表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/76

Reno-リノ-後編

 そのまま赴いたのは、彼女がよく行く武器屋だった。

「こんにちは」

 レジーナは笑顔を作って入店した。

「どうも。おや、あなたのような方が武器をお探しで?」

 若い店主は意外そうに言った。

「これでも、冒険者なんです」

「へえ、貴族の娘さんかと思った。それで、クラスは?」

「ヒーラーです。杖が折れてしまって、困っているの」

 店主の目線がちらちらと、胸の辺りへと向かうのがよくわかる。

 リノには経験したこともない快感だった。

 店主は咳払いをしてから立ち上がって、先端に丸く赤い魔石のついた杖を持ってきた。

「これなんて、どうです。ランスで有名なブッフェ工房の新作ロッド。とくにこの〝理力〟増幅の魔石がとてもよく精錬されている。錬成の速度アップはもちろん、魔法効果の期待値も通常の三倍以上は見込めるでしょう」

 もちろん、知ってるわよ。それ、発売する前から目をつけていたんですもの。

「……いいわね。おいくら?」

「オープン価格、四十五万ゴールドです」

 レジーナは財布を出す。

「あら、残念。足りないわ」

「そうだな、少しくらいなら、まけますけど」

「ほんと。じゃあ十万でどう?」

 店主はばからしい、と言ったふうに手を広げた。

「三十五万ゴールドも安くしろと?」

「うーん、私、手持ちがそれしかないの。それ、気に入っちゃったな。どうにかなりません?」

 首をかがめ、上目づかいで店主に詰め寄る。しかし、このくらいの誘惑でまけてしまうようでは、王都の武器屋はつとまらない。

「三十五万なら」

「ダメ?」

 レジーナはわざとらしくならないよう、おもむろに、胸の部分を少しはだけさせた。店主がつばを飲むのがわかった。彼はたしか独身のはずだ。勝算はある。

「うーん、仕方ない、二十五万で手を打とう。残りの十五万は後払いでいいよ」

「わたし、マイレムのほうに住んでいるので、王都には滅多にこないんです。残りは払えないかもしれません。もしそうなったら悪いし……しょうがない、諦めます。あーあ、残念だな。ここの店は最高のサービスをしてくれるって、友達が言ってたからわざわざ来たのに」

 店主は少し残念そうにする。

「あ、いや。でも。こ、困ったな。そんなこと言われたの、初めてだ。あ、そうだ! 十万でいいのを見つくろってあげるよ」

「いえ、いいんです。その辺で探しますから。それに……店主がいい男だって話は、ホントだったから。ちょっと得したかなって。えへへ」

 ズギューンと、音が聞こえたような気がした。

 店主はすぐに、ブッフェ工房の新作を彼女に手渡した。

「これなんてどうだい? に、似合ってるよ」

「え? だってこれ、四十五万の」

 店主は赤くなりながら言った。

「せっかく遠くから来てくれたのに、う、うちの店のサービスが悪いだなんて、思われたくないからね! これくらいは当然だよ」

「……友達に言っておきます。この店はサービスも、店主も、最高だったって」

 かくしてリノは、十万ゴールドで新作ロッドを手に入れた。

「よっしゃ!」

 店を出た彼女は、思わず小さくガッツポーズした。

 それにしても全く、たったこれだけで三十五万も浮いたっての?

 「見た目で得をしすぎ」っていうのは、こういう事をいうのよ、シャルル。


 翌日、レジーナはマグン西部エリアへと向かい、とある酒場へ向かった。

 入店して一直線に、カウンターへと向かう。女店主が水を出した。

「注文は」

「なにかクエストを」

 少し大きめの声で言ったので、彼女は客からの視線を集めた。彼らはみな「ルーザーズ・キッチン」に集う連中とは段違いにレベルの高い冒険者たちである。ふつうだったらちらっと見るだけで、それぞれの時間に戻る彼らだったが、それがとびっきりの美女と見るや、全員が集まるようにして彼女に視線を送った。

