ダイヤモンドサックス商会ふたたび
お祭りの準備で沸き立つ広場を抜け『ダイナモンドサックス商会』の店の前で馬車を停めると、商会の入り口に立っていた店員さんが荷物の入ったスーツケースを下ろしてくれた。
「ミサエル様がお待ちです」
店員さんはそう言ってスーツケースを運びながら前回と同じ部屋へと案内してくれた。
「マドカ!待ってたよ」
「ミサエルさんこんにちは」
書類の束に埋もれて仕事をしていたミサエルは、入ってきたのがマドカ達だと分かると椅子から立ち上がり、応接セットの方へと移動して、さあさあ、とソファーを勧めてくれた。
さっそく、と座ったとたんミサエルが商談を始めた。
「前回の陶器のセット、とても好評でな。こちらの手数料を上乗せして販売したんだが、それでもあっという間に売れただけでなく、もっと欲しいと言われてしまったんだが、可能だろうか? 100セットくらい欲しいと言われたのだが、さすがにそれは難しいとは答えてある。あとカットが素晴らしかった宝石もだな…」
前回の品物が1週間で瞬く間に売れてしまったことを興奮しながら話すミサエルに
「ミサエル、落ち着けって。とりあえずお茶くらい貰えないか?」
グリフィスが苦笑しながらそうミサエルに言うと
「む、すまない。つい興奮してしまってな。確かに。とりあえず、お茶でも出そう」
お茶を出すことすら忘れて居た自分に気が付き、お店の人を呼ぶと紅茶の用意をお願いする。
せっかくなので、お茶菓子にと、用意してきたお菓子を出す。
この前はクッキーとか焼き菓子だったけれど、今回は…
「じゃーん!醤油せんべいです!」
お徳用壊れせんべい。いっぱいはいってるやつ。こっちのお茶菓子ってお店にあるの調べたら、砂糖たっぷりの焼き菓子もどきや砂糖漬けのフルーツとか甘いものばっかりだったので、こういうのあったら受けるかなあ、と思ってもってきてみたのでした。
「む、これは…」
「食事ではないが…ちょっとつまむのに良いな…」
「あと、このかかっている茶色のソースが旨い」
お皿に広げてみると、恐る恐る食べ始めたグリフィスとミサエルは「やめられない!とまらない!」みたいな状態でおせんべいを食べてくれる。
「お醤油も販売できたら、と思うのですが、今回はこんなのをもってきました」
効果音じゃーん!とつくように手を広げると、スーツケースからいろいろなものを取り出します。
「塩や胡椒そのものが戦争になるなら、合わせ調味料を使えばよいのよね!塩じゃないって言い張れれば要はいんだものね?それだったら美味しいごはんたべれるし!」
と、私が取り出したのは万能調味料「味塩コショウ」様、すべての洋風の素「コンソメ」様、お味噌汁や煮物の味方「だしの素」の大袋入りをどーん、と出す。
これだけだと、商品の良さが分からない、と思ったのでカセットコンロと鍋を出すと、おうちで仕込んでおいたカット野菜を取り出す。
味塩コショウは野菜炒め、コンソメはコンソメスープ、だしの素はお吸い物。
それぞれをカセットコンロと鍋で仕上げていく。
「これは…!」
ミサエルさんがまだ完成もしていないのに感動したように近づいてきたのでもっと近くで見てよいですよ、というと
「なんという調理器具だ…すばらしい!」
カセットコンロに感動していました。そっちかー…。
たぶんカセットコンロとかは、エンポリオ親方とかに見せたら似たのを作ってくれるんじゃないかな。お家のお風呂みたいに。
「さあ、食べてください」
カセットコンロに感動しているミサエルはおいといて、野菜炒めとスープ2種類を二人の前にだす。だしの素のお吸い物はせっかくなのでおせんべいを投入する。だしの味だけだと薄いのでお醤油の味を少しだしたかったのと、食べ応えもプラスされるかなあ、と。
「これは…!」
「なんと深みのある味だ…・野菜が上等な料理になっている」
「このスープも、まるで貴族の晩餐会で食べるもののようだ」
「あと、この菓子をいれたものも、深みがある。なんだかほっとする味だな」
「しかも食べ応えがあるので、お腹を空かせた子たちによいな」
グリフィスとミサエルはそれぞれ食べてそのおいしさに驚いてくれているようだ。
「塩じゃないし、これなら、一般の人でも簡単に美味しいごはんが作れるから、これを、町で売りたいんだけど、どうかな?」
そういうとミサエルさんは
「貴族相手ではなく? 町で売るのですか?」
「うん、これくらいで味塩コショウは銅貨10枚で」
50gくらいを小分けの袋に細かく分けて、それを売ろうと思う、という。1g1円くらいの詰め替え用のを見つけたので、2倍のお値段で売るなら利益が出るかなあ、と。
「そんな小売りなんかしなくても、食器や宝石で利益がでるんじゃないのか?」
グリフィスが心配をしてくれるのか、そういってくれるけど
「前に町のレストランで言ったじゃない?美味しい料理を教えるって。これはその第一歩なの!」