奇妙な伝言ゲーム
王都マグンは、サン・ストリート沿いの酒場「ルーザーズ・キッチン」。
どん、と木をうちつける音が響いた。リブレが驚いて振り返ると、マスターがくしゃくしゃの紙を見つめながらぷるぷるとふるえていた。
「マ、マスター?」
「グランはいるか、そこに」
マスターは視線を紙に向けたまま、低い声で言った。リブレは困惑した。珍しく本気で怒っている。
「す、すいません。ちょっと前に帰りました」
マスターが握り拳をふりあげ、カウンターをたたいた。どん、とまた音が響いた。リブレはそれを聞いてびくりと体をはねさせた。
「金、払ってないよな」
「え、えぇ」
「別にな、いいんだよ。本当に金がなくて困っているのなら、この『ルーザーズ・キッチン』ではメシくらいは食わせてやると決めている。ここはそういう奴のための店だからな」
マスターはゆっくりと立ち上がった。
「だがなあ、リブレよ。誠意って大事だよな。あと、ものには限度ってものがあるよな?」
リブレはなにも言わず、首をぶんぶんと縦に振った。
「今日計算したんだが……。リブレ、五万四千ゴールド。この数字の意味がわかるか?」
リブレはちょっと黙って、恐怖におののきながら言った。
「この店の、つけですか」
マスターはまたカウンターを殴った。リブレはより一層びくりとした。
「その通り。よくわかってるじゃないか。だが今回、俺が怒っているのはおまえについてじゃない。もちろん、この額は、限度ぎりぎりって感じだがな。問題は、奴のほうだ」
マスターはくしゃくしゃの紙を取って、リブレに渡した。
「ミランダ・リロメライ:二千五百ゴールド。ロバート・ストラッティ:四千ゴールド。エイムス・マクドネル:一万二千ゴールド。リブレ・ロッシ:五万四千ゴールド」
つけの額だ。あれ、エイムスよりも多いのか、などと思いながらも、リブレはおそるおそる、自分の下の欄を見た。
「グラン・グレン:十五万八千ゴールド」
リブレはつばを飲み、紙からマスターへと視線を移した。
鬼の形相がそこにはあった。
「リブレ・ロッシ。おまえに頼みがある」
「は、はい」
「このバカを、今すぐ! つれてこいっ! そして土下座だ、土下座をさせろ!」
リブレは、はじかれるようにして店を出た。
リブレはグランの家まで、オーガから逃げるみたいに走っていった。
「おい、グラン!」
ドアをたたくが返事はない。開けてみるともぬけの空だった。
「ちくしょう、こういう時に限って!」
「どうしたんだよリブレ、そんなにあわてて。うるせえぞ」
そこにロバートが現れた。
「あっ、いいところに。ねえ、グランを知らないか」
「さっきクエストに行ったよ」
リブレは頭をかきむしった。
「どこ行ったんだよ!」
「リノとかミランダと一緒に、キーバライの森に行くって言ってたなあ」
キーバライの森。行きたくないが、致し方あるまい。
「わかった、ありがとう」
「おいリブレ、いったいなにがあったんだ」
「グランが、まずいんだよ。つけのことで、マスターがカンカンに怒っててさ。久々のマジギレってやつ。あいつ、十五万ゴールドもつけてたらしくて……ああ、とにかく、行ってこなきゃ!」
「ふーん」
リブレはものすごい勢いで駆けていった。
それを見送ってから、ロバートはくしゃみをした。
「いけねえ、やっぱり風邪だな。頭がボーっとしやがる。とっとと帰ろう」
ロバートが自分の家まで歩いていく途中、見慣れた顔とすれちがった。
「あれ?」
「……なによ」
リノは不機嫌そうにして彼を見た。
「リノ、クエストに行ったんじゃ?」
それを聞くと、リノはことさら機嫌を損ねた。
「行ったわよ。でも、すぐに霧が濃くなったから、中止になったわけ。全く、こういう時に限ってリブレがいないんだから。ホントに使えないわ、あいつ」