「だいぶお急ぎのようだね」

「ええ、お金がなくて困ってるの。杖を買っちゃったから」

「クラスは」

「ヒーラー」

 店主は眉間に皺をよせた。

「ヒーラーだって? この店がどういうところか、知っているのかい」

「いえ、知りません。まだ初心者なので」

「……申し訳ないけど、ここではちょっと。お引き取りを」

 店主としては当然の対応である。しかし、そんなことはリノにもわかっている。

「えっ、ダメなんですか?」

「ものごとには、レベルってものがあるのよ。せめてプリーストになってから来ることね」

 レジーナはひどく落ち込んだ。正確には、そういう演技をした。すると、遠目の席から横やりが飛んできた。

「おかみ。そりゃちょっとひどいんじゃないのか。彼女は初心者なんだ、何も知らないんだから、くる場所を間違えもするさ」

 見ると、頑丈そうな鎧をつけた男が立ち上がって、こちらに向かってくる。それにつられるようにして、周りの人間もレジーナへと近づく。

「いえ、いいんです。本当にごめんなさい、何も知らなかったんです」

 男はレジーナの体を見回す。そしてにこりと笑顔を作った。

「君、名前は。俺でよかったら、クエストにつきあうよ。それだったら文句ないだろ、なあおかみ」

「まったく、おまえたちときたら。好きにおしよ」

 店主は彼らを払いのけるように腕をふった。

 結局、レジーナは高レベルのパーティに守られるようにして討伐クエストに出向き、高額の報酬を得た。王都に戻ったあと、何度も彼らから一緒に宴会をと誘われたが、さっさとおさらばした。


 こんなことを続けているうちに、歩いているだけで目立つ美女レジーナは、一躍マグンの有名人になった。ときおり姿を現してはクエストや買い物をするものの、彼女がどのギルドに属していて、どこに住んでいて、どんな友人がいるかなんてことは、すべて謎に包まれていた。そのミステリアスさがまた根も葉もない噂を呼び、人気を高めた。王都新聞社では彼女の情報に懸賞金をかけたが、レジーナのことを知る人間がいるわけもない。レジーナ本人にかけあおうとしても、どこにいるのかがわからないのだ。結局、新聞には「彼女はいったい何者なのか」という記事だけが掲載された。


 一方リノは多くのものを手に入れていた。

 他人からの羨望、賞賛、そして金。女性からは嫉妬されている節があるが、気にならない。だって立っているだけで男が自分を求め、寄ってくるのだから。

 だが、そんな生活を続けるうちに、「レジーナ」であることの方が自然になってしまい、自分の中の「リノ」が、少しずつ薄れていくような気がした。

 それでも、リノはレジーナであることに夢中になっていた。

 彼女は今日も狭い路地裏でこっそり指輪をはめてから町に出た。近頃は王都新聞の記者がうろついているので、うかつに自分の家は使えない。


 レジーナは今日はあえて、「ルーザーズ・キッチン」に寄ってみた。冒険者はほとんどが低ランクだが、やはり酒が上質なので定期的に行きたくなってしまう。

「いらっしゃい、おっ、レジーナちゃんじゃない!」

 グランが大声で出迎えた。その声に反応して、見慣れたメンバーたちがこちらを見る。

 ロバートがぽかりと口を開いている。ミランダとセーナは興味しんしんでこちらを伺っている。エイムス・マクドネルはすっかりできあがってしまっていて、わははと笑った。アイは、不機嫌そうにこちらをにらんだ。マスターは、満面の笑みでカウンターに手招きした。

 リノとは、えらい違いね。レジーナはカウンターに座って、好きなぶどう酒を頼んだ。

「レジーナ・フィラメントに来てもらえるなんて、光栄だよ。それにしても君は珍しい酒を選ぶね」

 マスターが言った。

「そうかしら。ここのぶどう酒、かなりいいわ」

「本当に珍しいよ、この三十五番が好きな子なんて、ほかに一人しかいないからさ」

 レジーナははっとした。リノのことだ。

「……それって、どんな子?」

「リノっていう子さ。クラスは君と同じヒーラー。小さくて、かわいい子だよ」

「へえ。私より?」

 マスターは頭をかいた。

「まいったな。もちろん、君の方が美人だろうけどね」

 レジーナはグラスをあおる。当然よ。

「ふーん。それで、この三十五番って、どうしてメニューの中にあるの? 確かにおいしいけれど、わたしはたまにしかここに来ないし、ほかにはその子しか飲まないんでしょう? たった一人のために作ってるの。なんだか迷惑な話ね」

