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露店商と女冒険者

 ナンジャムの街を南北に抜ける通りは、露店と人で溢れていた。

 行き交う人の半数は地元の者で残りは旅人。

 近郊に古代遺跡が点在するこの街は「遺跡の街」と呼ばれて吟遊詩人の歌にも度々登場し、また街道の宿場町としてもそこそこ知られていた。

 この街で足を止める旅人は、遺跡から出た遺物土産を求め、そういったものを扱う露店が多くひしめいている。


 街道に接する南門あたりの宿屋が集まる地区から最も離れた北端近くに、ニアの露店はあった。

 このあたりになると地元民の姿ばかり目立ち、好奇心の強い旅人がちらほらいる程度。

 その為、このあたりに出ている露店は、生活用品や生鮮食糧品を扱ってるものばかりだ。

 露店のほとんどが木枠を組んで布を張った店構えか、運んできた荷車をそのまま陳列棚にしている。

 そんな中でニアの店は棒っきれを一本支柱に立て、上に生成りの布をかけただけの簡素なものだった。

 ただ、棒のてっぺんに色糸を編んで小さな赤い色石の瞳が嵌め込まれたイエル鳥の人形がかけてあるのが唯一の装飾で人目を引いていた。

 黄色の羽に赤い瞳のイエル鳥は商売の神ニニが使役し、幸運を運んできてくれるという。


 今日もニアは、畑で捕れたばかりの野菜や果物を売るジーナおばさんと古本屋のパブルじいさんの間で、遺物を並べ売っていた。


「へえ、こんな所に出してる店も、なかなかいいものを置いてるじゃないか」


「おや、兄さん、見る目あるね。これは遺跡から最近掘り出した、まさに掘り出し物ばっかりさ。そこの黒い布の上にある古代コインは全部500カロでお買い得だよ」


 宿屋に荷物を預け散策してるのだろう、旅装のままだが手ぶらの男がニアの前で足を止めた。

 ニアは控えの商品を磨いていた手をとめ、愛想よく商品を説明する。


「こっちの青い布の上にある色石は2,500カロから。それから後に並んでる石の像はそれぞれの値札をみてくれ」


「どの色石も濁りが少なくて良品だな。宿のあたりにある店は、ここまでのものだとどこも5千カロ以上はとってたぞ」


「うちは良い品を良心的に売るのがモットーなんで。というか、あっちは所場代が高いのでなかなか安く出来ないんだよ。こっちはこっちで悩みもあるけどね」


「なるほど、確かにこっちまで足を運ぶ旅人は少なそうだな。お、この空色の色石が綺麗だ。まるで夏の空みたいな色」


「それは大きめだから4,000カロだよ」


「そこのコインも買うからもうちょっと負けてくれないか」


「兄さんがさっき安いって言ってくれたけど、うちは値引けるような値はつけてないんだよね。分かってくれよ。合わせて4,400カロで」


「そこをもう一声頼むよ。4,200カロ」


「それより、200カロ足せば、今ここでペンダントにも出来るよ。こんなかんじで4,500カロ。これ以上は負けられないよ」


 ニアは、自分の首から下げている、革ひものついた赤い色石のペンダントを見せる。


「へえ、いいじゃないか。じゃあそれで頼む」


「まいど。じゃあ少し待っていてくれ。これは彼女か奥さんへの土産?」


「ああ。故郷で待ってる婚約者殿にね」


「なるほど、じゃあ贈り物用にサービスで袋をつけるよ」


 ニアは男に話しかけながら傍らにあった工具箱を開き、中から取り出した針金を器用に色石に絡め、革ひもをとりつける。

 完成したペンダントを手のひらサイズの明るい紅色の布袋に入れ、古代コインと合わせて手渡した。

 それと交換で男はニアの手に1,000カロの紙幣を5枚乗せる。

 ニアが釣りを渡そうとした時、男はマントのフードの中から彼を見上げたニアの顔を見て驚いた。


「なんだ、坊主かと思ってたら嬢ちゃんじゃないか。しかもなかなかべっぴんの。顔を出せばもっと客もつくだろうに」


 男が手を伸ばしてフードを払いのけようとし、ニアは軽く後に身体を引いて逃げた。


「おっと、嫌だったか。すまん」


「悪いけどそれは勘弁して。女が一人露店やってると面倒も多いんだ。だから、ね」


 ニアはおどけた調子で人差し指を口元にあて、新緑の色石をはめ込んだような瞳を煌めかせた。


「なるほど、まだ子どもなのに色々大変だな。頑張れよ」


「子どもじゃないよ、もう14だ。兄さんも道中ご無事で。旅の神ラインのご加護がありますように」



 結局その日は、色石3つとコインが2つ売れた所でニアは店を閉じた。

 笑顔が溢れるような儲けじゃないが、落ち込むほど悪くはない日だったと、ニアは懐の財布の中身の金額を頭の中で計算した。

 ナンジャムの街は、街道沿いの街の中では治安がいいほうだ。だけどそれなりに無頼者や旅の犯罪者、スリや泥棒で日銭を稼ぐ子どももいる。

 こんな所で財布を取り出して金勘定をするなんて、奪ってくださいと言うようなものだと、旅人が財布を出し残金を数えているのを横目にニアは思った。


 ニアは商品や道具をまとめて屋根布でくるむと支柱の棒の先に結び、その棒を肩に担いだ。

 隣のジーナおばさんに挨拶すると、いつものようにくずの葉野菜と売れ残りの果物が入った袋をくれ、棒の反対側にひっかける。

 足早に家路につく人を避けながら通りを進み、街壁の北門を抜けると、近くの森の入り口にある集落に向かって歩き始める。

 もう夕食時で、街の住宅地や集落の屋根の上には炊事の煙がたちのぼっていた。

 幸い今は夏期なので日が沈んだ後もまだしばらくは灯りもが無くても困らない。

 街はずれの方に向かって慣れた道を歩き出したニアは、酸味の強いクワサの果実をかじり思い切り顔をしかめた。

 その時、足が柔らかい塊を踏んだのを感じ、あわてて後に飛び退る。

 そこには、黒い物体が長々と横たわっていた。


「にゃひゃ! びっくりした、なんだこれ」


 思わず声をあげてしまったニアは、側に落ちていた枝で道に横たわる黒いそれをつつく。

 そしてそれが生き物で人間の女だということが分かると、あわてて駆け寄った。

 夜は冷えるとはいえ、この季節に黒髪に黒いマントと黒いブーツと黒色に包まれた姿は見た目からして暑苦しい、と藁色のマントをはおりフードを深く被っているニアは思う。

 声をかけ揺すってみるが反応はない。

 息はあるので生きているし怪我をしてる様子もなく、ただ気を失ってるようだ。

 男なら投げ捨てておく所だが女をそのままにしておくこともできず、ニアは食べかけの果実を懐にしまうと、空いてる肩に自分よりも大柄な彼女を軽々と担ぎ上げる。

 そしてひとつため息をつくと、先程と変わらないペースで再び歩き出した。

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