その9~ハンナ、前世の記憶を取り戻す~
また思い出に浸りぼぉっとしてると、耳元でエリオットが大声で
「おいっ!何をぼんやりしてるっ!
ダレンに毒が効くか試すぞっ!」
そう叫ぶと、横になって眠るダレンのそばにまた足を踏み鳴らして近づこうとするので、必死で腕にしがみつき
「待ってっ!!
まずは他の人からにしてっ!!
ダレンの目が覚めて本人が了解してからにしてっ!」
そう言い放った私は、すでに絶対ダレンを傷つけない!と決心していた。
私の大切な人を、絶対誰にも傷つけさせないっ!!
激しい感情が胸の奥から湧きあがり、眠るダレンの顔を見つめると、突然、記憶の扉が開いた。
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私の前世は別世界の少女だった。
最後の記憶は日本という国の学校に通う『高校生』だった。
中学から学校にほとんど行くことができず、他の人たちがちゃんと真面目に学校に通ってるのに、共働きの両親がいない昼間に、ひとりで家でゲームしたり動画を見て過ごしてた。
中学校は何とか卒業でき、勉強も独学で何とかなり、ギリギリで高校に入学することができたけど、その高校にも入学式の日以来通うことができなかった。
でもある日曜日、突然、玄関のチャイムが鳴り、お母さんが出てみると休日なのに高校の制服を着た男子生徒が立っていた。
扉を隔てた子供部屋で聞き耳を立ててると、その男子生徒はお母さんに配られたプリントや各教科のノートのコピーを手渡して、
「ノートは僕のメモ程度です。
このURLのドライブに詳しい授業の内容と進捗がUPされてるので、アクセスして読めば、独学でも大丈夫だと思います。
学校アカウントのIDは学籍番号でパスワードは初回はこれで、自分で変更するようにとのことです。
詳しくはプリントに書いてあります。」
とさわやかな声で話すのが聞こえた。
それ以来、毎週彼は授業のメモや連絡事項のプリントを届けてくれた。
彼に、お母さんが質問したことがあった。
「いつもありがとうね。
あなたは学級委員か何かなの?
ご苦労様ね。」
彼の照れたような声が
「いいえっ!
僕も中学はほとんどいってなかったから、気持ちはわかるんです。
高校に行けたらちゃんと通おうと決めてて、行き始めたら楽しくって!
学校にいけない人たちの中にも、楽しいって知らない人がいるなら、もったいないなって思ったんです。」
私は素直に羨ましい、って思った。
自分は落ちこぼれの役立たずだって思わずにすむことに。
学校にいけば、私だって楽しんでもいいんだってことに。
次はちゃんと彼と会って話がしたいって思った。
そして、その日が来た。
次の日曜日、彼がチャイムを鳴らすと、いつもはお母さんが出るのに、私はいつものジャージじゃなくて、ちゃんと外出着のワンピースを着て玄関で彼を出迎えた。
玄関のドアを開けると、彼はビックリしたように目を丸くして
「あっ!…もしかして…華さん…?!
はじめましてっ!
僕、大樹って言います!」
私もペコッと頭を下げて
「よろしくお願いします!
今日は私が連絡を聞きますね。」
二人で何を話していいかわからず、うつむいてモジモジしてると、居間から顔を出したお母さんが
「華っ!上がってお茶でも飲んでもらいなさいっ!」
っていいタイミングで話しかけてくれたので助かった。
緊張で頭が真っ白なまま
「あっ…あがって!どうぞ!」
と案内し、お客様用のスリッパを出し忘れ、気づいたのは大樹が居間のソファに座って、紅茶を飲み始めた時だった。
大樹は私の服装が外出着なのに気づいて、にっこり微笑んで
「いつも家でもそんなに綺麗な恰好してるの?」
恥ずかしくなった私は頬が熱くなりブンブン首を振り
「違うっ!お客様がくるからっ!いつもは上下ジャージなのっ!!」
大樹はハハハッと声を出して笑い
「じゃ僕はラッキーだな!
デートでもないのに華さんのおしゃれした可愛い姿が見れて!」
そうして大樹のおかげで私は学校に行くことができた。
でも、最初は誰に話しかけるのも難しくて、大樹とだけ話してた。
あるときクラスの一軍?一番陽キャな人たちが集まってるグループに大樹は入ってて、部活も班活動も昼休みも放課後も、その人たちといつも一緒にいるって気づいた。
私は相変わらず話せる女子の友達がいなくって、休み時間は持って行った文庫本を一人で読んでる状態だった。
スマホは学校では使用禁止だったから。
『私も同性の友達を作らなきゃ!』
って焦れば焦るほど、話しかけるタイミングを見失って、女子に近づいては黙り込む、を繰り返してるうちに、『変な人』を見る目つきをされてる気がした。
で、やっぱり大樹とだけは会話できて、それ以外は一人で本を読んで過ごすという学校生活を送った。
でもそのうち、大樹が陽キャグループの人たちと会話で盛り上がってるのを見たりすると、嫉妬が抑えられなくなった。
ムカついてたまらなくなって、その場から逃げるようになった。
ついには大樹が近づいてくるだけで逃げ出すようになってしまった。
高校に行くことはできたけど、三年間、誰とも友達にはなれず、必要最小限の会話だけで済ます、
『一人でも平気な孤独な変人』
として過ごした。
二年からはクラスも別々になった大樹とも話す機会もなくなった。
そして卒業式間近な三月。
進学する大学にも合格し、あとは卒業式と引っ越しだけになった私は、感染症の高熱で意識を失った。
病院で治療を受けるも、そのまま帰らぬ人となった。
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前世の記憶が一気に脳内に押し寄せ、ベネディクトやエリオットの前なのに、突然、ボロボロ涙があふれ出した。
ダレンは大樹だ!
顔は全然違うけど、私にはわかる!
あのはにかんだ笑顔、私を見る優しい目、他人を思いやる良い人!の魂は同じ!
このことを打ち明けて、お礼を言いたいっ!
実は好きだったって告白したいっ!!
私は初めて大樹に出会ったときから、ずっと、ずっと片思いをしてた。
私をひとりぼっちの部屋から救い出してくれた、救世主!
彼のことを思い出すだけで、大好き!があふれ出す!
話しかけてくれたのに、無視してごめんね、とか、自分に自信が無くて、あなたに釣り合わないって卑屈になって、あなたを避けて、ごめんねって!
そんな私を救ってくれてありがとうって、ちゃんと言いたい!
エリオットが私の肩を掴んで心配そうにのぞき込み
「大丈夫か?
なぜ泣いてるんだ?
悲しいのか?」
また大樹に会えたことがうれしくて、ちゃんと話せることがうれしくて、うれし涙を流してる私は、ウウンと首を横に振り
「うれしいのっ!
ダレンと話してくるね!
ここで待ってて!」
ベネディクトとエリオットは呆気にとられたように黙り込んでた。
(その10へつづく)




