戦記27
「帝国軍が本格的に退却しました。」
森の中に急遽設置された第一軍後軍の本陣で、報告を受けたエヴァ以下の幹部達は大小の差があれど安堵する。同時に森に散らばった各部隊を集結させるために伝令を放つ。また第四騎士団を見失わないために追随する部隊の編制を準備する。その軍議の場で連合王国のファーム騎士長は、第一軍前軍へ自軍が無事な事を伝えるため伝令部隊の編成を訴える。
「バイファル騎士団長の意見は。」
「街道の安全を確認するためにも二個小隊で先行すべきでしょう。」
ごく自然なバイファルの同意に、喜びの顔を出すファーム騎士長。
「では、我が部隊からすぐさま向かわせます。」
「よかろう。貴官に任せる。」
逸るファーム騎士長にエヴァは苦笑するも許可を出した。先の戦闘での失態を咎めるよりも、苦労を受け持ってもらえるのであれば公国軍としてはそちらがありがたかった。
「森に入った各部隊を招集するには時間がかかりそうです。」
「ではこの仮本陣は動かさないほうがよいな。」
「はっ。ここを中心として各部隊の集結場所を決めますので。」
手際よく方針を固めて計画を立ててゆくエヴァとバイファル。
「ではいったん、総司令部へ報告をしておくか。」
エヴァはノイフォン城に設置された総司令部への報告書作成するため、軍議を解散とする。
「ノエル、どこへ行く。」
軍議では一言も発せず気配を消し、終わると静かに移動するノエルをエヴァは呼び止めた。
「いや解散でしょう。」
「報告書を作成すると申したであろう。」
「はい、殿下が作成されるのであれば、私如きがどうこうする話ではないのでは。」
「代表補佐の仕事は何だ。」
「お茶汲みですかね。」
「文字通り、代表を補佐する事だ。それに別動隊の経緯について詳細報告を受けていない。さっさとついて来い。」
エヴァはそれだけ言うと陣幕を出る。ノエルが周囲を見回すとバイファル騎士団長まで目を逸らす。武官にとって報告書作りはできれば避けたい事務仕事であった。
「くそっ。この忙しい時に。」
それだけ呟くとノエルはエヴァの後を追って陣幕を出ながら、背後に続くハイネスに確認してみる。
「書き仕事は得意か。」
意図を理解したハイネスはすぐに返答する。
「ナイフより軽いものを持ったことありません。」
あっさり拒否されたノエルは、自分が纏めることになる報告書を想像して気が滅入るのだった。
エヴァが総司令部に報告をするように、帝都にもボードル将軍からガイエル郊外の戦いの結末は伝わった。
「なんとかガイエルの街を維持している、ということか。」
賞賛でなく、嘲りが含まれている発言にある者は笑い、ある者は顔をしかめる。
「ボードル将軍がガイエルに籠ったとは。どういうことだ。」
「ガイエルの防衛が戦略上必須なのは、南部の支配権に関係するためだ。籠城してしまえば渡したも同然ではないか。」
「第四騎士団に二万五千の兵力を付けてやってこれか。」
「おまけにその二万五千もレグニアに退却させたとの報告がある。」
「何を考えている。」
帝都にある帝宮中枢の青翠の間。そこで行なわれる帝国軍最高軍務会議で南部防衛の失敗について、口々にボードル将軍を非難する声があがる。特に上級軍務官達は同盟軍のガイエル包囲を中からの守備軍と外からのボードル将軍の遊撃軍で対処する戦略が破綻したことで、貴族軍への対応を修正する必要がある事に不快感を露わにしていた。
「ボードル将軍の命令違反は軍規を犯す重大な罪です。解任及び逮捕の必要性を感じますが。」
人事部門のマルド上級軍務官が、軍規を盾にボードル将軍の罪を問うとタイロス子爵が反論する。
「第四騎士団の後退は兵力差の問題で、戦術上の仕方ない処置だと考えます。戦略上の問題を現場に押し付けるのはどうかと思うが。」