 マスターは、目をつむった。

「その通り」

 レジーナは、少しいらっとした自分に気がついた。

「特にこの三十五番は手間がかかるからね、実は赤字なんだ。でもね」マスターは続ける。

「リノちゃんが好きだっていうから、彼女が来てくれる限り続けるつもりだよ。もっとも、最近はあまり見かけないんだけどね。もしかしたら、この店に飽きちゃったのかなあ。なんというか……。根はいい子のはずなんだけど、どうも周りの人と線を引く癖のある子でね。このバカにもよくしてくれていたんだけどな。おいグラン、その皿はそっちの棚じゃない。いい加減覚えろ!」

 その言葉は、レジーナの心に少なからず揺らぎをもたらした。

 口げんかを始めたマスターとグランを見ながら、レジーナは一人酒を飲み続けた。途中、ミランダが大声で噂話をし、セーナとアイが楽しそうにその話に乗った。ロバートはエイムスとカードゲームを始め、定期的にどちらかが悲痛な声をあげた。グランはそれを見て笑いながら、レジーナに嘘くさい冒険話で気を引こうとしている。しばらくしたのち、なんだか居心地が悪くなって、レジーナは店を出た。


 彼女はまたメーンストリートに出て、適当な酒場を探した。歩いているだけで、人々がこちらを見て驚いたり、「レジーナだ」と叫ぶ。寄ってくる者もいるが、すべて一瞥して、興味をなくしたように目線をずらす。

 レジーナは、羨望を受けながら歩いてゆく。

 しかしどうも、気分が晴れない。

 どうして? 私はこの状況を楽しんでいたはずよ。

 リノよりレジーナの方が、ずっといいはずなのに。


 しばらくして、レジーナはふと、ある店の前までやってきていたことに気がついた。

 黄ばんだ壁と薄汚れた丸い窓は、昔から変わらない。

 そこは、かつてリノが通っていたバーであった。

 普段のリノなら、まずこの店のある通りまで近づかないようにしているのだが、どうやら考えごとをしているうちにここまで来てしまったようだ。

 だけれど、今はレジーナだ。私は、王都じゅうの話題を独占している女なのだ。

 リノは決意を固め、ドアノブをひねって入店した。


「いらっしゃい」

 からんからんというドアベルの音の後、薄暗い店の奥から老人の店主が出てきた。通っていた頃と比べると、ずいぶん老けこんでいる。

 レジーナは店を見渡す。何人か冒険者たちと思われる集団がテーブルを囲っているが、「ルーザーズ」などと比べると、だいぶ閑散としている。

 でも、懐かしいにおいがする。レジーナは自然と笑顔になった。

 カウンターに腰掛け、いくらかのゴールド硬貨を置く。

「おや、この店のことをご存じかね」

 無意識にやってしまって後悔した。この店では、注文をする度に金を支払うので、常連はみんなこうするのだ。

「あっ、はい。以前何度か」

 店主はめがねのずれをゆっくりと直しながら、じっと彼女を見る。

「そうだったかな。それは悪かったね。注文は」

「セレアストを」

 店主はまたもや、意外そうな顔をした。

「おやおや、それを知っているなんて、いよいよもって常連さんだね。でも、ごめんね。今はもうやってないんだ」

「えっ、そうなんですか……」

 レジーナはがっかりしながら、別の酒を頼んだ。セレアスト。リノがかつて大好きだったここのオリジナルカクテルだ。

「君、確かにどこかで見た気がするな。すまないね、年のせいか思い出せないんだが」

「たまに来ていただけなので、印象に残っているだけでも光栄ですわ」

 リノはしばし、思い出にふけりながら酒を楽しんだ。ここの酒は「ルーザーズ」と同じくらいおいしい。

 

