震災
2011年3月11日。震災の日、則子さんも徹さんも仕事をしていました。幸い、家族もみんな無事でしたが、帰宅後、テレビを見ると東北の凄惨な光景が広がっていました。
則子さんと徹さんは、2010年の夏、2泊3日で東北旅行をしたのです。石巻や松島など、2人で訪れたところが津波で流され、まるで違う場所の光景を見ているようでした。
その後、則子さんは震災の関係で休日返上で仕事し、徹さんは節電対策で営業時間を短縮して、看板の電気も消しました。
当時は、町中が看板を消したり、早仕舞いをするなど節電態勢でした。
「いっそのこと、みんな営業時間を短くしたり、看板の電気なんか消せばいいのにね」
東京では、一晩中、営業している店や、閉店後も宣伝と防犯の関係から、煌々と電気を点している店舗が多くあります。正に眠らない街で、規模からいっても世界一二の大都会と言えるでしょう。
その分、夜更かしして不健康な生活を送る子供たちがいることに、かねてから問題視していた則子さんは、ぷりぷりと文句を言いました。
「だが、営業時間が短くなると、仕事を失う人も出てくるだろうし、街が暗いと犯罪も多くなるから。そう易々とは出来ないだろうな」
「それはそうだけどさ~。せめて観光目的のライトアップは止めるべきだよ」
「ライトアップを目当てに来る客もいるしな」
「むう!」
則子さんと徹さんの間で、何度となく繰り返される会話。そして、スーパーやコンビニから水や食品が消え、品薄状態が続きました。もっとも則子さんは、とりあえず米とキャベツや人参などの日持ちする野菜さえあれば何とかなるだろうし、長くは続くないと思っていたので、取り立てて買い物に走らなかったのですが、会社の同僚は自転車で4往復もしたとか。
すごいなぁと則子さんが感心していると、徹さんがスーパーの袋を2つも抱えて則子さんの家にやってきました。
「則子!買えるだけ買い占めてきた!」
「ええ~?」
袋の中は、普段食べたことのないメーカーのインスタント食品や、チョコレート、飴などでいっぱいでした。
「どうするの、これ?」
「非常食だよ!いつものインスタントは全部売り切れだったから、残っているのを買ってきたんだ!」
徹さんは意外に心配性な人だと思う則子さんでした。
また、ある晩、ぐらぐらと大きな地震で目が覚めました。すかさず隣で寝ていた徹さんが、腕を伸ばし、則子さんを抱き寄せました。おお、やるな!と思った則子さんでしたが、次の瞬間、疑問が頭を過ぎりました。
「ねえ、徹さん?」
「ん、なんだい?」
「この体勢だと、上からモノが落ちてきた時、私に真っ先に当たるんじゃない?」
徹さんは仰向けに寝ていて、抱き寄せられた則子さんは、徹さんの上に乗っかっています。どう見ても、天井が落ちてきたら則子さんが先にぶつかるような気がします。
「ま、気にするな」
「いや、気にするよ」
基本、則子さんと徹さんは、ノンキ者ということで。




