犯罪者?!
水曜日。朝の10時を過ぎても相変わらず携帯からはNTTのアナウンスが流れ、家の電話はコールのみです。パニックになりながらも、考えられる状況を想像してみました。
1)月曜日の夜、または火曜日の朝、何らかの理由で電源を切ったまま自宅で倒れている。
2)家族が倒れ、病院へ詰めている為、携帯の電源を切っている。
3)本人が事故にあって病院に担ぎ込まれ、病院関係者に携帯の電源を切られた。
1番は、事故はあっても病気はしない徹さんですから、可能性は低いはず。2番は、火曜日に気が動転して電話できなかったという理由なら分かるけど、水曜日に電話かメールは出来るはず。3番は、一番ありえそうだけど、絶対、あって欲しくない。
因みに、『携帯を忘れた』とか『充電池切れで連絡できない』というのは選択肢から外しました。だって、携帯を自分の家へ取りに帰るか、携帯なしで私の家へ来るか、どちらでも出来る時間は充分にありましたから。
そして、一番可能性は低いけれど、家でじっとしていても埒が明かないので、徹さんの家へ行ってみようと決心しました。自宅で倒れている以外、行っても何も出来ないけれど、居ても立ってもいられなかったから。
とりあえず、夕べから何も食べていなかったので、超簡単『目玉焼きトースト』を作りました。食パンの真ん中を凹ませて卵を割り落とし、オーブントースターで焼くだけ。塩と荒引胡椒をふって完成。フライパンも洗わなくて良いし、油も要らないので、時間がない時や料理したくない時に最適です。
食欲はなかったのですが、途中で則子さんが倒れては本末転倒です。牛乳でトーストを流し込み、出かける準備をしました。もちろん、その間も30分おきに電話とメールを繰り返します。
そして部屋を出て駅へ向かった時、ようやく徹さんから電話が。
「俺。携帯の電源を入れたら、則子の着信が沢山あってビックリした~!」
「今どこにいるの?!」
「あ~ごめん。連絡できなくて。俺さ、ずっと勾留されてたんだ」
え~?!勾留って、徹さん、アナタはもしや犯罪者ですか?!(やっぱり?!笑)
電話で話す内容ではないので、とりあえず、則子さんの部屋へ来ることに。来るなり、お腹が減った~と倒れる徹さんに、作ってあった則子さん特製ロールケーキと牛乳を出しました。
お腹が満たされて落ち着いた徹さんは、ぽつりぽつりと話し始めました。事の始まりは、火曜日の朝。出勤途中、携帯をいじりながら自転車に乗っていた高校生が、前方不注意で徹さんの車の横っ腹に激突。そのままボンネットに投げ出され、車のフロントガラスが大破したそうです。
幸い、高校生はかすり傷程度でしたが、念のため病院へ運ばれ、警察を呼んだところ、徹さんが、駐車違反やら何やら溜まって裁判所から呼び出しを受けていたことが判明。
徹さんいわく。
「通知を受け取った記憶ないんだけど、もしかしたら捨てたのかもなぁ」
「それって、つまり免許停止?!」
「そうそう。だから無免許で運転してた事になっちゃってさぁ。お縄になっちゃったよ」
「……」
「俺、手錠って初めて掛けられちゃった。しかも、暫く『外』とは連絡とれないから連絡したい人はいませんか?!って聞かれてさ」
「……」
「真っ先に則子を思い出したんだけど、あれって自分で電話できないんだって。警察の人が代わりに電話するから、則子が驚くかもしれないって思って断っちゃった」
「確かにイキナリ警察から電話が来たら驚いたかも……でも、連絡ないのも心配するじゃんか~っ!!」
「ごめん」
「とにかく、無事でよかったよ~!!」
またもや則子さんの涙腺からボロボロ涙がこぼれました。徹さんは、ごめんよ、ごめんよ~とオロオロしながらティッシュの箱を探しています。
そんな姿を涙でぼやける視界で眺めながら、やっぱり徹さんと付き合うのは山あり谷ありで、この先も何度も大変な思いをさせられるんだろうなぁと思う則子さんでした。