 からからと、ベルの音がした。同じに後方から、何人かのしゃべり声が聞こえてくる。

「いらっしゃい」

「よう、来たぜ。おっと」

 レジーナ、ではなくリノはその声を聞いて思わず硬直する。まさか、このタイミングで現れるなんて。

 声の主はずんずんという音とともにカウンターまでやってきて、レジーナの隣に座って硬貨を雑に置いた。一緒に来た男たちも、それに続いた。

「そこ、本当はオレの特等席なんだけどな、今日はあんたにくれてやるよ」

 レジーナは、自分に話しかけてきた男を見た。

 忘れもしない、この憎まれ顔。

 かつての恋人、テネシー・バックスだ。

「テネシー、おまえさんなら知らないか? その子、さっきセレアストを頼んだんだよ」

 テネシーは大ぶりの剣をカウンターの溝にひっかけながら、興味ありげにレジーナを見る。

「ふーん。セレアストねえ。またずいぶんとマニアックだな。確かにどこかで見たことあるぜ。こんな美人、オレがほっとくわけないしな」

「おい、その子もしかしてレジーナ・フィラメントじゃないか?」

 テネシーの先に座る男が言った。店主はめがねをぐいと押し上げた。

「レジーナ……?」

「しらねえのかよ、じじい。レジーナって言えば、今話題になってる、謎の美女じゃねえか。確かに、新聞の写真で見た顔とにてるぜ」

 レジーナはテネシーから視線を外してグラスをあおった。

「確かに私はレジーナ・フィラメントですけれど、何か」

 男たちから、おおっと声があがった。

「マジかよ! こんな場末のバーに現れるなんて、あんたほんとに謎の女だな!」

「この店には、たまに来るの。あなたたちは?」

「オレはテネシー・バックス。ナイトをやってる。あっちがウィザードのヘッケル、プリーストのジャン」

 ヘッケルとジャンはそれぞれ手をふる。もちろん、リノはこの二人のこともよく知っている。

「にしても、へんな話だな。レジーナがセレアストを知っているなんてね。もう、結構昔のメニューだぜ。それこそ、オレたちがこの店に通うようになった頃の。あんたが常連だった記憶はないな」

 レジーナは少し考えて、言った。

「リノって子に聞いたの」

 テネシーは、その名前を聞いてぽかんとする。

「リノ? リノって……、リノ・リマナブランか?」

「リマナブラン、デよ」

 思えばこの男は、何度言っても名字をちゃんと覚えなかった。

「へえ、リノって言えば、昔よくここに来てたよね。ほら、シャルルとかもいた頃だ」

 ジャンが水を飲む。

「リノちゃんねえ。これまた、懐かしい名前が出たな。なあテネシー」

 ヘッケルはテネシーの肩をたたいた。

 レジーナは、テネシーを見る。

 うつむいている。

「リノは、あなたのことを、よく知ってるって言ってたわ」

 テネシーは、顔をあげた。

「わはははっ! リノねえ! いたなあ、そんな奴。夢見がちな乙女ちゃん。それにしても、あんたらが知り合いだなんて、とんだお笑い話だぜ。二人並んで歩いたら、ある意味目立つだろうな」