やんわりとした口調で主張するタイロス子爵をマルドは睨みつける。それでも皇帝の代理である皇太子が出席するこの会議では激昂は慎まれる。マルドが目くばせすると別の上級軍務官が軍務局の軍監長であるタイロス子爵に確認する。
「軍監長殿は第七十五号作戦計画に問題があったと申されるのか。」
「作戦はあくまで作戦。敵の進軍が想定より早く対処する時間が少なかった、そう私個人は評します。」
睨みあう両者を別の声が窘める。
「まだ作戦は継続中です。急な人事は控えるほうがよろしいでしょう。」
鋭利な秀才で知られる作戦部のドルニガル男爵は、作戦批判も懲罰人事も政争に使われるのは好まなかった。ガイエルの街の失陥は帝国南部を失うことを意味する。それを首の皮一枚で繋いだ功績よりも敵を撃退できなかった事に重きを置くとは、との内心もある。
「同盟軍はこのまま進軍とはならずに一旦は北上は停止、恐らく軍を分けて南部掌握に移ると考えます。」
帝国の軍略を担う作戦部の見解ともなれば他の者も傾聴しなければならない。ただ上級軍務官は嫌みを加えるのを忘れない。
「それは分析結果ですか。単なる見解でしょうか。」
その成分を感じたドルニガル男爵は内心の腹立たしさを隠して断言する。
「情報を元に分析した結果です。」
「ならば第四騎士団はガイエルの街で防衛にあたらせるのがよい。」
これ以上の議論は不要と判断した皇太子の結論を、全員が受け入れてボードル将軍の処遇は決まった。
「では新たな同盟軍の迎撃計画の説明に移ります。」
ドルニガル男爵は新たに計画された作戦を説明するために立ち上がった。
帝国軍の軍政の中心となる軍務局は作戦部、監査部、兵站部、人事部、錬金部の五部門に分かれる。既に兵站部と錬金部は平民出身の官僚で占められているが、戦場経験を重視する作戦部と監査部の長は貴族で部下は騎士階級が多い。ただ平民出身者もおり、特に歩兵団で戦功あり認められ出世した者もいるので一枚岩ではない。
そして人事部。貴族出身で様々な利害調整が可能な者が長となる慣習が破られて一年、皇帝と選帝候との軋轢の原因の一つになった軍務局人事部の長がマルド上級軍務官だった。いい意味でも悪い意味でも人事を知り尽くした商家出身の官僚は、皇帝の指導力が低下した時期から皇太子に接近して、今の地位を手に入れた。選帝侯を取り込む第二皇子に対抗するために受け入れた皇太子は、軍に対する影響力を増大させた反面、官僚に操られる皇帝の印象を拡大させてしまった。
説明が終わりドルニガル男爵が着席すると一人の上級軍務官が手を上げる。早速か、との表情だけでタイロス子爵は沈黙を守る。皇太子に指名されたのは兵站部のマーリッド上級軍務官。
「作戦部からの提案にたいして兵站部は危惧を申し上げます。」
「申せ。」
「ご存知の通り、反乱貴族の鎮圧作戦が計画中でありますが、その作戦行動を支援するために最優先で糧秣と兵馬の調達に動いております。そのため新たに五万の軍を南下させると補給の維持が困難となります。」
作戦部が立案した第六騎士団と兵団八個大隊を南部に投入する作戦は、貴族派との決戦用の軍団に含まれない部隊であり、その編成は緻密に計算されたものだった。それに対する補給の確保が難しいとの発言は、事前に確認していた内容とは異なるため、ドルニガル男爵は怒りを含みながらマーリッドに確認する。
「先日の作戦会議では武器はともかく糧秣は間違いないと兵站部からお聞きしたはずだが。」
「軍団の兵力が十八万に上方修正されたことによる状況の変化です。」
涼しい顔で答えるマーリッド。帝都で書類だけを相手にする軍務官僚に苛立ちを覚えたドルニガル男爵は、皇太子を説く。