「グランは? グランもいたんだろ? リブレの奴が、なんか必死になって探してたぞ」
リノはその名前を聞いて、ヒステリックにわめいた。
「あいつが一番使えないわ! 全く、躊躇せずクエストを放棄するんだから! グランは死刑よ!」
「なあ、グランはどこ行ったんだよ。もしかしたら、リブレと行き違いになってるかも」
「知らないわよ!」
こういう時の彼女には、関わらないのが一番だ。ロバートは諦めた。
「……じゃあ、もしもの時のために、グランに会ったら伝えておいてくれ。えーと、なんだっけな。つけかなんかでマスターが怒ってるってさ」
リノは無言で立ち去った。ロバートはまたくしゃみをして、家へと入っていった。
ご機嫌ななめのリノは、広場の露店に立ち寄った。ここの魔術師が作っている魔法アイスだけが、彼女の心を慰めてくれる。
「おっ、リノじゃん。ずいぶん早いね」
アイが広場の花壇に座ってアイスをなめていた。リノは魔術師に料金を払うと、無言で彼女の隣に座った。
「クエストは? ……まあ、聞くまでもないか」
「ご名答。アイちゃんもずいぶん早かったのね。あんたを呼ぶべきだったわ。ああ、今日は珍しくミルク味ね。クールだわ」
「あたしは、いつものクランベリー味のほうが好きだな。 ……それで、グランは?」
リノはアイスをなめ続けた。
「知らない。自分で探しなさいよ。ほんとにもー、あのバカのどこが好きなのか、不思議でしょうがないわ。もうちょっとマシな男になさい」
アイはなにも言わず、アイスを食べきった。
「……それは、あたしが決めることじゃん」
「だったらさっさと告白なりなんなりしなさい」
冷たいアイスを食べきったばかりなのに、赤くなるアイ。
「それはさ、なんというかその、時期ってものがあるじゃん」
「あんなの、色仕掛けで一発よ。仮にあんたたちの相性が奇跡的に最高だったとしても、時期なんて待ってる必要ないわ」
アイは「ちぇっ」と言って立ち上がった。
「ああ、そうだ。ついでに、アイちゃんちょっと頼まれてくれない? マスターがグランを探してるらしいのよ」
「ふーん、なんで?」
リノはちょっと考えてから言った。
「なんかいいことあったみたい。日頃の感謝を込めてお礼をしたいらしいわ」
奇妙な笑顔を浮かべたリノに対し、アイは首をかしげたが、ちいさく手をあげてリノと別れた。
アイはグランのいそうな場所に向かうことにした。この時間……昼過ぎだと、彼はたいてい「ルーザーズ」で飲んだくれているか、自宅で勉強しているか、ジョセフの本屋あたりでひやかしをしている。
「マスターが探してるってことは、『ルーザーズ』にはいないってことになるなあ」
アイはとりあえずサン・ストリートをめざした。
「あっ、見つけた!」
遠くから声が聞こえてきたと思ったら、アイはすぐに背中を捕まれた。
「お姉さま! こんなところにいたんですね」
「ちょ、ちょっと。離しなよ、セーナ」
セーナは言われた通り、すぐに手を離した。
「突然どうしたの。さっきのクエストは、別のパーティに取られちゃって中止になったはずだろ」
「そうなんですけれど、なんか別のクエストが急遽見つかったらしくて。コリンズさんがさっきのメンバーでやろうって言い出したんです」
「あ、あたしさあ。悪いんだけどちょっと用事があって……」
セーナは指を立てた。
「あっ、あー。いいんですか? 報酬も上がったらしいですよ。貴族をギチートまで護衛するだけで、なんと十五万ゴールドだそうですけれど」
アイは目を見開いた。ギチートは山岳地帯シュージョを越えたすぐ先にある町である。往復しても半日もかからないはずだ。
「そんなおいしいクエスト、よく取れたね」
「ギルドのレスターさんが、その貴族と知り合いらしくて。あとはお姉さまが入れば、クライアントの条件を満たすパーティになります」
