結婚詐欺?!
翌朝、則子さんは轟音で目が覚めました。ガバッと跳ね起き、音の出所を探してみると、なんと徹さんのイビキでした。(笑)
でも、眉間にシワを寄せて、辛そうな寝顔です。ちょっと眉間のシワを撫でてあげると、イヤそうにコロンと寝返りを打つも、全然起きる気配がなく、グースカ寝ているのでした。
何だかヤンチャっ子みたいで可愛い、そう思ったらイビキの轟音も不快に感じなくなりました。父親のイビキは、ガムテープでグルグル巻きにして、粗大ゴミで捨てたくなるほど嫌いなのですが、徹さんのイビキは気になりません。現金なものです。
お父さんゴメン!イビキが嫌いなだけで、お父さんは嫌いじゃないから!
などと心の中で言い訳していると、ふっと母親の姿が浮かびました。母親は、父親がどんな轟音を出していても、すやすや問題なく眠れるのです。慣れってスゴいな~と感心していたのですが、実は則子さんと同じく単なるアバタもエクボだったのかもしれません。
そんな些細な発見でも、徹さんと出会って世界が変わったというか、目からウロコが落ちたというか、すべてが新鮮に思えました。正に人生バラ色という感じです。
しかしながら、山あれば谷あり。タイトルに偽りなしです。(笑)
谷は意外に早くやって来ました。初デートから1週間後、2度目のデートの朝でした。ある朝、則子さんのアパートで遅めの朝食を食べていると、徹さんが、則子さんに聞きました。
「貯金、いくらある?」
朝食のメニューは、ご飯にお味噌汁。焼き魚に、おひたし。納豆と卵。徹さんのリクエストに応えた完璧な和食です。キッチンには、朝日が差し込み、キラキラしています。
則子さんは、聞き間違えかなと思いつつ、キラキラした世界を壊さないよう、ゆっくり理由を聞きました。
「なんで知りたいの?」
「則子の貯金、あるだけ貸してほしいんだ」
これって、もしかして、世に言う、ケッコンサギ、デスカ?!
借金の理由を聞いてみると、仕事上の問題でした。徹さんの仕事は、バイクを修理することですが、壊れたバイクを安く手に入れ、整備や改造をして高値で売ることも含まれます。どこで売るかというと、バイク専門のオークション会場があり、そこに出品するのだとか。
そのオークション会場で出品するには、会員権を購入する必要があり、会員権はランクによって金額が異なります。ランクが異なると、出品料、成約料、手数料などの割合が異なり、ぶっちゃけ、高額な会員権を持っている人は、安い手数料で出品できて高額な成約料が手に入る仕組み。
現在、徹さんが持っているのはC会員。B会員へランクを上げたため、業者へ支払う部品代が足りなくなったということらしい。
「なんで急にランクを上げたの?」
「今年3月まで割り引きで購入できるんだよ。来月になったら正規料金になるから、今じゃなきゃダメだったんだ」
気持ちは分かりますが、資金が無いのに無理をしても意味がありません。そう指摘すると、徹さんはブスッとして反論しました。
「部品代のことは忘れてたんだよ!それさえなければ、問題なかったんだ!」
「じゃあ、来月まで支払いを待ってもらえば?」
「信用問題なんだよ!支払いを遅らせると次回から、ちゃんと部品を卸して貰えなくなるだろ!」
では、手持ちのバイクを売って支払いに当てれば良いと則子さんは考えましたが、徹さんは納得しません。
「今は高く売れないんだよ!バイクは夏が売れるんだ!安値で売ったら損するだろ!」
「部品代も払えないのに損も何もないじゃない!」
「だから、金貸してくれって頼んでるんじゃん!夏に売れたら必ず返すよ!」
「……ちょっと考えてみる」
「頼むよ!あ、俺さ、今日はもう帰るわ!金策に走らなきゃ!」
徹さんは、ドライブデートの予定もキャンセルして、あたふたと帰って行きました。独りポツンと取り残された則子さんは、次から次へあふれる涙を、どうやっても止めることが出来ませんでした。