 ヘッケルが頷きながらテネシーを指さした。

「そういえば俺、ちょっと前に彼女を見たよ。今は南部の方に住んでるみたいだ。見た感じ、なんも変わってなかったな」

 テネシーは大声で続けた。

「ガキのまま! わっはっは! あのませガキ、元気にしてるかな? 少しくらいはあんたみたいに女らしく」

 そこで、彼の言葉は遮られた。

 レジーナが強烈な勢いのビンタを、テネシーの頬に食らわせたのだ。

 バーは沈黙に包まれた。

 レジーナは硬貨をどんと置いて、席を立った。

「さよなら」

 テネシーは何が何だか理解できない様子で困惑していた。


 時刻はすでに深夜。街頭が寂しげに、ぽつぽつと煉瓦作りの道を丸く照らしている。

 レジーナは、外に出てすぐ、こんなところに来なければよかったと思った。

 久しぶりにテネシーを見て、思い出した。

 あんな奴だけれど、まだ、彼を好きだった。

 今でも忘れない。

 彼から別れを切り出された日、愛を信じきっていたリノは、これまでの人生の中でもっともひどく狼狽した。テネシーはとくに、何も言ってくれなかった。リノはそれ以上に追求することが怖くなり、本当にあっけなく、二人の恋は終わった。

 だが、少なくともリノにとってそれは、世界が崩壊するくらいのショックだった。

 それからは、何かと理由をつけて自分を慰める日々。

 他人とは一定の距離を作り、必要以上に関わらず、自分本位に「私はこうだから」と理想の自分像を作り、本心をひたすらに隔離した。

 だが、思い出してしまった。好きだったのだ。

「それなのに、あいつときたら……元気に、やってるじゃないの。『リノ』は、あんたにとって、そのくらいの存在だったの……」

 リノは、自分の指を見た。

 すらっとした、レジーナの指だ。

「『リノ』は、どこにいったの。もう、私がいないじゃない。ここには、レジーナしか、いないじゃない。私って、いったいなんなのよ!」

 レジーナは涙をこらえながら、走り出した。


 しばらく走って息をつくと、もうそこは見慣れたサン・ストリートだった。

 リノは汗をぬぐって、ぼおっとしながら歩き続けた。

 そのとき、少し先に誰かがが歩いてくるのが見えた。だが、暗がりにまた消えてゆく。

「わたしは、なんなの……」

 リノはうわごとのように、言い続けた。自分も暗がりに消えた。

 次の街頭で、こちらに向かってくるのが誰だかわかった。

 リブレ・ロッシだ。

 だが関係ない。今はもう、家に帰りたい。

 その次の街頭で、二人はすれ違った。

 一瞬目が合ったが、レジーナはすぐに視線を外す。

 リブレの足音が、遠くなっていく。

 わたしは、なんなの。

 音は、ぴたりとやんだ。

「……リノ?」

 リブレの声がした。リノは驚きのあまり一瞬びくりとしたが、ゆっくりと振り返った。リブレがこちらを見ている。

「あっ! いえ。ごめんなさい。違った」

 リブレは申し訳なさげに手を掲げて、去ろうとしたが、レジーナは「待って」と声をかけた。

「リノを知ってるの?」

 リブレは振り返る。

「ええ」

「なんで、私をその子と勘違いしたわけ?」

 リブレは困った表情を浮かべた。

「えーと、その。ごめんね。なんか、似てたんだ。仕草とか、雰囲気がさ」

 レジーナは自虐的な笑みを浮かべた。

「そいつ、知ってるわ。ガキみたいな顔した、いけすかない女でしょ」

 それを聞いて、リブレはしばらく無言だったが、しばらくして答えた。

「ますます、リノみたいだな」

「違います。私はレジーナ・フィラメント。あんただって知ってるでしょ。今話題の、謎の美女よ」

 リブレはしばらく彼女のことを、まっすぐ見ていた。

「だよな。うん、まあ、知ってるよ。レジーナ。ごめん、勘違いだったみたいだ。似てたんだ。なんか寂しげなところとか、さ。あんたみたいな人でも、そんな顔するんだね」

 リブレはきびすを返した。

 が、すぐに腕を捕まれた。

 振り返ると、そこにはだぼだぼの服を着た少女がいた。

「リノ!?」

 さすがのリブレもびっくりしたようだった。

 リノはうつむいたまま、外した指輪を手の中から地面に落とし、踏みつけた。そして、リブレの胸に顔を押し付けた。

「とりあえず、いまは、あんたで、いいわ。でも、だれにも、いうなよ」

 リノは、かすれた声で言いながら、鼻をすすって震えだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