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表裏一体

 その後も2人でいっぱい話をしました。


 まず、車とバイクの運転がしばらく出来なくなるということ。運がよければ免許停止、最悪は免許取り消し。もし免許取り消しになると、2年間は免許の取り直しが出来ません。しかも、数十万単位の罰金が発生するし、車は壊れたので修理するか買い替えが必要。いずれにしてもお金がかかります。


 状況次第ですが、バイクショップの仕事は事実上、続けるのが不可能になるとのこと。とりあえず、配送のバイトをしていたクリーニング会社で、工場の仕事に就かせてくれることになりました。


 がっくりと落ち込む徹さんを見て、則子さんは人生の過酷さを痛いほど感じました。徹さんの人生は、積み上げては壊れて、また積み上げては壊れていく、という繰り返しです。バイクレーサーになりたくて断念、素人レースに出ようとして断念し、ようやくバイクショップを開いたものの、また断念せざるを得ない。


 きっと徹さんの中では、自分の人生って何なんだろうって、ものすごい徒労を感じているでしょう。でも、別の見方をすれば、色々な経験ができるということだと思うのです。


 世の中には、一つの事を積み上げて成功する人もいますが、中には自分で積み上げた枠の中にハマって出られない人もいます。


 例えば、作家とか音楽家とか画家とか、大家たいかと呼ばれる人たちほど抜け出せなくなり、アイデアが枯渇して、いつも同じような作風、同じような内容に留まっている人たち。創作意欲も何もないのに、周りが止めさせてくれないし、自分から止める勇気もない。中には自分が創作意欲を失っていることに気づいていない人もいるけれど、気づいて悩んでいる人もいます。


 どちらの人生が良いか悪いかなんて、誰にも判断できません。


 それに、徹さんは不思議な人で、壊れた時に必ず助けてくれる人や手伝ってくれる人が現れます。今回も、バイト先の社長に気に入られて、以前から配送のバイトじゃなくて店長をしないかと勧められていたとのこと。店長になるかどうかはさておき、失業の翌日から再就職できる人って多くはいないでしょう。


 だから、徹さんはラッキーなんだよ、と言ったら、ふっと笑って「則子のプラス思考には脱帽する」と言いました。


 さっきまでの落ち込んだ姿はどこにもなく、ちょっぴりホッとする則子さんでした。



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