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ぷち遠距離恋愛

 則子さんが少し浮上した頃、徹さんからメールが届きました。


『則子!バイトしても良いかな?!』


『何のバイト?!』


『クリーニング店の配送のバイト!短時間で済むからバイク仕事の合間に出来そうなんだ!』


『週に何日くらいバイトするの?!』


『週6日!そこさ、水曜日が定休日だから、則子も水曜休みにしてよ!』


 則子さんは大手の企業で契約社員として働いているので、割合に自分の都合は通せるのですが、間の悪い事に、その前の月にシフト調整をしたばかりだったのです。


 一方、徹さんはバイクショップを自分で経営。則子さんの休みに合わせてデートをしていたので、シフト調整が入った時、それまでと同じく、火・金曜日休みで申請したのでした。それを水曜日に変えるには、他の人のシフトも組み直さなければならず、到底、無理な話でした。


 それをメールで説明したところ、徹さんもガッカリした様子でしたが、『夜、仕事が終わったら車飛ばして会いに行くよ!』とか言い出す始末。


 幾ら隣同士といっても、方や東京の北端、方や神奈川の南端。どんなに首都高を飛ばしても2時間はかかります。お互い、フルタイムの仕事を抱えているのだから、現実問題、そんなドラマみたいな出来事は、まずもって不可能。とすれば、則子さんが有給休暇をとって月1回デートするのが関の山。


 ええ~?!どうなの、それ?!と思った則子さんは、早速、メールで文句を言いました。


『バイクの仕事の他に、週6日もバイトなんてムチャして倒れたらどうするの?!』


『大丈夫だよ。その辺は考えてるし、配達のバイトだから楽そうなんだ!』


『楽だってなんだって、長時間、働けば倒れるに決まってるよ!!』


『大丈夫だって!ちゃんと考えてるから!』


『そんなにお金が欲しいの?!お金なんてなくたって良いじゃん、別に!』


『そんな訳には、いかないよ!則子と結婚するためにはさ!』


『なんでよ?!私だって働いてるし、貯金したいなら結婚してからすれば良いじゃん!』


『だって、則子と結婚したいのに、今のままじゃお金がなさ過ぎるんだよ!』


『結婚しても共稼ぎだから大丈夫だよ、そんなの!』


『そうじゃなくて、俺が則子を養っていけるんだって自信がいるの!』


『なにさ!結婚したいなんていって、家族にも友達にも会わせてくれないくせに!』


 メールの応酬を繰り返した挙句、漸く則子さんは自分の『不安』の正体が分かったのでした。


 本当は、週6日働こうが、長時間労働だろうが、倒れる筈ないのは薄々、どこかで分かっていました。則子さん自身、2~3年前まで丸1日の休みは月2日しかとらず、ヘタすると朝8時から夜中12時まで勤務とか平気でやってましたから。それに、相手の健康を気遣って反対するって、表向き、良い彼女そうにみえるじゃないですか?!(笑)


 でも、本当は、徹さんの口から、「則子の事を家族に話したよ」とか「今度、友達に会わせるよ」という言葉が聞きたかったのです。則子さんばっかり家族や友達に徹さんのことを話していたので、例の『もやもや』が現れていたのです。


 月1日のデート⇒家族に会う時間はない⇒最初から会わす気がない⇒やっぱり騙されてる?!


 そんな感じで、徹さんのバイトが問題なのではなく、家族に紹介して貰えない不安が根底にあったのです。それを、徹さんに説明すると漸く納得できたみたいで、不安にさせてゴメンと謝ってくれました。


 そして、自分が則子さんを養っていける自信がないから胸を張って紹介できないだけで、ちゃんと家族にも友達にも紹介するのは考えてるし、貯金が貯まって自信が付いたら紹介すると約束してくれたのでした。


 こんな風にして、東京と神奈川に住んでいながら、月1回のデートという近距離なのに遠距離な恋愛が始まったのでした。


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