ここまで聞いて、行かないわけにはいかなかった。アイはグラン捜索を中止して、すぐにギルドへと向かった。
しかし、その途中に思わぬチャンスが舞い降りた。
「あっ、ジョセフ! いいところに」
「なんだよ」
ジョセフは本を読みながら花壇に腰掛けている。
「グランに会わなかったかい?」
ジョセフはページをめくった。
「いいや」
「あのさ、伝言があるんだよ。マスターが呼んでるんだっって。お祝いかなんかで。何のお祝いかは知らないけどね」
「ふーん。会ったら伝えておくよ」
「頼んだよ!」
アイはクエストへと向かった。
ジョセフは本を閉じた。
「今回の『ボー・ヴォワール騎士団』、めちゃくちゃおもしろいなぁ。売るのがもったいないくらいだ。おっと、思わず熱中しちゃったよ。店に戻らなくっちゃ」
ジョセフが自分の店まで歩いて戻ると、二人の男がドアの前で待っていた。
「あいかわらず、ふざけた店だな。この時間に店を閉じてるのか?」
しかめっ面のリーク・アイデンはドアを無遠慮にノックした。
「ややっ、リークさんにアドルフさん。悪かったね、この時間は読書の時間って決めてるもんでさ。『月刊メリッサ』だよね。今持ってくるから」
「名前を言うな! 早くしてくれ」
リークはきょろきょろと辺りをうかがっている。
「大の男が、そうやって恥ずかしがるのもどうかと思うけどねえ。わざわざこんな辺鄙な店まで通ってくれるのは、ありがたいけど」
「うるさい。そら、金だ」
リークたちは金を渡して背中を向けた。
「あ、そうだ。あんたたち、確かグランと知り合いだったよね」
「……まあな。奴から変なことは聞いてないだろうな」
アドルフが詰め寄った。彼らは、かつて自分たちが敗北したことを言いふらされまいかと恐れているのだった。
ジョセフはしばしの沈黙のあと、肩をすくめた。
「さあね。ところで、あいつに会ったら伝言をお願いしたいんだ」
「なんで俺たちが、そんなこと」
アドルフがまくしたてたが、リークがそれを制した。
「よかろう。だが今日は『メリッサ』の発売日だ。君の方が会う確率が高いんじゃないのか?」
「だと思うでしょ。でもグランのやつ、『メリッサ』にはてんで興味ないんだよね。今日もこの時間に来ないってことは、たぶんどこかでフラフラしてるはずさ。……お祝いで、マスターがグランを呼んでるらしい」
「……どういうことだ?」
「俺だって人づてだから、意味だとかは知らないんだ。とにかく伝えてくれればいいらしいから、頼んだよ」
リークたちは店をあとにした。
「おいリーク、あんな伝言を受けてどうするつもりなんだ? よりにもよってグラン・グレンだぜ」
アドルフが不満げに漏らした。
「ふふっ、アドルフ。意味もなく、こんな伝言を受けるわけがなかろう。奴へ報復するのだ。さっきの伝言を、めちゃくちゃに伝えてやるのさ」
アドルフは膝をたたいた。
「なるほど! そいつはさえてるぜ。さすがはリーク、リスタル魔術学校・準主席!」
「『準』は余計だ……。とにかく、グラン・グレンを見つけるぞ。奴のことだ、どこかしらでトラブルを起こしているに違いない。人が集まるメーンストリートの露店街あたりに行ってみよう」
二人はメーンストリートを目指した。
リークの推理通り、グラン・グレンは露店街にいた。周りには人が集まっている。
「やはりいたぞ。だがいったい、なにをやっているんだ?」
二人は人だかりに入っていった。
「さあさあ、マグン王国は王都マグン! 大魔術師様による大感謝市が始まるよ!」
グランは演技じみたそぶりで周りの人へ言うと、一本の杖を取り出した。
