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行列で

 王都マグンは、南ゲートから少し行ったサン・ストリート。

 ある一角に、行列ができている。グランとリブレは、その中にいた。

「そういえばグラン、俺思い出したんだけど」

「何をさ」

「この前、カードでいかさました時のお金、まだ返してもらってないよな」

 グランはわざとらしく笑った。

「何、言ってんの? 返すもくそも、真剣勝負で得たお金なんですけど」

「いかさましたんだから返せよ」

「バカ言え。あれはリノのやつがいなかったら、見破られなかったんだ。お前はわからなかったんだから、正当な賞金だよ」

 リブレは唸った。

「悔しいが、確かに一理あるな。よし、それなら今度またやろう。その代わり、俺がいかさまを見破ったらその時点でグランの負けね」

「面白い。戻ったらやろうか」


 その時、会話に熱中していた二人は、列が少し開いたことに気がつかなかった。それをいいことに、ある二人組が前に割り入った。


「おい、ちょっと待てよ。お前ら、いま横入りしただろう」

 すぐに気がついたグランが声をあげた。

 二人が振り返った。

「おいリーク、聞いたか?」

 いかつい甲冑をつけた男が言った。

「聞いたよアドルフ。全く、言いがかりもいいところだ」

 リークと呼ばれた、茶色いローブをまとった男が肩をすくめる。

「言いがかりなんかじゃねえ。さっきまでお前らなんかいなかっただろうが」

 グランが言うが、アドルフと呼ばれた剣士は首を振ってならし、拳を固めた。

「これ以上いちゃもん付けるなら、ただじゃおかねえぜ。そういえばナイトに上がってから、人間相手のけんかを一度もしてなかったなぁ。よぉリーク、お前もメイジになってからそうなんじゃねえか」

「そういえばそうだな。アドルフ、やりすぎないで。私の分もとっておいてくれ」

 ナイトはソードマンの、そしてメイジはマジシャンの上位クラスである。グランたちはたじろいだ。おそらくかなりのやり手なのだ。

「よぉ、てめえら。やるのかやらねえのか決めろよ」

 アドルフがすごむと、リブレは笑顔になった。

「そっ、そんなことしませんよぉ」

「おいリブレ、何ビビってんだよ! こんな奴ら、大したことねぇって」

「少なくとも君よりは上だよ。その顔、覚えているぞ。リスタルの魔法学校でいつも落第していた奴だ」

 それを聞くとグランは眉間に皺を寄せた。

「あんたリスタルの出身かい。なら俺にも、ぶっとばす理由ができたぜ。気にいらねえんだよ!」

 

 グランはようやく目をさました。

「いてぇ……ここは、路地裏か」

「手ひどくやられたな」

 そういうリブレも、グランほどではないにせよ、所々に傷を作っている。

「くそったれ、思い切り殴りやがって。こっちは手を抜いてやったっていうのに」

 グランは唾を吐いた。血で濁っている。

「それとお前! どうして戦わないでやられてばかりいたんだよ」

 指さされたリブレは、うつむいた。

「悪かったよ……だってあいつら、ナイトだの、メイジだの……きっと上位ギルドの奴らだ。勝てるわけなかったんだ」

 グランはリブレの胸ぐらをつかんだ。

「質問を変えよう。悔しくなかったのか」

「悔しいに決まってる。でも、あいつら、下手なモンスターより強いだろ。勝負を挑んだのが間違いだったんだよ」

 グランはリブレを殴り付けた。

「確かにそうだよ。本当のところ、俺だってあいつらに勝てるとは思っちゃいなかった」

 リブレは口をぬぐった。グランはさらに問いつめるように怒鳴った。

「でも、わかってんだろ! どうしても負けるわけには行かなかったんだ!」

 リブレはそれを聞くと手をついて、悔しさを地面へぶつけた。

「その通りだ……すまなかった、本当にすまなかった、グラン!」

 グランはそっと、その肩に腕を組んだ。

「一週間だ。一週間でリベンジする」

「ああ」


 アドルフとリークは、サン・ストリートの行列に並んでいた。熱心に会話していた二人は、列が少し開いたことに気がつかなかった。それをいいことに、ある二人組が前に割り入った。


