電車生活
新生活が始まった徹さんですが、一番大変だったのは電車通勤でした。
なにせ子供の頃、家族と電車に乗ったきり。大人になってからは車生活。路線も分からなければ切符の種類も分かりません。
『回数券ってなに?得なの?』
『私鉄の終電がないんだけど、どうしたら良い?』
そんなメールがしばしば則子さんの所へ届きました。また、デートも車から電車になりましたので、待ち合わせが一苦労です。
その年のお盆の時期。小田急線で来るという徹さん。人生で初めてロマンスカーに乗るというので、ロマンスカーのダイヤと便名、待ち合わせ場所に指定した南口改札の行き方もメールで教えました。
そして当日。則子さんが待ち合わせ場所に着くと、徹さんから到着したとのメールが。
『Y(`o´)Y今新宿だがね!どこへ行けば良いんだ?!(;´д`)』
『昨日、メールしたけど、1階の南口改札で待ってるから!』
『西口ロータリーに出ちゃったけど、南口ってどこやねん!』
『え?もう改札出たの?じゃあ、今から西口に向かうから待っててね!』
『お、地図発見!南口が分かったじょ!』
『だめ!動かないで!』
『動くなとな?!Σ('=';)南口の方が近いんだべさ?!(-ω-;)』
『だって、今西口へ向かってるんだから行き違いになるでしょ~?!』
『なんじゃと?!Σ('=';)』
巨大ターミナル新宿の大きさを分かっていない徹さんでした。そもそも、メールで待ち合わせ場所を説明したのに、どうして見ないのか?!西口で待っててと言っているのに、どうして南口へ来ようとするのか?!めちゃマイペースなのは、やっぱりB型だから?!(笑)
ぐるぐる頭の中で独り言を呟きつつ、西口改札へ。ようやく会えた徹さんは、手の中のロマンスカーの切符を見せ、吠えました。
「せっかく切符を買ったのに、誰も見てくれなかったよ!」
まあ、平日のロマンスカーなんて、そんなものですが、あまりにショックな様子だったので、思わず聞き返す則子さん。
「そんなに見て欲しかったの?」
「あったり前田のクラッカー!」
徹さんの能天気な答えに、ぐるぐるしていたもやもやは吹き飛び、思わず爆笑してしまう則子さんでした。
そんなこんなで、ようやく出会えた2人ですが、お腹が空いたという徹さんのために、則子さんの好きなタイ料理の店『バンタイ』へ向かいました。ここは歌舞伎町にある老舗店で、本格的なタイ料理が味わえます。
タイ料理を食べつつ、「この後、どうする?!」と徹さんが聞くので、新宿に詳しい則子さんが、「ボウリングでもビリヤードでもゲーセンでも映画でも何でも良いよ。案内するよ」と提案すると、ちょっと怪訝な顔をした後、「映画を見よう!」とのこと。
ジェット・リー好きの徹さんは「ハムナプトラ3」を見たがったのですが、残念ながら公開前でした。他の上映中の映画には興味がないと言うので、則子さんが「じゃあ私の家に行く?!」と提案すると、またもや怪訝な顔をする徹さん。
「せっかくの新宿なんだから、ぶらぶら買い物しようよ!」とのこと。
外はカンカン照りで暑いし、目的もなくぶらぶらするのは疲れるだけなので則子さんが即却下すると、「キミは、本当に女の子か?!」と失礼な発言が!
どうやら徹さん、今までの経験からデートといえば元カノたちから、「ドコソコ行きたい~!」「買い物したい~!」とねだられ、それに付き合うのがデートと思っていたようです。そうまで言われては、則子さんも買い物しない訳にはいきません。受けて立ちました。(笑)
ちょっと歌舞伎町から離れてるけど…と前置きして向かった先は、西口にあるワシントンホテル。あ、ホテルへ用事ではありません。目指すは地下1階にある『鞍馬』というお店。
ここは三重県鈴鹿市に本店を置くサンドイッチ専門店なのですが、一番の名物は『納豆コーヒーゼリーサンド』なのです。
『納豆コーヒーゼリーサンド』。それは、パンの間に生クリーム、コーヒーゼリー、そして納豆が挟まっている画期的な代物で、則子さんは以前から食べてみたいと思っていたのでした。
往生際悪く店の前でゴネる彼氏さんを言い含め、『納豆コーヒーゼリーサンド』、『ピリ辛オムレツサンド』、『きのこと照り焼きチキンサンド』を持ち帰りで注文。
ちなみに、『鞍馬』さんでは、ちゃんとしたサンドイッチも売っています。どのサンドイッチも具がたっぷり入って美味しいです。機会があればぜひ!お奨めです。
則子さんの買い物に辟易した徹さんは、大人しくなりました。それから、則子さんの家へ向かい、近所のレンタルショップでジェット・リーのDVDを借りたのでした。
『納豆コーヒーゼリーサンド』とDVDを堪能した翌日、則子さんと徹さんは秩父へ日帰り観光に行くのでした。
電車に乗り始めてから分かったのですが、徹さんは、どうやら鉄っちゃん(鉄オタ)の素質があるようです。電車を見るたび、「あれ、何の電車?どこへ行くの?」と則子さんに聞くのです。
秩父へは西武鉄道のレッドアロー号に乗りました。2日でロマンスカーとレッドアロー号制覇!というわけです。ちなみに、則子さんは東京の北部、ほとんど埼玉県に近い場所で育ったので、秩父へは何度も行ったことがあります。
池袋駅のデパ地下でお弁当とデザート、飲み物を買って、いざレッドアロー号へ!
特急が発車して直ぐにお弁当とデザートを食べてしまい、旅行らしい雰囲気だったのですが、ふと気がつくと、徹さんはグーグー寝ていました。徹さんいわく、車窓の風景が普通の住宅地で普通の電車と代わり映えしないから、と言うことでしたが、のちのち徹さんは電車で必ず爆睡することが発覚。
まあ、のんびり寝るのも旅の醍醐味ですけどね。
秩父に着いたのは既に午後で、秩父鉄道のSLは出発した後でした。ちょっと残念でしたが、近くにある長瀞で川下りを楽しみました。船頭さんの漕ぐ10人乗りくらいの船で川下りをし、下流から車で戻ってくる30分コースです。
この日は、たまたま夜にお祭りがあるようで、乗船場へ行くまでに、屋台が軒を連ねています。屋台って見るだけでお腹が空きます。徹さんと則子さんは、焼きそばと鮎の塩焼きを食べながら、河原へ向かいました。
すると、川の真ん中に仮設舞台が出来ていて、近隣住民が全員集まったかのような人込みでした。いっそこのままお祭りを見ようかと思いましたが、徹さんは次の日、仕事なので神奈川へ帰らなければなりません。名残惜しいけれど、人込みを掻き分け、船のある乗船場へ辿り着きました。
船頭さんの掛け声と共に、船は出発し、のどかな景色が、と思いきや、川の両側がキャンプ場になっていて、ずら~っとキャンプを楽しむ子供たちがいる中を船で下りました。歓声をあげるわ、船と並走して泳ぐわ、なかなか賑やかな川下りでした。
帰りは、秩父鉄道から寄居駅へ抜け、東武東上線に乗って池袋へ出ました。1日で西武池袋線と東武東上線を制覇しました。
そして、則子さんと徹さんの鉄オタ旅は、これからも続くのでした。




