その1~ご機嫌な旅が一通の不穏な報せで台無しになる~
「この5人の仲間の中に『魔王』がいる、ってこと?」
そう呟き、私はあたりを見回した。
速達フクロウから受け取った急報には
『魔王が我が国に潜入し討伐パーティに加わる予定、と内通者から報告あり。』
とあった。
あたりを見回すと、真っ先に目に飛び込んだのは、三角の耳の先が折れ曲がって垂れた『犬耳』の、獣人少年アル。
持ってきた食糧の黒パンをわき目もふらずフガフガ言いながら必死で食べてる。
その隣には丸メガネをかけた前髪ぱっつんおかっぱ頭の、わがフォルネシア国『最年少魔法学博士』の青年ベネディクトが、食糧の入る空間を減らしてまでもってきた魔法学専門書を読みふけってる。
さっきから木の枝にぶら下がって、
「…ウ゛ンッ!…ウ゛ンッ!…ウ゛ンッ!…」
と唸るような声をあげて懸垂を繰り返し、息を切らせてるのは、鍛え上げた筋肉美が自慢の『最強の戦士』コンラート。
アレ?
ふと疑問に思った私が
「ダレンはどこにいったの?」
独り言を呟きながらキョロキョロあたりを見回しても、さっきまでそこにいた『旅人』ダレンの姿は見えなかった。
我がフォルネシア国を出発しグランヴェル魔国に向かう途中、足を怪我してお腹を空かせ行き倒れそうになってたのを、水と食べ物を与えてベネディクトに治癒魔法で治してもらって介抱すると、
「ありがとうございました!ぜひ魔王討伐を手伝いたい!」
と目を輝かせて懇願されたのでパーティに加えた。
みんなが休憩してる焚火の周りを離れて、ダレンを探すために森の奥に歩き出そうとしたとき、低い鋭い声で
「おいっ!どこ行くんだっ!ひとりで森に入っちゃいけないっ!!」
グイッ!と、私の肩を掴む、骨ばってるけどしなやかで柔らかい手に、引き留められた。
振り向くと、王室執事長かつ私の『専属執事』のエリオットが睨みつけてた。
まっすぐなクセのない黒髪を七三に分け、無造作に見えるよう念入りにセットしたような短髪で、美形な顔の作りを十二分に引き立てるように頬にかかる前髪を顎近くまで伸ばした、見た目よりあざとい20代前後の青年。
幼馴染だから腹の内まで性格を知りぬいてる。
私はフォルネシア国の第三皇女ハンナ。
普段、生活する城では、私はフォルネシア国の第三皇女で、エリオットはその専属執事という身分差のある間柄だから私に対して丁寧な敬語だけど、周囲に大人がいない今みたいな状況では、幼いころに遊んでた時みたいに普通にタメ口。
ほっとくと図に乗って、今みたいにエラソーに私に命令したりもする。
私はムッ!として
「だって!ダレンがはぐれちゃったのよ!
食糧を探しに森に入って迷って帰れなくなってるかもしれないでしょ!
探しに行かなきゃ!」
エリオットは几帳面に剃り整えられた眉を寄せ、不機嫌そうにチッ!と舌打ちし
「あいつはもともと得体のしれない余所者だ!
フォルネシア国の人間かどうかも怪しい。
お前が気にかけてやる必要はない!
で、速達フクロウの報せの内容は何だったんだ?」
急報の手紙を渡すとエリオットはさっと目を通し、緊張したように頬を硬直させ、グッと歯を食いしばった。
「つまり、オレ以外の4人のうちのひとりが、倒さなけりゃならない敵の『魔王』ってワケか。
仲間のふりしてオレたちを欺いてるってことか。
許せねぇな。
早く見つけ出して討伐してしまおう!」
エリオットはそう呟いて、何かに気付いたようにハッ!と目を見開き
「ダレンだっ!
魔王が化けてるのは!
あいつは途中でこのパーティに加わった。
『皇女勇者さま』である君の一存でな!
オレと、アル、ベネディクト、コンラートは国王が認めた魔王討伐パーティだから、素性は確かだ。」
この『魔王討伐パーティ』はフォルネシア国皇女である私を含めて今のところは全部で6人。
出発直後は5人だったけど途中で『旅人』ダレンが加わったので6人になった。
(その2へつづく)