「本日ご紹介するのは、この『ウルトラマジックステッキ』! ……おっ、みなさん『どう見てもその辺で売っている、ただの杖じゃあねえか』って顔してますね。まあ確かに、こいつの見てくれは至って平凡。しかし、能ある鷹は爪を隠す。この杖にはすごい秘密が隠されているんです。では、ごらんあれ」
グランは杖をくるくると振り回した後、どんと地面に突いた。すると、その場から〝魔力〟の輪が現れ、光がもれた。人々はそれを見て、おおとうなる。
「そうなんです。この杖、実は中に魔石が仕込んであって、お手軽に魔法が使えちゃうんだな。今のは『ヒール1』ですが、攻撃、防御、回復、すべてお手のもの。しかも使いたい放題ってんだから驚きさ!」
「でも、魔石つきの杖なんて、高いに決まってる」
ギャラリーの声を聞いて、グランは手をたたいた。
「ですよね。本格的な魔石つきの杖なんて、この辺りで買うとだいたい平均して十万から二十万。最新モデルになると五十万なんてものもある」
グランは握り拳をあげた。
「だが! 今日は特別に一万ゴールドでご提供、って言ったらどう思う?」
「怪しいぞ!」
グランはそんな声に対しても余裕の表情で指をふる。
「実はね……大きな声じゃいえないんだけれど、あれっていわゆる、『ぼったくり』なんだよね。怪しいのはあっち。現にこの杖、五千ゴールドもあれば生産可能なんだ。もちろん、極秘のルートを使っているってのものあるし、この場じゃ証明できない。でも、俺は今からこれを一万ゴールドで売る! この事実こそが、それを実証しているとも言えないかい? ちなみに、限定二十五本だから、早いもの勝ちだよ!」
「確かに! よし魔術師、ひとつもらおうか!」
「まいどーっ! おっと、魔法は後で使ってね。ここで突いちゃ危ないよ!」
グランは杖を次々と売り始めた。
「へえ、なかなか便利そうじゃねえか。ついでにひとつ買ってみるか?」
アドルフがリークを見るが、彼はかぶりをふった。
「……アドルフ、あれは全部ウソだ。魔法が使えるほど精錬した魔石を埋め込んだ杖が、五千ゴールドで作れるはずがない」
「ええっ! でも、さっき魔法を使っているところを見たろ」
「たぶん、だが。地面の煉瓦をはがして、下にスクロールを敷いてるのだ」
アドルフが見てみると、確かに煉瓦が少しだけずれている。
「あの野郎、なんて奴だ」
「いいや、これは見抜けぬ方が悪い。ちょうどこの辺りは〝魔力〟の心得がない人間が集まるブロックだからな、ポイント選びも的確だと言える」
リークは続ける。「だが」
「あんな幼稚なトリックで商売できるほど、ここは甘くない」
「ちょっと君、君!」
人だかりをかきわけて、一人の老人が現れた。グランはそれを見て、一気に青ざめた。
「あっ、じいさん! ど、どうしたの?」
「さっき、君からくれと頼まれた木材なんだが。確かにわしはいいよと言ったが、たった今、ちょっとばかし必要になってね。少し返してくれ」
「あっ、ちょっと! だめだって! 今はだめ!」
老人は杖をいくつか掴み、こんこんと地面に突いて整えた。
「せっかくあげたのに、悪かったね。また、手伝いにおいで」
静寂が訪れた。周りの人間の視線は、グランに集まった。
グランは脂汗をぬぐったあと、大きくわざとらしいせきをした。
「……極秘のルートが知られてしまったので、これにて今日は終了!」
怒号が飛び、人だかりがもみくちゃになったが、そこにグランの姿はなかった。
王都では、こんなことは日常茶飯事だ。ほとんどの人間が料金を払う前だったので、露店街はすぐにいつもの様子に戻った。
「陽炎」を使って路地まで逃げたグランは、舌打ちした。
「ちっ、おしい」
「どこがだ」
グランが声のした方向を向いた瞬間、上方から大量の水が降ってきた。
「あんな小細工が、まかり通るはずなかろう。体よく売ったとしても、騎士団に通報されてお縄だよ。さっきのじいさんに感謝することだ。その、奇妙な『バニッシュ1』だけは、少し関心したがね」
