お荷物
それから、クリーニング会社の協力もあって店舗探しが始まり、3軒目にして格安の店舗を借りることが出来ました。小さな店舗ですが、家賃10万円の大通りに面したお店です。場所は、東京の南端、クリーニング工場の近くです。
則子さんは、土日だけ徹さんのお店を手伝うことになりました。元々、土日は会社に出勤して平日2日を休みにあてていたので、土日に出勤できないということは、週3日しか働けないということです。そうなれば、SVの仕事は出来ませんので、受け持っていたクライアントを全て他の人へ引継ぎしました。
徹さんのお店は、当面、お給料は出ません。週3日の勤務では生活が成り立ちませんので、知り合いの紹介でホームページを作成・管理する仕事を頂きました。3足ワラジの生活です。
幸い徹さんのお店は開店早々、順調な出足でした。しばしば、閉店時間を過ぎても行列が絶えず、深夜まで仕事をすることも。そうなると、2人の住まいが問題になりました。徹さんは神奈川の南側、則子さんは東京の北側、お店は東京の南側。つまり、どちらの家からも1時間ちょっとかかるのです。
終電の時間になっても仕事は終わらず、則子さんだけ家に帰り、徹さんは仕事を片付けてから近くのカプセルホテルに宿泊する日々が続きました。
一度、則子さんは仕事が終わるまで帰らないと徹さんに言ったことがあります。
「もう帰れよ。終電に間に合わなくなるぞ」
「2人でやった方が早く済むから残るよ。終電逃したらホテルに泊まるから良いよ」
「ホテル代、いくらすると思ってるんだよ。それより、俺が則子に居られると仕事に集中できないからイヤなんだよ!」
則子さんとしては、慣れない仕事で、分からないことは徹さんに聞くしかありません。したがって、仕事は遅くなるし、忙しい徹さんの手を煩わせた上、間違えることも多く、手伝っているつもりで、足をひっぱっているんじゃないかと不安で仕方ありませんでした。
そんな時に、徹さんから突き放したような言い方をされ、ぶわっと涙が噴出してきました。
「なんだよ、泣くことないだろ!」
則子さんは、自分でもいつから泣き虫になったんだろうと思いました。徹さんと出会ってから、何度、涙が出たことでしょう。それでも、則子さんは泣きじゃくりながら、自分の気持ちを打ち明けました。
「だって私が足をひっぱってる、から、徹さんに迷惑、、、でも、ちゃんとやれば出来るもん!わたし、足手まといじゃない、ひっく、お荷物じゃない、から、ちゃんと出来る、もん!」
徹さんは、じっと則子さんを見つめたかと思うと、ふっと笑ったのでした。
「ごめん。そういう意味じゃなかったんだ。則子に無理をさせていると思うとたまらないんだ」
「大丈夫だもん。と、徹さんを手伝うことが出来るんなら、だ、大丈夫だもん」
「無理しなくて良いんだ。これは俺の仕事なんだから。ほら」
徹さんは則子さんを抱え起こすと、ぎゅっと抱きしめたのでした。




