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徹さんの引越し

 それから暫らくは、まあ、小さな谷が幾つかあって、それでも比較的、平穏な日々が訪れていた頃、徹さんが喜び勇んで則子さんに告げました。


「すごい出物を見つけた!」

「なに?出物って?」

「ワンルームなんだけど、シャワートイレ付きで家賃35,000円!しかも、則子の家から徒歩5分!」


 則子さんは、突然の話についていけませんでしたが、どうやら徹さんが住む部屋のようです。


「一緒に住むんじゃなかったの?」

「2人一緒に住むとお金がかかるだろ!敷金礼金だってバカらしい!」

「敷金は返ってくるし、安い部屋を見つければ良いじゃない。勿論、貯金が足りないから、今直ぐじゃないけどさ」

「そんなの待ってたら出物が取られちゃうだろ!」


 則子さんの言い分は徹さんに却下されました。ムカッと来た則子さんは、ノートとペンを取り出し、別々に住んだ場合と一緒に住んだ場合の家賃、光熱費、敷金・礼金を書き出しました。


「ね?だから、1年半以上、住めば別々に住むより得になるでしょ?」


 徹さんは無言のままです。


「もしかして、契約してきちゃったの?!」


 相変わらず無言のままの徹さんですが、則子さんには分かりました。契約してお金まで払ったのだと。うぎゃ~っ!


「契約しちゃったんなら仕方ないけど、一言、相談してからにして欲しかったかな」


 無言の徹さん。


「まあ、ここにもずっと住むわけじゃないし、貯金して、2人で住める安くて良い部屋が見つかったら引っ越せば良いよね。一年半以内に引っ越せば無駄にならないわけだし?」

「……ごめんな」

「もう済んだことだから良いよ」


 結局、別々のまま3年住むことになったんですが、まあ、それはそれで面白かったかなと。


 基本的に徹さんの部屋には1口コンロと小さい冷蔵庫しかないので、ご飯は則子さんの部屋で作って食べ、徹さんが自分の部屋に帰るか、則子さんも一緒に徹さんの部屋に泊まりに行くか、はたまた則子さんの部屋に徹さんが泊まるか、3択が選べます。


 後々、振り返って考えると、ずっと一緒に居るのも楽しいですが、2人とも1人暮らしが長かったので、それぞれの時間を持つことも出来たので、悪くはなかったかなと思う則子さんでした。


 もっとも、結果論なので一緒に住んでいれば、それはそれで面白かったかもしれませんけどね。




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