リークは杖をしまった。ずぶぬれになったグランは姿を現した。「陽炎」は火炎魔法なので、水に弱いのだ。
「俺のはそんなダサい名前じゃなくて『陽炎』っていうの。その辺わかる? 久しぶりだね、リーク先生。どったの」
「君に伝言がある。マスターが、君を呼んでいる」
グランはローブを脱いで絞った。
「マスター? 『ルーザーズ・キッチン』の?」
「そうだ」
リークには確証がないが、彼に話を合わせはじめた。アドルフは笑いをこらえた。
「一体君は、彼になにをしたんだ? ……どうも、ものすごく怒っていたぞ」
「あのおっさんはいつも怒ってるよ。度合いによるな」
リークはポーカーフェイスを貫いて黙ったあと、言った。
「はっきり言おう。マジギレだ」
グランはきゅうに真顔になった。
「……マジ?」
「マジだ。そうだな……確か君は、あの店でつけをしていたよな」
これはリークの推論にすぎない。しかし詐欺をしてまでお金を得ようとしていたのだ、お金に困っているという確信はあった。
「うーん……」
グランは目頭をつねった。
「どうやら図星のようだな。ほとぼりが冷めるまでは、あの店に近づかない方がいいんじゃないか? まあ、土下座でもして謝るのなら、許してくれるかもしれないけれどな」
アドルフは後ろを腹をかかえた。リークも自分の考えたすばらしいウソに満足していた。あのグランが土下座などするはずがない。
だがグランは、濡れた髪をローブでぬぐうとにこりと笑った。
「リークさん、それ、ウソだろ」
リークは思わず「えっ!」と叫んだが、すぐに咳払いをして平静を装った。
「そ、そんなことはない」
「絶対にうそだ。あの店のマスターはお人好しだからな、本当に金がない奴なら、タダで食わしてくれるんだよ! それに、リブレやロバートならともかく、あの店の常連でもないあんたから言われても、説得力のかけらもねえ!」
リークは雷に撃たれたようになって、膝をついて倒れ込んだ。アドルフは彼の名を呼んで、それを必死に支える。
「落とし穴の件のしかえしってとこかい? いい加減忘れなって。俺なんかにつきまとってたって、いいことないよ。今みたいにね。さあ、『ルーザーズ』で飯でも食いに行こうかな」
グランは上機嫌にローブを肩にひっかけ、高笑いしながら去っていった。
「ぐぐ……くそお、グランめぇ!」
「リーク、しっかり。残念だが今回はあっちが上手だったみてえだな……。グラン・グレン……大した奴だぜ」
二人は彼の後ろ姿を見送った。
グランはうきうきとした気持ちで「ルーザーズ・キッチン」に入った。
ここに来る途中、ジョセフから伝言を聞いたのだ。
リークたちの伝言は、半分は本当だった。
しかし、その用件は「お祝い」。
何のお祝いか知らないが、祝福されるのは悪くない。
「マスター、来たぜ!」
マスターは無言で、カウンターに突っ伏していた。
「おいおい、真っ暗じゃんかよ。もしかしてサプライズパーティかい? それにしてもお祝いって何のことだい。日頃の感謝とか? いいんだぜマスター。俺だっていろいろあんたに助けられてるんだから。ここはお互いさまってことでさ」
グランはマスターの肩に手をかけた。
「飯、食わしてくれよ。それだけでい」
グランが言い終わる前に、マスターの強烈な叫び声とともにガラスの割れる音がサン・ストリートじゅうに響きわたった。
リブレは、キーバライの森の入り口でたたずんでいた。
「くっそー、まさか霧だなんて。本当は行くべきなんだろうけど、行き違いになっても困るしな。ここで待ってりゃ出てくるだろう。早く来いよ、グラン。マジでやばいんだぞ……ああもう、なんでこんな思いしなきゃならないんだよ」
リブレは空をあおいだ。