信頼と愛情
また、ある夜の長電話では、こんな話もしました。
「俺の過去を考えれば、信頼できないと思う。信頼しなくて良いから好きになって欲しい。俺は則子のこと、もうほとんど好きっていうか、愛していると思う」
そんな愛の告白(?)に対する則子さんの答えは、『信頼しているけど、会ってないから好きとは言えない』でした。それでやり取りは終わるんですが、また暫らくすると同じことを言う徹さん。何度か繰り返すうち、2人の間で感覚のズレがあることに気がつきました。
則子さんが人と付き合うのは、『信頼できるか否か?』が基準になります。家族でも友達でも信頼できない相手に悩みを打ち明けたり、頼りにすることはしません。恋人、まして結婚するかもしれない相手であれば、『信頼』は必要最低限で、その上で、恋愛感情が加わります。
まあ、本当のところ、則子さんも恋に落ちていたのですが、そのまま告白するのも気恥ずかしかったし、『信頼している』と言う則子さんに対して、『信頼できなくても仕方ない』と、自虐的に言う徹さんの言葉が気になりました。
則子さんとしては、最低基準の『信頼』はクリアして、あとは好きになるだけ、つまり好きになる一歩手前という意味だったのですが、徹さんは違った意味に解釈したようです。女の敵だった徹さんにとっては、『好き』という基準が『信頼』より低かったのです。
当然といえば当然で、同時に複数の女性と付き合うのは、相手を騙しているのですから信頼は成立しません。徹さんの場合、好きになった後で、信頼するという考え方だったのです。その違いに気付いた則子さんは、先ず信頼ありきなのだと自分の気持ちを打ち明けたのでした。話を聞き終えた徹さんは、しばらく無言でしたが、ようやく口を開きました。
「もし俺が浮気したら、どうする?別れる?」
「別れるかどうかは、その時の状況次第だけど、信頼は損なわれるから悲しくなるかな」
「じゃあ何%信頼が損なわれたら嫌いになる?」
「信頼は、『する』か『しない』か、それしかないよ。1%でも信頼できなくなったら、何が信頼できて何が信頼できないか、私には分からないもん。嫌いになるかどうかは分からないけれど、信頼は出来なくなるとしか言えない」
「そっか」
「そうだよ」
その話は、それっきりになりましたが、何かが徹さんの中でも変わったようでした。
そんなこんなで、いよいよ初デートです。月曜日の夜、仕事の後で会い、火曜日にデートという段取りにしました。待ち合わせ場所は、則子さんが働いている会社がある池袋駅。仕事が終わった夜9時過ぎ、徹さんが車で迎えに来るという話でしたが、時間になっても現れません。
携帯へ電話すると、横浜から中野へ出た後、池袋への行き方が分からず、しかも、道路地図を持っていないとのこと。則子さんに道順を聞いてくるのですが、則子さんは車の運転をしないので断片的にしか分かりません。結局、中野から新宿駅へ出てもらい、則子さんは電車に乗って新宿駅へと向かいました。
待ち合わせ場所で則子さんがキョロキョロしていると、「則子」と後ろから声をかけられました。
徹さんでした。
ここだけの話、徹さんの姿を見た則子さんは、ちょっとひいちゃいました。だって、全身、緑色でコーディネイトしていたんです。緑色のジャケット、緑色のシャツ、緑色のズボン、靴も靴下も、ぜ~んぶ緑!後で知ったのですが、緑色は徹さんの好きな色だそうです。だから、全身緑色だったのは徹さんなりの勝負服だったのかもしれません。
あ、悪趣味だったのは、その時だけで、今は普通の服を着ています。(笑)
もっとも、則子さんも、なんでだか、前日の夜からココナッツパンを焼いて、竹の皮に包んだ中華ちまきなんかも作っちゃったもんだから、案の定、時間がなくなり、ジーンズにTシャツ、セーターとハーフコートという、凡そ勝負服とは程遠い格好でした。
ある意味、いい勝負の2人です。
初対面を済ませた後は徹さんの助手席に乗って、横浜へドライブに出発!徹さんの好きなラーメン屋へ連れて行ってもらい、その後、夜景を楽しみました。そして、その夜は近くのラブホでお泊りです。ラブホテルで何があったかは、次回のお楽しみです。あ、18禁ではありませんので、悪しからず。