「おい、きさまら。今横入りしたろう」

 すぐに気づいたアドルフが怒鳴りつけると、二人は振り返った。

「おいグラン、聞いたかい!?」

「ああ、聞いた聞いた。とんだ言いがかりだね」

 リブレとグランはにやにや笑いながら、二人に言った。

「誰かと思えば、先週ぶちのめした奴らじゃねえか。なんだ、またやられに来たのか」

 リブレが前に出た。

「先週と同じかどうか、試してみるんだな」

「よし、いいだろう」

「では」

 アドルフが殴りかかろうとした瞬間、グランは指をはじいた。すると、四人はものすごい勢いで空へと舞い上がった。


 彼らは門の外、草原に着地した。

「『リターン』か。どういうつもりだい」

 リークは立ち上がって言った。

「場所を変えさせてもらったのさ。ここなら魔法も武器も使いたい放題だからね。まあ人殺しにはなりたくないから、ほどほどにしてあげるよ」

「なめるなよ、小僧! 俺たちにとっても好都合ってもんだぜ!」

 アドルフが大声をあげてショート・ソードを抜いた。

 グランたちがにやりとするのを見て、リークは眉をひそめる。

「待つんだ、アドルフ」

 今まさに駆けていこうとしていたアドルフは、足を止めた。

「なんだよ」

「考えてもみなさい。この二人は私たちよりも圧倒的に格下なことは確かなはず。それなのに勝負を、それも場所を変えて挑んで来たのだ。何かもくろんでいるに違いない。例えば落とし穴が掘ってあるとかね。見ろ、ところどころ土の色が違う」

