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春と運ばれてきたアレ

作者: 川霧凪咲
掲載日:2012/05/27

下書きなど一切なしなので読みにくかったら申し訳ないです

春。

そうまたこの季節がやってきた

僕はこの春という季節が大嫌いだ。

花?新芽?さくらが綺麗?

ふざけたことを言うんじゃない

僕が草花たちにどれだけ迷惑を被っていると思うのだ



そう、僕は花粉症なのである



「ふぁあ・・・。さてもう寝るか」

時刻は夜の2時。

僕だって高校生だ、夜更かしくらいする。(もちろん全ての時間を勉強に費やしていたわけではない)

さすがにそろそろ眠くなったのでベッドに横になる

ふかふかの布団が包み込んでくれている感覚がとても心地よい

僕のベッドの左上には小窓がある。今日は少し暖かいので窓を開けていた

今日は自分の体調より春風にあたりたい気分だったのだ

「ちょっとだけ・・・。」

そう言いながら布団に入ると、まあ予想できる通り寝てしまうんだよな無意識に。

心地よい春風と木々のざわめき、そして暗い部屋に気持ちの良い布団

ここまで条件がそろえば数学の証明よりも簡単に「眠る」という結論が導き出される


そうして僕が深い眠りに入ろうとしていた時だ

外から音がするのだ

いや。違う、これは・・・声だ

人間の声?だれだ?

誰かが僕を呼んでいるのだ

物事の核に引きつけられるかのように、僕は確実にその声に引きつけられた

「誰だ?」

驚く事に僕の声はかすれて震えていた

怖いのか、それとも嬉しいのか

その人間であるのかすらわからないものに僕は話しかけた

「・・ん・・・て」

「?」

僕にはそれが何を言っているか聞き取れなかった

いや、聞かなかったのか

だがその声はそんな僕の様子を怒っているかのように、急かしてくる

「タナベさん・・・の・・んに来て」

たなべさん?誰のことだかわからない

確かに僕の名前は渡辺ではある。一文字違いというやつだ

「悪いけど人違いじゃないのかな?僕はたなべという人間は知らないよ」

「タナベさん・・・あなた・・おおす・の公え・・・て」

おおすのこうえ?

確かさっきの言葉と組みあわせると・・・おおすのこうえんに来て?

おおすのこうえんってどこだ?

「ねえ悪いけど僕にはタナベさんもわからないし、おおすのこうえんっていう場所もわからないよ」

そうは言ってみるもののそもそもこれは何なのだ

誰が、何が僕を呼んでいるというのだ

だがそれに答えるものはどこにも居なかった



ふと気がつくと朝になっていた

「はくしゅんっ!」

妙にかわいらしい声でくしゃみをしてしまったものだ

そして妙に鼻がぐすぐすする。不快だ。

昨日の事は夢?

一体どんな記憶の整理においてあんな夢を見るのだ

だが僕にはそれが到底夢だとは思えなかった

なぜかと聞かれても困るが、わかってしまうのだから仕方がない

「あ・・窓あけっぱなしだったのか・・・どうりで」

今日は一日中このむずむず感とくしゃみに悩ませられるのか

そう思うと憂鬱だ

階段の下から僕の名前をよぶ母親の声が聞こえる

朝食を食べに行く時に薬を持って行かなければ

「今行く」

そう告げてアレルギーの薬を持ち階段を降りる

朝6時50分

まあちょうどいい時間ではある

朝食を食べている途中ふと思い出したのは昨夜の事

「あのさ、おおすこうえんって知ってる?それか田辺さんとか」

「え?」

僕の突然の問いに母は顔をしかめる

そんなものは知らない、そう顔が物語っていた

「そうだよね、知らなくて当然だごめん」

ちょうど食べ終わったし早く服を着替えなければ

そう思い席を立ちあがろうとした時

「ああ、おおす公園じゃなくてそれ大杉公園じゃない?」

「大杉公園?」

そんな公園も知らないのだが・・・と思った時

思いだした

そうだ

なんで忘れていたんだろう

「そうよ、引っ越す前であなたの花粉症が今ほど発症して無かった時、よく行ってたじゃない。まあ他の子たちはあんな場所には行かなかったし公園なんかじゃなくて大杉のある原っぱだったけどね」

そうだ、僕はここに引っ越してくる前に本当に小さな頃だけどあの場所「大杉公園」に行っていたのだ

他の子たちが大きな遊具のある公園に遊びに行っているのに僕だけは行かなかった

僕だけは反対側へ向かう道を歩いた

「おおすぎさんっ!こんにちわっまたきちゃったよ」

そんな事を言いながら

原っぱで夕方まで遊び・・・あれ?いや違う・・・一人で何をしていたのだ

僕は一人ではなく・・・・


「よし!ほらこれでもう痛くないよっ」

小さな男の子が折れた花を持って何かをやっている

そこへ碧眼で長い黒髪の少女が現れる

「何をしているの?」

「えっとねーおはなさんがおれてたからはんかちでとめてあげたの」

「あら・・ふふふっ小さな小さな紳士さんね。」

くすりと笑う少女。

「しんしさん?」

「そうよ、小さな小さな紳士さん。貴方の名前はなぁに?」

「ぼく?えーっと・・・えーっと」

「ふふっ、まあいいわ。後で教えてちょうだい。」

小さな男の子は名前を思い出せない

彼はまだ言葉を多く知らないのだ

立ち去ろうと少女は後ろを向く

「まって!」

「なぁに?」

「ぼくのなみゃ・・なまえ。ぼくはたにゃべしゃん」

「たにゃべ?」

「たなべさんっ」

小さな男の子は今朝の母親と隣人の会話で隣人が母にそう言ってたような気がしていた

「そう・・・タナベというの」

「おねーさんはっ?」

にこりと笑う少女に小さな男の子は問いかける

「私は・・・そうね、オオスギさんよ」

「おおすぎ?」



全て、繋がった

思いだした

行かなければ。すぐに

オオスギさんに逢いに行かなければ・・・!

