kuruzonつき異世界転移?
私の名前は本田まどか。
どこにでもいる普通のブラック企業に勤めるOL。
朝は6時に会社について、夜は0時過ぎまで帰れない。
そんな日々を送っていたある日のこと。
深夜のコンビニでとりあえずおでんの大根と白滝を買ってささやかなお夕飯を食べるため、帰り道を歩いていたときだった。
「え?なに??ちょっとなにこれ!?わー!」
歩いている道路が光りはじめ、大きな円を描くように私の周りを取り囲み、突風のように強い風が自分を取り囲んだかと思うと、辺りはもとの静寂を取り戻した。
私の姿だけがなくなって―
思えば幼稚園のときからなんとなくついていなかった。
幼稚園では飼っていた鶏に追いかけられるし、
小学校では運動会で滑って転んでビリになるし、
中学校では試験のときに高熱出して寝込んでしまうし。
高校の受験とのきは大雪だったし、短大のときは合格発表の日に坂で転んで骨折して。
ついていないエピソードが走馬灯のように脳裏に思い起こされる。
(あ、これ死ぬやつだ。突風にさらわれて死ぬんだわ)
そう思ったら真っ暗な中、優し気な声が聞こえた。
―まどか、聞こえてる?
「…誰ですか?」
なんだかホッとするような、優しい声だ。
―私は万物の創造主神の中でも豊穣をつかさどる女神、リーベラ。
貴女を必要とする世界へあなたを送り届けるのが私の役目。
リーベラ、という自称女神(年齢不詳)は私の希望も聞かずに異世界に召喚するという。
なるほどラノベとかの異世界召喚というのはこんな風に起こるのね、と納得している場合ではない。
「え、そんな。私にも事情と都合ってものが」
と、とりあえず抵抗をしてみる。
―例えば?
「例えば…家族…はもともと母子家庭で大学のときに母も亡くなって親戚もいないからあれだけど…。友達…も就職してからここ最近誰とも連絡とってないし…会社…は果てしなくブラックだし…」
うーんうーん、と現世に未練がある理由を考えて思いつく。
「あ!kuruzon!あれで注文していた漫画とゲームとキッチンツールが…!」
今日帰ったら宅配ボックスに入ってたはず!あれを楽しみにしていたのに、あとSNSで盛り上がってたキッチンツールで新しいレシピを試したい! というと女神様は残念そうな顔をして(見えないけどなんとなくそんな顔している気配がね!したの!)ため息をつく。
―まどか。聞いてちょうだい。あなたを選んだのには理由があるのよ。
そういって女神様は話し始める
―あなたがもしこのまま現世にいるならば、半年後に死ぬことになるの。
「え!? 病気?事故?」
突然のことにびっくりして聞くと女神さまは
―過労死よ。
そういって、私を慰めるように語りかける。
―あなたは頑張りすぎる性格なのよ。あと3か月もするとあなたの会社は不渡りを出して、社長は会社のお金を持って国外逃亡。役員が誰もかれも責任の押し付け合いで使い物にならないのを貴女が必死になんとかしようとして、結果ろくな睡眠がとれず倒れてしまうの。私はそんな運命の貴女を救うために異世界に召喚したのよ。
なるほど!このまま現世にいたほうがバッドエンドという訳なのね。
でもあの漫画の続きやあのゲームの新作…読みたかったしやりたかったなー。
そう思っていると女神様が
―ならば女神の加護を授けましょう。
「加護ですか?」
これがいわゆる異世界移転のチート能力!?
―異世界にいってもkuruzonで通販ができるようにしてあげましょう。漫画もゲームも好きに遊べるようにするわ。ちゃんと新作も買えるようにしてあげましょう。あとは風邪や病気にならない加護。運が良くなる加護。幸せに過ごせる加護。どうかしら?
つまり、異世界で通販し放題、漫画読み放題、ゲームし放題!
現実世界でついていないと思うことが多かった私は
「じゃあ!それで!おねがいします!」
と答えた瞬間、また凄い風に飛ばされて、暗い穴に落ちるような感覚がしばらく続き…
ドスン!
ガシャン!
ガチャガチャ…
落ちた、と思ったら埃の積もった物置のような家の中にいたのでした。