「殿下。このまま南部を同盟軍に蹂躙させるのは得策ではありません。」
「しかし反乱者どもを叩かねば帝国の根幹が揺るぎかねん。」
皇太子の発言は帝都中心の視点であった。特に南部に対して関心が薄い様が読み取れ、ドルニガル男爵は困惑する。
「殿下、私に一案があります。」
マーリッドの表情から自信とその他の成分を読み取ったタイロス子爵は、ある予想を元にドルニガル男爵に目配せする。すぐに閃いたドルニガル男爵が止めようとするより半瞬早く、マーリッドの提案がなされてしまった。
帝国で新たな作戦が発動されようとしていたころ、同盟軍最高司令部があるノイフォン城でも今後の方針が話されていた。
「第一軍が敵の軍団を撃退したとの報告は聞いたかと思うが、ガイエル包囲による今後の方針を協議したい。」
連合王国第一王子アーヘンは上機嫌で語る。自軍含めて同盟軍全体の損失は少なく侵攻は想定以上に早い。これで喜ばない総司令官はいないだろう。
「初期の計画通り、ガイエルを落とすことで講和でよいかと。」
「問題はいつ落とすかだな。」
共和国軍レゾネント軍務次官も都市連盟総督のアーベンヘルトも視点がすでに政治問題に移動している。
同盟結成時の四ヶ国の議定書で帝国との講和時の領土割譲は、その都市や地域を制圧した軍の国が優先権を持つ事が明記されている。現時点でヤルトとワールは公国の優先権が強い。つまり残りの三ヶ国はまだ明確に優先権を行使できる都市や地域がない。そのため、ガイエル陥落前に増やしておく必要があった。
「ガイエルは簡単には落ちますまい。」
都市連盟は帝国領に興味が無かった。むしろ各国に貸しを作り別の権益を手に入れる目論見がある。
「そうだな。南部制圧に力を注ぐのも一案。」
共和国は特に南西部の穀倉地帯が欲しかった。
「そうすると西と東で分かれるほうが効率が良いな。」
南東部の森林地帯が宝の山であると知っている連合王国はそちらへの侵攻計画が元から存在する。
「公国代表代理としてその提議に答える用意があります。」
代表と副代表のエヴァとルードルフ将軍が前線にいるため、公王より全権委任されたローエン伯爵は快く賛成する。
「我が軍を中心に各国の兵力供出でガイエル包囲と南下する帝国軍の迎撃を行うでよろしければ、各主力が制圧に向かわれるのに同意します。」
もとよりこれ以上の進軍を控えたい公国としてはガイエルの確保の段階で停戦を望んでいる。公王より同盟軍を制御するように命じられたローエン伯爵は、ノイフォン城でフェルナンド伯爵の協力を受けながら政治と外交に勤しんでいた。
総司令部からの軍の再編命令と次の目標が届いたその夜、再集結した公国軍の最高幹部は陣から少し離れた湖畔で会議を開く。月明かりの下でテーブルが置かれ、そこには椅子が五つ。総司令部や本国の思惑と前線の意見を擦り合わせるため、エヴァは副代表のルードルフ将軍と騎士団の代表としてムーグベル騎士団長、兵団の代表でリッジ兵団長を呼び集める。そこに代表補佐とは名ばかりの小間使いが同席する。
「所詮は小間使いの身、ただひたすら命令をこなすだけですな。」
席の用意をするノエルは、聞こえるようにぼやいてみせる。
「どこの世界に十万の軍を裏で操る小間使いがいる。」
ルードルフ将軍はノエルの勝手な描写に文句をつける。
「この場で最も態度の大きな者のくせに。」
ムーグベル騎士団長も同意する。
「いったい後、幾つ策を労しているのか。」
第一兵団のリッジ兵団長は本気で怪しんでいた。ノエルはこの包囲網の綻びを探すが、見当たらなかったのでさっさと本題に入ることにした。
「現在、第一軍と第二軍が合流したため、公国軍も再び三個騎士団と二個兵団を有する軍団となりました。」