「ありがと母さん、僕着替えてくる」

「ねえ、急にどうしたの?」

母親が明らかに不審そうな視線を送ってくる

「別に。どうもしないよ」

そう言って久しぶりの笑顔を見せ僕は席を立った




僕の学校は私服制なのだが、今日はなんとなく制服らしいような服を選んだ

ワイシャツに薄いセーター、それとネクタイ。ピシッとしたズボン

それも彼女の為だった

そう、オオスギさんの。


僕は学校が終わるとすぐに駅へ向かい、隣町へ行く電車に乗った


懐かしい道

懐かしい街並み


そして・・・

「あ、やっときた」

「お久しぶりですオオスギさん」

にこやかに笑う彼女がいた

「すっかり大きくなっちゃったね」

「貴女もここも変わりませんね」

こちらも負けじとにこやかに返す

春風が心地よい

草がさあっと音を立てる

「私の子供たちが貴方を呼びに行ってくれたのだけど」

「ええ、会いましたよ昨晩。おかげで鼻はぐすぐすです」

そう言うと彼女はふふふっと笑った

ちなみに今日はマスクなどはしていない

眼鏡はいつもかけているが普通のものだ

何にせよ彼女の大切なものを拒絶したくはなかったのだ

「それにしても相変わらず綺麗ですね」

「あら、それはオオスギの事?それともそこの大杉の事かしら?」

いじわるそうに彼女が言う

「どちらもですよ」

「嬉しいわね、ありがとう」

嫌味のような言い方ではなく本心から言ったようだった

「それにしても・・・今日はどちらの方の約束ですか?」

「んーどっちでしょうね」

ここでも笑顔を絶やさない

本当に春の陽気のようなヒトだ

「それにしてもタナベさんは本当に大きくなったのね」

「あれから10年以上もたってますからね」

「そうね、懐かしいのかしら?」

あれから10年以上。

しかし目の前に居る彼女は当時のまま

「やっと追い付けました。」

「ええ、そうね。素敵よ?紳士さん」

「・・・・・。僕との約束ではないのですね」

「ええ、違うわね」

僕と彼女は、僕がこの街を離れる直前に約束をした

僕からの約束と彼女の約束は


「おおきくなってすてきなおうじさまになって、おおすぎおねーさんをこいびとにするのっ!そうなれたらきっとこいびとになってねっ?」

「あら、じゃあその約束に私からの約束もさせてくれるかしら?」

「なぁーに?」

「私が先にこの街を離れてしまうことがあったら、必ず会いに来てね?」



そんな約束。

ということは彼女は・・・・

今この街から消えようとしているのだ

「それはオオスギさんという存在が消えるのですか?それとも・・・」

「後者よ?」

こんな時でも笑顔を絶やさない

「あの木・・・」

「そう、そろそろ寿命というものでもあるし、そうなると近々切られてしまうらしいの」

今度は悲しそうな笑顔だ

「そう・・・ですか・・。」

「そんな顔しないで?」

そう言うと彼女は僕の両手を取り、自分に引きよせた

「あなたの苦手とする私の子供たちだってたくさん旅立ったし・・・いつかまた会えるわよ」

「はい・・・」

「弱っていたひとりぼっちの寂しがり屋の大木と仲良くしてくれてありがとう」

「はい・・・」

僕がいまにも泣きそうだというのは自覚済みだったので彼女にもバレているのだろう

彼女はすこしの間無言になり困ったようにこう言った

「本当は言うつもりなかったんだけど・・・貴方との約束もまもりたいのよ?貴方にその気がまだあって、私に時間があるのなら・・・ね」

バッと顔をあげた僕に

「さようなら」

彼女の柔らかい唇が触れた

そしてぎゅうっと抱き寄せられ、頭をポンと叩かれた感覚があり

思考が回復したあたりではもう、彼女の姿はどこにもなかった


「オオスギさん・・・僕の名前は・・タナベじゃなく渡辺です」


その声は春風の音と草のざわめきに掻き消され・・・・



「そうか、渡辺くん。覚えたよ。本当にありがとう大好きだ」





そんな声が風に乗って聞こえたかと思うと、僕の目の前には

弱り切った大木があった


「僕もですよ・・・オオスギさん」


木の表面を撫でる

それは彼女とおなじ優しさを持つ木だった


目がかすむ

涙でよく見えない

相変わらず鼻はぐずぐずだし

本当に残念である


「ああ、だから春って嫌いなんだよ・・・」




僕の春は終わりを告げた










読んでいただきありがとうございました。

意味が伝わっていると嬉しいですw


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