーサーはなるべく少しずつ、卸してくださるとありがたいです」
「100客は無理でも、数十客なら用意できますけど…」
「いっぱいあると、出どころを探られますし、なにより、少しずつである方が、価格が維持できるのです」
なるほど、商売人らしい考え方だな、とダイヤモンドサックス商会が大店な理由がこのミサエルの手腕なのだとしみじみと感じる。
今回は、持ってきたおせんべいを少し仕入れて様子を見てみよう、と言ってくれたのと、きれいなデザインのガラスのコップ、家庭用の包丁とまな板、そしてはさみなどを仕入れてもらった。
包丁とはさみの切れ味にミサエルは感動しまくっていて、定期的に50ずつおろしてほしい、と約束させられた。
あとはコピー用紙。
きれいな白い紙ってこの世界だと貴重なのかな?と思ってとりあえずもってきてみたんだけど、思った通りで、鉛筆とともに大量に仕入れたい、と言ってくれた。
そのほかに、カップ&ソーサーをまた5客、あとはこの前大好評だった天然石のルース(たぶん日本だと子供のおもちゃレベルのもの)をこの前よりも少ない数で注文されたので、今回のものとともにまた来週仕入れにくる約束を取り付ける。
週に1回の取引で金貨2枚から5枚くらいになるように、ミサエルが調整して、注文してくれるそうだ。
ここの町に住む4人家族が金貨2枚で1年裕福に暮らしていけるらしい。ということは…。深く考えるのも、日本円で…考えるのもやめよう。
とりあえず、月の売り上げがとんでもないことになりそう。
ダイヤモンドサックス商会との商談が終わり、そのまま馬車に乗って帰ろうとしたグリフィスに、
「町の広場に行きたい」
と、お願いする。
「お祭りはちょっと先だぞ?」
「うん。それは分かってるんだけどね」
お祭りの様子ももちろん見たいけれど、味塩コショウやコンソメを売る市場を下見したい。あとどうやってお店を出したら良いのかとか、下調べはしておきたい、というと
「なるほど。そうしたら、商業ギルドにも顔を出そう」
とグリフィスが言った。
お祭りの準備で少しいつもより浮足立っている広場は、この前見たときと同じようにいろいろなお店が並んでいたけれど、お祭りのためのものらしい、いつもと違うお店がちらほらと出店されていた。
乾燥した枝や葉をブーケのようにしたものや、リースのように丸い輪のしたものを売っているお店や、乾燥させた果物をかごに盛りつけたものなど、草花の飾りのお店がいくつも見える。
「あれはお祭りのためのもの?」
指をさして聞くと
「ああ、あれはお祭りの期間中、家のドアに飾っておくと、子供たちがおやつやパンをもらいに来るんだ」
祭りは豊穣を願うというものだからか、前の年の地の恵みを人々に分け、新しい年の恵み祈るという趣旨で、子供たちに食べ物を渡すという風習になったらしい。
本来はお守りの意味がある草花の飾りは、人に来てほしくない家などもあるだろうから、と目印に飾るようになったらしい。
(お盆とハロウインが一緒になったみたいなお祭りなのかな?)
仮装をして町を練り歩く祭りを思い出しながら、マドカはほかの出店も見て回る。
「お祭りの日はどんなお店が出るの?」
「大道芸人のテントが出たり、楽器や笛、お面なんかも売られるな」
「ほかには?」
「ほかって?」
「例えば、レモネードの屋台とか、綿菓子とかりんご飴とか。焼き菓子とか、食べ物の屋台とかは?」
「食べ物の屋台?」
「え、ないの?」
「出店は基本、その家で作っている野菜や果物、布や服、調理したものっていったらせいぜいパンくらいだからな…」
「お祭りの特別なやつって」
「さっき言ったような大道芸とか、見世物だな」
お祭りの出店のあのワクワク感がないのか、とちょっぴり残念な気持ちになりながら、それでもお祭りの始まる前の独特な雰囲気を楽しみつつ、歩いていくと、広場から一本入った道にある大きな建物の前でグリフィスが立ち止まった。
「さあ、着いた」