閉店
徹さんのクリーニング店には規約があります。オーナー店が営業を辞める際は、半年前に告げること。半年を切った場合、15万円の違約金を支払うとありました。
徹さんは、2012年3月に辞めようと思っていたので、9月末に辞める旨を通告しました。最初は驚かれましたが、最後には、仕方ないと受け入れてもらったのです。
てっきり一波乱あると思っていた徹さんは拍子抜けしていましたが、敵もさるものでした。なんと、11月になってから、辞めるなんて聞いていない、辞めるには書類で提出しなければならないと言い出したのです。
つまり、11月から数えるので4月まで続けないと規約違反になると言うのです。
通常、クリーニング店の繁忙期は4月です。繁忙期を前に徹さんに辞められては売り上げが落ちますから、繁忙期を働かせてから辞めさせたいと言うのが会社の思惑のようだったのですが、それにしては、あまりにもやり方がひどいようです。
とうとう徹さんはブチ切れてしまい、違約金を払っても良いから3月に辞めると啖呵を切ってしまったのです。
「15万くらい、叩きつけてやる!」
威勢よかった徹さんですが、しばらくすると青ざめて返ってきました。
「15万円の違約金は売り上げのない店のことだった。よく読んだら、売り上げのある店は、年間売り上げの60%を違約金として取られるんだ」
「徹さんの店は二千万でしょ?……ええ~?!1,200万円?!」
どう頑張っても、そんな大金は持っていません。どうするの?と則子さんが尋ねました。
「最悪、俺が自己破産するから良い。それより、会社のヤツラ、則子も店を手伝ってたんだから支払い義務があるとか言い出すんだ!則子は無給で働いていたのに、冗談じゃねえっての!」
「どうすんの、それで?!」
「幸い、則子の自宅とか勤務先は知られてないだろ。店を畳んだら分かれるから則子は関係ないって言ってある。だから、則子も平日は店に来るな。あと、個人情報は絶対に教えるなよ」
「う、うん」
規約をよく読んでいなかったのは、徹さんの責任ですが、それにしても悲しくなってしまう則子さんでした。徹さんは、3年間、努力して売り上げを伸ばしたのに、会社もそれで美味しい想いをしてきたのに、その結果が莫大な違約金だなんて。
もう少し会社が徹さんの言葉に耳を傾けてくれたら、こんな結末にはならなかっただろうし、徹さんはもっと努力して会社の売り上げに貢献したでしょう。もっといい結果が得られたでしょう。
業績が伸びる会社と、伸びない会社と言うのは、こんな些細なところで現れるものだと学んだ則子さんと徹さんでした。