話し始めてからノエルは自身が会議を取りまとめている事に疑問を感じる。
「そして、この兵力をどのように活かすか、公国は選択を迫られております。このまま強盗紛いの侵攻を続けるか、とっとと帝国と仲直りして引き上げるか、それとも。」
ノエルの言い回しはともかく内容は間違ってはいない。今回の帝国侵攻を望んでいる者も楽しんでいる者もこの中にはいない。公国が帝国に領土を増やすなど帝国に公国侵略の口実を与えるだけで益はない。
「さらに問題なのは、主体的に決めることができないことです。全く、人生とはままならぬものです。」
余計な一言を挟むノエルにリッジ兵団長が椅子を鳴らすも、ルードルフ将軍の動作で声を出すのは控える。
「ノエル卿よ、冗談はいらん。真面目に申せ。」
ルードルフ将軍の厳しい声にノエルは渋々話を戻す。
「ガイエルを落とせば帝国の両派は休戦する可能性があります。」
「貴公の予想か。それとも情報か。」
「当事者の一方からの情報です。」
ノエルの言い回しに質問したムーグベル騎士団長は理解する。またこの男は勝手に動いていたのだと。
「貴様、どこまで反乱軍と繋がっているのだ。」
「単なる文友達です。」
ノエルの言い方は明らかに煽っていた。
「同盟軍の方針がガイエルの包囲維持であるから、その危険は回避できるということか。」
ルードルフ将軍はそう確認する。
「幸いかつ偶然にも、と言うべきですが。」
また余計な一言をノエルが加えると、不愉快そうな顔をしながらもリッジ兵団長は別の危惧を話す。
「しかし帝国軍がこれ以上の兵力を送らないわけではあるまい。」
「そうですね。まだ二、三万は余裕で動かせるでしょうから。」
ノエルの説明は的確だがどこか他人事で、ルードルフ将軍に黒策士と呼ばれる少年がまた腹に一物があるのではと勘ぐらせる。
「ノエル卿、この状況で我が軍に最適な方策があるのか。」
「それは一介の補佐役に聞くことでは無いような。」
小声で文句を言うノエルにエヴァは釘を指す。
「前置きはよい、考えている策を申せ。」
少しヘソを曲げたノエルは、わざと偽悪的に説明する。
「四ヶ国同盟の破棄は公国からはできませんが、一人の兵を犠牲にすれば四人は公国に帰れます。」
ノエルが言うのは、同盟規約で各国の軍は戦闘継続が困難な場合は協議の上で後退が認められている事だった。当時の常識で兵力の二割弱に損害が出れば軍は維持できず、そうなる前に撤退するしかない。
「犠牲が無ければ他国は納得しないでしょうが、それで殿下はよろしいのですか。」
言外に兵の損耗に否定的な意見を述べるリッジ兵団長。
「しかし敵に一撃を与えないと公国の面目がたちません。」
ある程度、敵に損害を与えての後退でなければ、同盟国に侮られる事になると指摘するムーグベル騎士団長。
「こちらから攻めるのは得策とは思えんが。」
ルードルフ将軍は公国から攻めることも、帝国の主力級に手を出す事も避けたかった。
「帝都の連中はガイエルを包囲する同盟軍に何らかの手を打ってきます。その戦力と一戦を交えて退くのが最適かと。」
ノエルは城壁に籠もる敵を攻める役割は他国にやらせるつもりだった。
四人の意見が微妙に異なるため、ルードルフ将軍は溜息をつくとエヴァに上申する。
「こうなると我が軍は総司令部の意図通りにガイエル防衛を受け持つのが得策です。」
ルードルフ将軍はレグニアに南下してくるであろう帝国軍を、北部守備軍として迎撃する任務は好都合であると判断した。これに他の出席者の同意があり、エヴァは決断する。
「それでは我が軍は総司令部からの命令を受け入れる。ノイフォンにいるローエン伯爵にそう伝える。」