「ギクッ」

 リブレは声に出して言った。

「なるほどな。リークの冷静な判断にはいつも助けられるぜ」

「このあたりで戦うのはやめよう。少し場所を移す」

 リークは色の違う土のないところまで移動した。

 グランは〝魔力〟を練り出した。

「ちっ、落とし穴作戦は失敗か。リブレ、正攻法で行くぞ!」

「ああ!」

 リブレはショート・ソードを抜いて、果敢に走ってはいかず、かんしゃく玉を投げつけた。すぐさま煙があたりを包む。

「ぶわっ! てめぇら、それでも男か!」

「今、煙をはらす!」

 リークが杖を掲げ、あたりに風を起こした。煙が晴れると、グランがもうすぐ近くまで近づいて来ている。

「私に魔法で勝てると思うのか!」

「思ってねーよ、バーカ!」

 グランは手を掲げ、強烈な光を起こした。

「そんな子供だましが通用するか!」

 リークは大して動じずに〝魔力〟を練って光を遮断した。

「やるな。だったらこれはどうだ。『剛炎』!」

 グランは炎の帯を発射した。

「ふっ、なんて遅い魔法だ。こんなの相殺するまでもない!」

 リークは横へと飛んだ。

 すると、着地した地面ががぽこりと穴をあけ、彼はそこに落ちた。グランは待ってましたと言わんばかりに〝魔力〟の塊をその中へ向けた。

「ひゃははは! ざまあねえな。疑り深いリーク・アイデンくん」

「ひきょうだぞ!」

「どこが。あんたの性格を探らせてもらって作戦を立てたんだ。完全勝利でしょ」

「なぜ、私がここに移動するとわかった!」

 グランは片手で〝魔力〟をちらつかせながら、スコップで器用に土を入れ始めた。

「わかってねーよ。この辺二百メートル四方くらい、穴空けまくっといただけだから」

「バカか、お前ら!」

「ああそうさ」

 グランは首まで彼を埋めると、はさみを取り出した。


 アドルフはリブレと対峙した。

「お前、前回ビビって震えてたよなぁ。大丈夫か」

「だいじょぶだよ」

 リブレはふらふらしている。

「……おい、なんかフラついてるぞ」

「早くかかって来いよ」

「後悔すんなよ!」

 アドルフは剣をふるったが、リブレは器用に避けて見せた。

「な、なにすんだよ!」

「ちっ、人間相手だからちょっと固くなったらしいな。今度は思いきり行くぞ!」

 アドルフは大声をあげて斬りかかったが、またかわした。

「あ、あぶねーな!」

「よ、よけただと……! それにしてもお前、さっきからなんか言動がおかしいぞ。本当に大丈夫か」

「う、うるさい。今度はこっちから行くぞ!」

 今度はリブレが剣を構えて突進した。が、途中でふらつき、ずっこけてしまった。アドルフはにやりとした。

「わかったぞ。お前、酒を飲んでるな。気を大きくするためってとこか。考えは悪くないが、そんな泥酔状態で、俺に勝てるとでも思ってたのかよ?」

 アドルフは笑いながら少し移動し、さっきの穴だらけの地帯へと戻った。

 こんなバカ、俺の剣じゃもったいねえ。自分で空けた穴に落ちるのがお似合いだぜ。

「さあ、来いよ! お前の力を見せてみろ!」

「よーし、行くぞ!」

 ふらふらのリブレはこの挑発を受け、走り出した。すぐ前に、土を掘り返した形跡のある部分がある。アドルフはにやついた。

 だが、リブレはそこを踏みしめて、剣をふるった。

「なにっ」

 一撃を入れられたアドルフは、バランスを崩した。リブレは彼を思い切り突き飛ばし、別の落とし穴に落とした。

「くそっ、油断した! さっきの落とし穴はブラフか。そしてあの動き……お前、酔ってたってのは嘘だったんだな」

 リブレは剣をちらつかせながら、足で穴を埋め立て始めた。

「酔ってるのはホントさ。泥酔じゃなくてホロ酔いだけどね。じゃないとあんたみたいな怖い人と戦えるはずないもの」

「だが、お前は俺の剣をかわした……。あれはどう説明をつける。並のモンスターなら一刀両断だ」

 リブレは笑った。

「恐ろしすぎて、本能が反射レベルで動いたんだよ。危機を感じると力が出るって言うでしょ。実はちょっとちびってます」

「バカか、お前」

「それが何か」

 リブレは首もとまでアドルフを埋めると、はさみを取り出した。


「あーはっはっは! ハゲ生首が二人! まぶしいからこっち向けんなよ! これ平原通った奴がみたらどう思うかな! モンスター図鑑の新しいページが増えるかもよ! 勇者ルイスもびっくりだ!」

 グランは髪を失った二人を見て大爆笑した。

「くそっ、こんなことしてただですむと思うなよ!」

 アドルフがものすごい形相で騒いだが、グランはひるまない。

「おまえら、俺はともかくこのリブレさんに負けたなんて言ってみろ。町中の笑いものだぜ。たぶんギルドの信頼も地に落ちるよ。ただじゃすまないのはあんたらのほうさ」

「……グラン、もう戻ろうぜ。『リターン』やってくれたリノにもお礼しなきゃ」

 リブレはつっこまなかった。ちょっと顔色が悪い。酔いが醒めてしまったようだ。

「こ、このまま放置していく気か!」

 リークはうろたえた。

「安心しなよ優等生。今からかわいい年増少女が来て、君たちを掘り起こしてくれるから。ちゃんと機嫌とれよ、じゃないとどんどん料金がつり上がるからね。そうだな、こぶりな乳でも誉めとくといいぞ。本人の一番の誇りだから」


 さわぐ二人をよそに、グランとリブレは王都の門をくぐった。


「やったな。俺たちもやればできるってとこか」

「おいおい。『たち』ってのはやめてくれ。リブレさんは俺の作った作戦通りに動いただけじゃん。つーか酒飲んだだけじゃん」

「落とし穴のブラフは俺が考えたんだ!」

「ただ間違えて埋めただけじゃねーか。このグラン様がそのミスを逆転の発想でだな……」

「……もういいよ。でも、あのままでよかったのかなぁ。リノがあの恐ろしい笑みを浮かべて二人を小突く姿が目に見えるようだよ」

「あいつらは俺たちを本気で怒らせたんだ。仕方ないよ。さあ気を取り直して、並びなおすぞ!」


 二人は道具屋の行列に向かった。

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