スロット
徹さんの趣味の1つは、スロットです。則子さんは、徹さんに誘われて始めたのですが、いまいち好きになれません。音楽は大音量だし、薄暗いし、タバコの煙がモクモクしているし、何より短時間で万単位のお金がなくなっていきます。
もちろん、確変になって大当たりすることもありますが、そこに至るまでの投資額を考えると、決して喜べる金額ではありません。トータルでとんとんなら凄い方で、大抵の場合、マイナスになります。
「あれは確率なんだよ。やっていればいつかは当たりが出る。だから途中で止めたら損なんだよ!」
「でも、今時、確率なんて全部機械が設定しているんでしょ?確かにやっていればいつかは出るけど、出るまでの損失を考えると大して変わらないじゃない」
時々、開店前からお店に連れて行かれ、ご飯も食べずに夕方まで打っていたりすると、不機嫌になった則子さんは、「もう帰る!」と言って徹さんと良く言い合いをしていました。
ある年の大晦日。案の定、開店前から連れて行かれた店で2人で10万ほど使ってしまいました。則子さんはとうとうバカらしくなり、徹さんに「二度とスロットはやらない!」と宣言しました。
その日は、そのまま徹さんを置いて帰りました。
徹さんは、長年スロットをやっているので、1人でやっていると大損はしないのですが、則子さんはいまいちスロットの構造が分かりません。というか、展開が分からないのです。
その時、『銀河英雄伝説』なんぞやっていたのですが、画面が何色だとチャンスだとか、星がいくつ点くと何とかだとか、隣で徹さんから教えてもらってもサッパリ要領を得ません。ふと気付くと6万くらい使っていました。
スロットの資金は、基本的に徹さんのお金でやっていました。けれど、クリーニング店だって、湯水のように儲かる仕事ではありません。徹さんが朝から晩までみっちり働いたお金です。
それが、たったの数時間でなくなってしまったのです。それで得たものと言えば、空腹と眼精疲労、大音量による耳鳴りだけ。だったら高級料理店で6万円のコース料理でも食べるほうが、よっぽど有意義な使い方です。
なにより徹さんが働いたお金を徹さんが使うならまだしも、確実に負けると分かっている則子さんが使うのは申し訳ない気がしました。
次の日、元旦でしたが、徹さんは負けを取り返してくると一人でスロットをしに行きました。そして、更に大負けをし、お店のお金も使い込んでしまったのでした。
「ごめん!4万円だけ貸して!お給料が入ったら直ぐに返すから!」
則子さんは、二度とお店のお金に手をつけないこと、給料が出たら直ぐに取り立てることを約束して徹さんに4万円を渡したのでした。
その後、徹さんは独りでスロットを続け、独自の必勝法を編み出したとか言っていましたが、則子さんが問いただすと、トータルでは、やはりマイナスというのが正直なところのようです。
それでも趣味の範囲でのマイナスだったし、お店のお金に手をつけることはなくなりました。それに、会員カードのポイントで牛肉やカニを貰ってくることもあって、まあ、良いか~と思う則子さんでした。