元より公国の基本方針が消極的進軍であるため、今のところ本国と総司令部と前線に齟齬は生じていない。ただこれに国内政治が絡むため話が複雑になる。これまでも第二公女派の伸張を望まない他派閥の、これ以上の武勲をエヴァが得る事を避けたい公子派と、多少の負け戦でエヴァの評価を下げたい第一公女派の鍔迫り合いがあった。
そんな事を知ってか知らずか、エヴァは会議の解散を命じる。この場合は位の高いものから離れるためノエルは最後となった。
「ノエル卿よ。」
他の者と同様に退席の挨拶をして席を立ったノエルを、エヴァが呼び止める。
「はっ。」
「少し残れ。」
他の三人が陣に戻るのを横目に見ながら、仕方なしにノエルは席に戻る。
「とりあえず立場が異なる三名の意見が、同じで良かったですね。」
ノエルは立ち去った三人が完全に見えなくなると、エヴァに確認した。
「それよりも共和国軍や連合王国軍をこのままにしても大丈夫か。」
エヴァの質問の意味が判りながらも、ノエルはあえて尋ねる。
「我が軍にとってですか。それとも我が国にとってですか。」
「帝国民にとってだ。」
ノエルの口からため息が多少出たとしても、仕方ないことだった。
「できるだけ早く帝国の援軍が現れる事を祈りましょう。」
それだけ言うとノエルは机に置かれた杯に手を付ける。甘い樹液をお湯で割ったもので夜の肌寒い時に効果があるが、すっかり冷めているので微妙に不味い。
「これ以上は無理なのか。」
ノエルは杯の中身に心が奪われてエヴァの質問を半分聞いていなかった。それに気がついたエヴァはノエルの肩を思いっきり叩く。
「痛い。判った。怒るな。」
「どうなのだ。」
「流石にここまでが限度です。ガイエルを落さないのは同盟国の都合であり、再編され東西に分かれる共和国軍と連合王国軍の行動を制限する事は不可能です。」
エヴァの隠れた思いを知るのはノエルとルードルフ将軍のみだった。
ヤルトとワールの略奪を未然に防ぎ、ガイエルも強襲を控えさせるために他の同盟国の思惑にのる。だがこれ以上はエヴァの立場では不可能だった。
城塞や街を落した軍が略奪を行うのは一種の権利でもあるため、他国の部隊の制御は難しく精々やりすぎない様に勧告する程度が現実。そもそも敵国の街への略奪を防ぐために腐心する事は、ノエルに言わせれば他人の鍋の中身を心配するようなもの。
「南部制圧で仲良く東西に分かれただけでも良しとしましょう。争って同じ街に共和国軍と連合王国軍が押し寄せれば十万程度の街など。」
そこまで言ってノエルは口を噤んだ。明らかにエヴァの機嫌が悪い、いや危ない。
「いったい何が楽しいのだ。」
ノエルは吐き捨てるエヴァの表情から、あの時の記憶を蘇らせている事に気が付く。ノエルもこの時ばかりは一切冗談を口にしない。しばらくの沈黙の後でエヴァは口を広く。
「私も変わらんか。」
それにはノエルは答えない。エヴァは真剣な面持ちでノエルに確認する。
「ノエル卿。我が軍はいつ迄待てる。」
「補給は問題ありませんが、兵が持ちません。それに他派閥からの圧力もそろそろあるでしょうから、そうですね、良くて二ヶ月かと。」
本来、遠征などしない公国軍の兵士が数カ月も異国で維持できているのは、訓練と徹底した軍律の賜物だった。それも限界がある。そしてこれまでの遠征が公国にとって上出来なため、他の派閥から必ず仕掛けられる。代表の交代か、無理な作戦命令かそれとも。
「それまでに来ると思うか。」
ノエルは今まで隠していたエヴァの執念がほんの少し漏れた事に気がつく。
「内乱には使えませんから、どれかに必ず。ガイエル開放に投入される可能性もあるかと。」
ノエルは沈んだ瞳で答える。その瞳が映すのはノエル以外誰も知らないエヴァだった。




