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第6話 紅のデリンジャー

 パン、パァン! 軽い破裂音が二回響き渡りました。


「うぎゃっ!」

「うぐっ!」


 悲鳴を上げて、手にした散弾銃(ショットガン)短機関銃(サブ・マシンガン)を取り落とす無法者ども。その手からは血が噴き出しております。


「目には目を、歯には歯を、飛び道具には飛び道具を、ですわ」


 そう言い放った少女探偵の手には、小柄な拳銃が握られており、その縦に二つ並んだ銃口から、うっすらと煙が上がっています。


 年端もいかない少女の手であっても取り回しのできる、俗にデリンジャー・タイプと呼ばれる小柄な拳銃でございます。ジャスティナが手にしているのは、オリジナルのレミントン・デリンジャーを模しているものの現代の技術でリメイクされ、強力な357マグナム弾も撃てるようになった「ボンドアームズ・ガールミニ」。そして、目を引くのはその色。鮮やかな真紅のメッキが施されているのであります。


「ほう、そんな物まで持っていたのかね? この距離で手に当てるとは、なかなか腕もいい。だが、所詮はデリンジャー・タイプ。二発撃ったら終わりだ。まだ私の配下に銃を持っている者は大勢いるのだよ。無駄にあがくのはやめたまえ」


 半ば感心したように、半ば嘲笑うように言う首領(ドン)サウザン。その言葉と同時に、彼の周囲を固めていた六名のスーツ姿の男たちが、懐から拳銃を抜き出したのであります。


 そう、少女探偵が手にしている拳銃は、小柄で取り回しがよい代わりに装弾数は二発のみ。弾を入れ替えるには一度銃身を折って弾を込め直す必要があるのです。弾を撃ち切ってしまった今、六丁の拳銃に対抗する(すべ)は無いかのように見えました。


 しかし、少女探偵は不敵に笑って言い返したのであります。


「あら、やってみなくては分かりませんことよ?」


 その左手に三本立てた人差し指、中指、薬指の間には、替えの弾が二発挟まれておりました。次の瞬間、まるで奇術(マジック)でもあるかのように、目にもとまらぬ早業で弾の装填を終えると、再び紅の拳銃が火を噴きました!


「バカな!」


 またしても腕を撃たれて二人の側近が拳銃を取り落とすという事態に、さしもの首領(ドン)サウザンも一瞬冷静さを失って叫びましたが、次の瞬間には我にかえって命令を下します。


「撃て、殺してもかまわん!」


 その命を受けて、残り四名の側近たちが即座に拳銃を発射いたしました。


 しかし、その時には既に、我らが少女探偵は脱兎のごとく駆けだしており、放たれた四発の弾丸は空しく宙を貫くのみでございました。


 いや、少女探偵は兎のように逃げるだけの無力な草食獣ではありません。その手にした拳銃は、確かに無法者どもを打ち倒すだけの力を持った牙であり爪なのです。その鮮やかな金髪に風を受けて疾走する姿は、美しき肉食獣とでも呼ぶべきでありましょうか。


 パン、パン! パン、パン!!


 いったいどんな手品を使えば、そのようなことができるのでしょうか? 全力疾走しながら右手の拳銃の弾を入れ替えて、連続で発射する少女探偵。本来二発しか連射できないはずの拳銃を四連射して、側近どもを全員無力化してしまいました。


「ボ、ボスっ!」


 慌てて駆け寄ってきた無法者のひとりが、反対側を指さします。そこには、信じられない光景がありました。


 十数名の、鈍器や刃物で武装した筋骨隆々とした無頼漢たちが、全員倒れ伏していたのです。その中に、ひとり屹立(きつりつ)するのは、我らが快男児、銕二八郎!


「ガオーッ!!」


 高らかに勝利の雄叫びを上げる二八郎。


「ば、バカな、バカな……」


 呆然自失の(てい)をさらす首領(ドン)サウザン。もはや残っているのは銃を持たない数名の無法者のみです。とうてい、二八郎とジャスティナに対抗できる戦力ではございません。


「クソがっ!」


 先ほどまでの冷静さを失い、スーツの懐から自らの拳銃を引き抜こうとした首領(ドン)サウザン。しかしながら……


 パァン!


「この言葉、そっくりお返しいたしますわ。無駄なあがきはおやめなさい!」


 首領(ドン)サウザンの銃はジャスティナの放った銃弾によってはじき飛ばされ、遠くに落ちました。


「次は肩を狙いますわよ」


 それが脅しでないことは、先ほどからのジャスティナの銃の腕前を見ればわかります。


「さあ、無駄な抵抗はやめて、武器を捨てて手を上げなさい」


 その言葉に、残った無法者どもは武器を捨てて手を上に上げます。


「さあ、あなたも!」


 そうジャスティナに言われた首領(ドン)サウザンは、無念の形相(ぎょうそう)で、しかしながら大人しく手を上げようとしました。


 そのとき、首領(ドン)サウザンの左の手から、何かがこぼれ落ちました。彼が少年時代に握力を鍛えるためいつも握っていたのが癖になってしまい、今でも常に握っているもの――殻の付いたクルミです。


 しかし、それを見た瞬間、二八郎の目の色が変わりました。興奮のため、白目が文字通り血走って真っ赤に充血したのです。


「く、クルミ……」


 その、うめき声のようなつぶやきを聞いたジャスティナの顔色が変わりました。


「いけません、二八郎!」


 しかし、少女探偵に忠実なはずの助手は、その鋭い制止命令も聞かずに落ちたクルミに向かって突進しました。


 そして、落ちたクルミを拾うと、その金剛力をもって殻を砕き、実を口に入れます。


「ぐおおおおおおおおっ!!」


 吠える二八郎。その姿は、さきほどまでの獅子奮迅の暴れっぷりを見せながらも、常に冷静さを失っていなかった様子とはあまりにも違います。


「ど、どうなさったのですか、ニハチロー様は?」


 思わず問うたジュリアに、ジャスティナは苦渋の表情で答えました。


「二八郎はクルミ中毒なのです。クルミを見ると常日頃の冷静さを失い、口にしたら興奮状態になって正気を失い、敵味方の区別もつかずに暴走してしまうのです」


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